第309話 マジで強い奴が慢心しなかったら勝ち目なんてない

 勇者とか聖属性魔法とかまじで卑怯すぎると思うんですよね。


 まず第一に魔法陣を描かずに魔法を発動できるってどうなのよ?こちとら、子供の頃から練習して少しずつ魔法陣を描く時間を短縮してきたっていうのにだよ?魔力を練りあげさえすればノータイムで魔法発動。あら便利、お手軽っていいよねー。くそが。

 第二に聖属性魔法ってなんだよ。なんで易々と魔法陣に干渉できるんだよ。俺が使った魔法を馬鹿みたいな火力で吹き飛ばすとかならまだ納得できるって言うのに、根元から消すとかテラヤバス。しつこい頑固汚れにも効くってか?くそが。

 最後に、そんなバカげた力をあのバカはなんで当然のように使いこなしてんだよ。あれか?主人公補正か?伝説の勇者の血でも引いてんのか?俺だってハックルベル出身なんだぞ?もしかして使おうと思えば使えるのか?あっ、なんか使える気が……するわけねぇだろうが。くそが。


 俺の前で悠然と剣を構えるレックスを見る左の視界が赤い。頭から血が流れてきてんのか。ライガの時といい、戦争といい、血を流してばっかだなおい。そろそろ鉄分摂取しねぇと貧血で倒れるぞ。


「こんな程度じゃ終わらねーだろ!なぁ、クロムウェル!!」


 そんなどうでもいいことを考えていたらレックスのやつ、脳筋よろしく雨なんてもろともせずに突っ込んできやがった。いや、それが一番効果的なのはわかってるんだけどさ。こうもバカ正直に向かってくると、ライガを思い出しちまう。あいつは紛う事なき脳筋だからな。俺は迫り来る黄金の剣から身を守るため咄嗟に相棒を前に出す。


「っ!?重っ!!」


 何この一撃!?アロンダイトを持ってる手が痺れたんだけど!!デーモンキラーとかいうあのクソ兵器よりも数段重たいわ!!ハンマーかなんかで殴られたかと思ったわ!!

 俺は無理に踏みとどまることはせず、そのまま勢いを利用して後方へと吹き飛んだ。大事なのは距離を取ることだ。

 アベルの使っていた"魔を滅ぼすものダーティ・ハリー"とフローラさんの"正義の心ブレイブハート"、同じ聖属性魔法で効果も同じようなもんなのに、この"誰がために強くあれオーバーリミッツ"は段違いだ。正直、究極アルテマ身体強化バーストを超えてくるとは思わなかった。辛うじてスピードだけは勝っているけど、それ以外は完全に上をいかれている。剣技で敵わない以上、接近戦はきつすぎるっての。


「少しは加減して剣を振れっての!!」


「無理な相談だ!!」


 休む間も無くレックスが向かってくる。俺は上空へと逃げながら三つの魔法陣を組成した。


「"青の流星ブルースフィア"!!」


 属性は火と風、そして重力。風の支援を受けた炎はその身を青く染め上げ、全てを燃やし尽くす悪の化身となる。結構強い雨が降ってるけど、こいつはそんなちっぽけな水なんて近づいた瞬間蒸発させちまうからな。


「舐めるなっ!!」


 光の翼で空にいる俺を追ってきながらレックスは自慢のエクスカリバーで降り注ぐ大量の青い火球を切り刻んでいく。やっぱあの剣も大概おかしいわ。鉄でできた普通の剣なら溶かすくらいの火力だぞ?だけど、そいつがおかしいのは織り込み済みだ。


「"水蒸気爆発スチームエクスプロージョン"!!」


 "青の流星ブルースフィア"と並行して組み上げていた魔法陣を使って続けざまに合成魔法を発動した。あのリヴァイアサンを倒した代物だ。その威力は折り紙つき。なんのひねりもなく突進してくるなら直撃は避けられねぇだろ。


 一瞬、レックスが目を見開いたのが見えたが、すぐに凄まじい爆発でその姿が見えなくなった。魔法障壁を張ったとはいえ、俺も爆風で吹き飛ばされたわ。自分の魔法ながらすげぇ威力だな。

 これなら防御しててもノーダメージとはいかねぇはずだ。流石に対策を練る時間くらい確保できるだろ。そんな風に思っていた俺は自分の認識の甘さを知る。


「だ、から舐めるなって言っただろうがっ!!」


 至るところから血を流しながら俺の前に現れたレックスは左手を前に出し、エクスカリバーを持っている右手を後ろへ大きく引いた。


「"光煌連剛閃こうこうれんごうせん"っ!!」


 そして、そこから繰り出される光速の連続突き。慌ててアロンダイトを振るうが捌ききれず、エクスカリバーは俺の身体に容赦無く風穴を開けた。


「がっ……!!この……"風爆エア・バン!!」


 半端ない痛みに耐えながら魔法でレックスを吹き飛ばす。この野郎、肉を切らして骨を断ってきやがった。まさかあの破壊力の魔法を見て一切ガードしないとか、我が親友ながら頭のネジが外れていると言わざるを得ない。

 俺は血が吹き出す肩を抑えながら、すかさず魔法陣を組み始めた。今の魔法でも少しぐらいしか距離を取れなかったからな。痛がっている暇なんてねぇ。


「"八岐雷大蛇ヤマタノイカズチオロチ"!!」


 周囲に雷鳴が轟いた。この悪天候にはお似合いだろ。魔法陣から現れた八つの首を持つ雷龍がレックスめがけて襲いかかる。


「ぐあっ!!」


 鋭い牙が奴の身体を貫いた。だが、致命傷には至ってない。その証拠に、レックスの目はまだ死んでなかった。


「こんなんで……やられるかっ!!"焰光乱舞えんこうらんぶ"!!」


 レックスの背後に無数の光弾が出現する。それは無作為に飛び出すと、俺の雷竜を難なく消滅させ、こちらへ襲いかかってきた。


「やべぇ!!」


 かなりの規模で放った最上級魔法クアドラプルをあっさり打ち破ったあの光弾の威力は計り知れん。一発でも食らったら戦闘不能までありえるぞ。

 俺は地上の方へと全速力で飛んでいく。そんな俺をご丁寧に全ての光弾が追ってきやがった。


「ちっ!迎え撃つしかねぇのかよ!」


 覚悟を決めた俺は地面に降り立ち、アロンダイトで迫り来る光弾を迎撃していく。

 やっぱりこいつはやべぇ。斬る瞬間に身体に響く反動が半端じゃない。この数を全部撃ち落とす前に俺の命が地に落ちるっての。


「……鬱陶しいんだよっ!!」


 無詠唱で出来る限りの重力属性魔法を発動させた。俺の思惑通り、軌道が逸らされた光弾があらぬ方向へと飛んでいく。

 襲いくる脅威を振り払い、ホッと息を吐いたのも束の間、いつの間にか地上に降りていたレックスがもう間近まで迫っていた。徹底的すぎんだろ!こいつに慢心とかないのか!?


「休んでいる暇なんかないぞっ!!」


「うるせぇ!休ませろっ!!」


 お前と違ってもやしっ子の俺は体力がねぇんだよ!魔法を一つ撃ったら昼寝する、また魔法を一つ撃ったらお茶を飲む、くらいのスパンが丁度いいんだっつーの!!

 だが、レックスの剣速は明らかに鈍っていた。流石に高威力の最上級魔法クアドラプルが二つも直撃したんだ、当然といえば当然。でも、それは俺にも同じことが言える。


「お前と真正面から斬り合うなんてまっぴらごめんだ!!」


 こんな奴と暑苦しい肉体言語で会話なんてしていられるか!!俺は自分のフィールドに帰るぞ!!

 こっちだってあちこち斬られてるし、お前のやばい突きのせいでかなり深くまで抉られてんだ。痛いどころの話じゃねぇ。

 俺は致命傷だけはなんとか避けつつ、それでも何太刀かは貰いながら魔法陣を組み上げる。


「そう何度も魔法を撃たせるかよっ!!"断光だんこう"!!」


 だが、出来上がる直前にレックスが俺の魔法陣に剣を突き立てた。さっきみたいに消えはしなかったが、俺の魔法陣が見事に歪む。これじゃ、上手く魔法を発動できねぇ!


「バカ野郎!相手が魔法を撃とうとしてるんなら、待ってやるのがバトルのセオリーだろうが!!お前は変身中の相手にも容赦無く攻撃するタイプだな!?」


「バカなのはお前の方だろ!!何でわざわざ待ってやんないといけないんだよ!!つーか、言ってることが意味わからん!!」


 くっ……こいつは本当に何もわかっちゃいねぇ!技を出し合ってこそ戦いは映えるんだよ!

 って、冗談言ってる場合じゃねぇな、これ。そろそろ本格的にやべぇ。何がやばいってレックスから受けたダメージもさることながら、究極アルテマ身体強化バーストを長時間発動していることによる負荷が尋常じゃないって事だ。それでなくても、エクスカリバーとかいう化物剣に対抗するべく、アロンダイトにかなりの魔力を食わせてんだぞ?もう、そんなに長い時間もちそうにねぇ。


 こうなったら無理矢理レックスの隙を作り、大技を一発ぶちかまして終わらせるしかねぇな。

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