第274話 シートを敷くと途端にピクニック感が出る
小屋に戻ると、椅子に座って鼻歌を歌いながら昼ご飯ができるのを待っていたアルカが俺に気が付き、笑顔を向けてきた。
「あっ、パパ!!お帰りなさい!!」
「ただいま、アルカ。マリアさんはいないのか?」
「マリアお姉ちゃんはお仕事に行っちゃったの!」
そっか。しばらく魔族領に来てなかったし、マルクさんと色々話さなきゃいけないことがあるんだろうな。
「なら、今すぐにでも行ける感じか」
「おかえりなさい。もうすぐお昼ご飯ができますよ」
セリスがフライパンを片手に台所から顔を出す。少し考えた俺は台所まで移動すると、セリスに声をかけた。
「お昼ご飯ってお弁当にすることはできないか?」
「え?できますけど……なぜですか?」
「これからピクニックに行こうと思って」
「ピクニック!?」
リビングで俺達の話を聞いていたアルカが目を輝かせながらこちらへ飛んで来る。俺は笑いながらその頭を優しく撫でた。
「もちろん、アルカも一緒にな」
「本当っ!?ピクニック!!早速準備するのっ!!」
嬉しそうにはにかむと、大急ぎでアルカは自分の部屋へと戻っていく。俺はその後姿を微笑ましく見ながら訝しげな表情を浮かべているセリスに視線を戻した。
「それは……ルシフェル様とした話し合いに関係が?」
「まぁ、そんなところだ。詳しい話は後でするからお弁当の用意を頼む」
「わかりました」
セリスは素直に頷くと、てきぱきと料理をお弁当に詰め込み始める。さて、俺も準備を……って、特に用意するものなんかねぇな。手土産とかはいらないだろ。
「お弁当の用意ができました」
「おう。アルカー!行くぞー!」
「今行きまーす!」
俺の声に反応して部屋から出てきたアルカは、可愛いポシェットを肩からかけていた。空間魔法が使えるっていうのに、やっぱりアルカも女の子なんだな。いつの間にかフレデリカからもらった服が何着も部屋の中にあったし。
「よし、転移するから二人とも俺に掴まれ」
「はーい!!」
「……せめてどこに行くのかだけでも教えてほしいのですが」
はしゃぎながら俺に抱きついてきたアルカとは対照的に、渋い顔で俺の腕を掴むセリス。説明するとなると細かい話もしなきゃならなくなるからな。めんどk……時間を浪費してしまう。
「行けば分かるって。……あぁ、一応魔法障壁はいつでも展開できるように準備しておいてくれ」
「え?」
表情が固まったセリスを無視して俺は転移魔法を発動する。
そして、目的に着いた途端背中に感じる凄まじい熱気。予想通りなので、特に驚くこともなく振り向きざまに魔法障壁を展開した。
「すごい炎なの!!」
「な、ななな、なんですか、これは!?」
アルカもセリスも俺と同じように魔法障壁を作り出す。ったく、こいつは……自分の縄張りに何かが来たらとりあえず火を吹くの止めろっつーの。
「おい!ジルニトラ!!俺だ!!」
『む?その声はクロか!!』
視界を埋め尽くしていた真っ赤な炎が消えていく。その代わりに姿を現したのが、堂々たる黒き竜の王様。
「わー!大きなドラゴンさん!!」
「エ、エンシェントドラゴン!?」
あんぐりと口を開けるセリスの隣で、アルカが興奮した面持ちでぴょんぴょんと飛び跳ねている。うんうん、そんなアルカも可愛いぞ、と。
『来るのが遅いぞ!余は貴様が来るのをずっと待っておったんだからな!』
「悪い悪い。色々と立て込んでてな。約束通り俺の家族を連れてきたぞ」
「……普通に話せるんですね」
若干、不貞腐れている竜を宥める俺の隣で、セリスが引き攣った顔で呟いた。俺は咳ばらいをすると、ジルニトラに二人を紹介する。
「この天使は俺の娘のアルカだ」
「アルカです!!よろしくお願いします!!」
『うむ、礼儀正しい子だな。余はジルニトラ。竜の中の竜である』
アルカが元気よく挨拶すると、ジルニトラは身体をわずかに反らしながら、威厳たっぷりに答えた。ヘタレドラゴンのくせに。
「んでこっちが俺の、つ、つ、妻になるセリスだ」
「……セリスです」
やべぇ、妻って言うのすげぇ照れ臭いぞ。当の本人はそれどころじゃないって感じだけど。
『クロの伴侶か……ん?』
セリスの姿を見たジルニトラが不思議そうに首をひねった。
「どうした?」
『いや、なぜかその女を見ていると、身体の芯が疼くのだ。こんな経験は初めてだぞ』
「セリスを?」
俺とセリスが顔を見合わせる。どういうことだ?つっても、ジルニトラ自身頭上にクエスチョンマークを浮かべながら何度も首を傾げているんだから、わかりっこねぇか。まさか竜が悪魔に恋するわけもないだろうし。
『ふーむ……まぁ、いい。セリスとやら、余はジルニトラだ。よろしく頼むぞ』
「こちらこそよろしくお願いいたします」
ジルニトラがまだ腑に落ちない様子で挨拶をすると、セリスが丁寧なお辞儀で返した。よし、とりあえず紹介も済んだことだし、早速本題に……。
「ジルさんはパパのお友達なの!?」
『ん?そうだな。余とクロは絆を確かめ合った真の友である』
「すごいすごい!パパのお友達にこんなかっこいいドラゴンさんがいたなんて知らなかったの!!」
『か、かっこいい?余がか?』
「うん!すっごいかっこいいの!!黒い体も大きな翼も全部全部かっこいいの!!」
『そ、そうか!余はかっこいいのか!!』
アルカにべた褒めされ、満更でもない表情を浮かべるジルニトラ。相変わらずうちの娘は誰とでもすぐに打ち解けてしまうんだなー。そういう所は俺に似ちゃって困っちまうぜ!……虚しす。
「アルカとジルニトラが仲良く話しているみたいだし、腹も減ったし、まずは昼飯食べよっか」
「……そうですね。そして、詳しい話を聞かせていただけると非常に助かります」
セリスが疲れたようにため息を吐く。まぁ、混乱するわな。何にも説明してないし。
俺は苦笑いを浮かべながら、空間魔法からシートを取り出し、地面に敷いた。
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