第205話 友情の形は色々

 あんなにも意気込んで始めたのに、俺のやることはすこぶる地味な作業でした。そらそうだよね、俺にできることなんか地面を砦に耐えられるような地盤にすることだけだ。ギガントは自分達の事をボンクラって言ってたけど、どう考えても俺の方がボンクラだよな。


 ちなみに辺り一帯の地盤はとっくのとうに固め終わった。正直、初級魔法シングルの魔法陣を組成しているだけだから、多分一日あれば国境予定地の地面を全部固められる。でも、それは俺一人の作業になって寂しいから、さっきからずっと俺は石材の上に座りながら巨人達の仕事ぶりをぼーっと観察していた。


 建築を開始して三日しか経っていないというのに、もう既に砦はかなり形を成している。流石は建築のプロフェッショナルだよな。真面目に作業をし続ける巨人達の実直な性格が効いているのもあるけど。


 俺は、自分の作業をしつつ仲間に指示を出しているギガントに近づき、声をかけた。


「かなり立派な砦ができそうだな」


「んだ。いつも以上にみんなが張り切っているから建築の速度も速いだぁ」


 俺は出来かけの砦に目を向ける。短期間で作られたとは思えないほどの大きさと存在感。見張り台もあるし、なんとなく秘密基地感があって男心をくすぐられる。


「やっぱり巨人族はすげぇな。チャーミルの街も奇麗さっぱり元通りになってたしな」


「いんや、今回は指揮官様のおかげにちげぇねぇだ。オラ達だけじゃこんなに上手くはいかねぇだ」


「んな事ねぇって。これが巨人族の力だよ。自信持てって」


 俺がやってたことなんて子供の泥遊びと変わんねぇし。そう考えると、こんなに偉そうにしていることが恥ずかしくなってきた。


「なんか困ってることはないか?今は手が空いているからなんか力になれるかもしれない。つっても、石積み上げるのは勘弁な」


「うーん……とりあえず、今のところはないべぇ。後々、資材が足りなくなるだろうけど、そうなったら取りに戻れば問題ねぇだ」


「資材か……」


 資材置き場に視線を向けると、正方形の石がごろごろ転がっている。まだまだ余裕はありそうだけど、国境線を張るには全然足りないと思う。


「よし、ライガの所に行って石をめちゃくちゃ集めてくるように頼んでくるよ。空間魔法と転移魔法を使えばここに持ってくるのは苦労しねぇし、加工は俺の風属性魔法で何とかなるしな」


 俺の言葉を聞いたギガントは持ち上げていた石材を地面に置くと、俺に笑顔を向けてきた。


「……やっぱりすげぇな、指揮官様は」


「ん?得意分野の違いだろ?俺は魔法陣が使えるけど、ギガント達みたいに重たい石を運んだりするのはできないんだからな」


「いや、それだけじゃねぇべさ」


 ギガントが笑いながら首を左右に振る。


「オラがすげぇと思ったのは仲間がどんどん増えるところだぁ。ボーウィッドにギーにフレデリカ。それに人間嫌いのライガまでいつの間にか仲良くなっていたべ。奥さんはあのセリスだし」


「奥さんじゃねぇけどな」


 そこは譲れない。ほぼ奥さんだけどそれはまだ認めるわけにはいかない。


「ライガだけじゃねぇ、みんな心のどこかに人間に対して不信感を持っていたはずだぁ。それなのに指揮官様はみんなの信頼を勝ち取った……それは本当にすげぇことだべ」


 ギガントから純粋な敬意の気持ちを感じる。あんまりストレートに褒められた経験がないからなんかムズムズするぞ。


「オラは種族にとらわれず、みんなが仲良く暮らせる世界を夢見て魔王軍幹部になっただぁ。頭がわりぃからどうすればいいかわからねぇけど、指揮官様ならやれる気がするべな」


「ギガント……」


「オラも頑張ってこの砦と防御壁を完成させれば、その輪に入ることができるがか?」


 ギガントは親愛に満ちた表情を俺に向けてきた。俺は少しの間ギガントの顔を見つめていたが、視線を外すと隣にある石の壁に手を添え、完成間近の砦を見上げる。


「ならこれは俺とギガントの友情の証だな。これだけ立派ならそう簡単には壊されないだろ?」


 ギガントは一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべ、砦に目を向けた。


「……じゃあ、もっともっと強固にしねぇといけねぇだ。誰にも手出しができないような屈強な砦にするべ」


「そりゃ、頼もしいな」


 俺がニカッと笑いかけると、ギガントも笑顔を返してくる。やっぱりこいつはいい奴だ。


「つーわけで、ちょっとライガの所に行ってくるわ。少しの間、ここを頼む」


「わかっただぁ。オラに任せろ」


 力強く頷くギガントを見送ると、俺は転移魔法でゴアサバンナへと向かった。




 クロがいなくなり、残されたギガントの心は喜びで満ち溢れている。


「友情の証……なんだか照れ臭いべな」


 人間であるクロが他の魔王軍幹部と仲良く話す姿を見て、いつも羨ましく思っていた。その仲間に自分もやっと入ることができた、それは本当に喜ばしいことであった。


「指揮官様の期待に応えねぇといけねぇべなぁ」


 ギガントは自分の顔を思い切り両手で張り、気合を入れる。新たに得た友のために、自分はできることを精一杯しなければならない。


 全身からやる気を滾らし、作業を再開しようとしたその時、何かの気配を感じたギガントは即座にその気配の先へと目を向ける。


「なんじゃ、この不細工な建物は?こんなものを建てていいなど、妾は許可しておらんぞ」


 そこには眉を顰めて砦を睨みつけている、魔女のような少女の姿があった。

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