11.俺が大事なモノを取り戻すまで

第112話 いつもと違うとやる気が出ない

 巨大都市・ジャイアン。ギガントが治める巨人族の街。


 街の説明は……うん、あんまりすることがない。建物とか店とか全然普通な感じだな。デリシアみたいに街の中が料理の匂いで一杯だったり、アイアンブラッドみたいに工場だらけだったり、フローラルツリーみたいにもろ自然だったりはしない。人間界にもありそうなありふれた街並み。


 ただし、でかい。


 家もでかい。店もでかい。売られている商品もでかい。おまけに歩いている奴もでかい。

 

 まさに、巨大都市の名に恥じない大きさ。つーか街の中が広すぎて歩き疲れた。


 それにしても、あれだな。人間の俺が普通に歩いているのに、一切変な目で見てくるやつがいない。大体どの街に行っても最初は避けられたり、奇異な目で見られたりするんだけどな。やっぱり見た目がほとんど変わらないのが原因なのか?


 巨人族は人間をそのまま大きくしたような容姿をしているからな。もしかしたら魔族にしては珍しく、人間に抵抗がない種族なのかもしれない。ギガントも俺を見て嫌悪感を示さなかったしな。


「なぁ、巨人族って……」


 いつもの調子で話しかけた俺はすぐに口を閉ざす。俺は一体誰に話しかけているんだ?知らない街に一人でいるっていうのによ。

 俺は顔を歪めながらポケットに両手を突っ込むと、無表情でジャイアンの街を歩き始めた。


 しばらく行くと、目の前にでかい屋敷が現れる。いや、周りも十分でかいけど、その中でも一際でかい屋敷だ。ギーの屋敷もボーウィッドの家も立派だったからな。やっぱり幹部だったらこれくらい豪華な家に住まないと示しがつかないんだろうよ。魔王軍指揮官のくせにおんぼろ木の小屋に住んでいる奴がいるらしいっすよ?くそが。


 俺は玄関にある車輪のようにでかいドアノッカーを鳴らす。だが、何の反応もなし。ゴンゴンとドアを殴りつけるような音が無情にも鳴り響くだけ。何度か繰り返しても結果は同じだった。もしかして留守なのか?


「おめぇさん、棟梁に用か?」


 ん?なんだ?


 振り返ると、柔和な顔をした巨人族の男が立っていた。俺はドアノッカーから手を放し、その男に近づいていく。


「棟梁ってのはギガントの事か?」


「んだ。棟梁なら街の外れで道路作ってるぞ?」


「道路?」


 確か巨人族は建築関係の仕事をしているんだったな。てっきり建物とか作っているのかと思っていたけど、そういうインフラ的なものも巨人の仕事なのか。


「馬車で荷物を運ぶのに道路が必要だからなぁ。他の街と道路をつなげるために頑張ってんだぁ」


 俺が普通に使っている転移魔法と空間魔法は簡単な魔法陣じゃないからな。両方使えるのは俺が知る限りフェルとアルカとセ……いや、なんでもない。


「そうなのか。その道路作りはどこでしてるんだ?」


「街の北の方だぁ」


 つーことは来た道とは逆か。転移魔法は使えないな。


「ありがとな。助かったぜ」


「なぁに。困ったときはお互い様だぁ」


 巨人の男は笑顔で手を振ってきた。ここまでフレンドリーな魔族は初めてだから、なんか新鮮な気分だな。とりあえず教えてもらった北に行ってみっか。



 最近は転移魔法での移動に慣れすぎているせいか、徒歩での移動がまじ苦痛だわ。おおよそ人間の二、三倍の大きさだからな、巨人は。道もそれに合わせて作られてるからかなり大変だ。

 俺はため息を吐きながら歩き続ける。なんだかやる気が全く出ない。魔王軍指揮官として、魔王軍の幹部と親交を深めなくちゃいけないから来たけど、なんかどうでもよくなってきた。


 二時間近くバカでかい道路を進み、周りに建物も見えなくなってきた頃、沢山の巨人が作業しているのが目に入った。やっと着いたのか……。ギガントから話を聞く前に、もうすでに満身創痍なんだが。


 俺は乳酸でパンパンの足を引きずり、現場を指揮している他よりも一回り大きい巨人に近づいた。


「よぉ、ギガント。精が出るな」


「ん?おぉ、指揮官様じゃねぇべか!こんな所にどした?」


 俺に気がついたギガントが持っていたぶっとい丸太を地面に下ろす。相変わらずのバカ力だな。これを身体強化バーストなしでやってんだから、本気出したら俺の小屋くらいなら持てるんじゃねぇ?


「魔王様から聞いていないか?俺が視察に来るってな」


「あぁー、そんなこと言われたなぁ。オラすっかり忘れてたぞ」


 ギガントが恥ずかしそうに頭を掻く。やっぱりギガントはいい奴そうだ。


「思い出してくれればそれでいいぞ」


「すまねぇなぁ。それで視察っていうのは一体何すんだぁ?」


「そうだな……巨人の仕事ぶりとかを確認するんだけど……」


 俺は周りに目を向ける。和やかな雰囲気で全員が道路作りに汗を流していた。サボっている奴も、嫌々働かされている奴もいるようには思えない。


「問題なさそうだな」


「オラたちは真面目なのが取り柄だからなぁ」


「その取り柄は是非大事にしてほしいな」


 単純なことだが、真面目でい続けるっていうのは難しいことだからな。変わり者の多い魔族の中では貴重な存在だ。


「あとは街の抱える問題なんかを解決策を模索したりするんだが」


「街の問題かぁ……」


 ギガントは腕を組みながら唸り声をあげる。パッと問題が出てこないっつーことは平和な街ってことなんだな。


「うーん、今は思いつかんなぁ」


「そうか。また様子を見に来るから、なんか問題があったら教えてくれ」


 問題がないっていうなら仕方ない。この街で俺ができることはないってことだ。さっさと転移魔法で帰ろうとする俺にギガントが何気なく声をかけた。


「そういえばセリスは一緒じゃないのかぁ?」


 その言葉に俺の魔法陣を作る手がピタリと止まる。


「…………あいつはいない」


 呟くように言うと、ギガントの反応を見ることもせずに、俺は即座にこの場から転移した。



「いやー!みんなで囲むご飯は美味しいですね!!」


「……そうだな」


「こ、このから揚げどうですか!?あたしが一から作ったんですよ!!一からって言っても鶏から育てたわけじゃないですけどね!!ははは……」


「…………」


「ア、アルカ食べてるかー?たくさん食べないと大きくなれないぞ?」


「……うん」


「…………はぁ……」


 マキが諦めたように口を閉ざし、自分のご飯に箸を伸ばす。こうやって朝飯と夕飯を運んでくれるのは嬉しいんだが、できれば静かに食事をしてほしいもんだ。


 特に会話もなくご飯を食べ終えると、使った食器を持ってマキは城へと戻っていく。俺とアルカが気のない感じでお礼を言うと、困ったように笑っていた。なんとなく申し訳ない気持ちになってくる。


 そして、食事が終わるとすぐにアルカは自分の部屋に籠るようになった。と、言うよりもご飯を食べるとき以外、アルカは殆ど部屋から出てこない。

 なんだかアルカと疎遠になってしまった気がするな。何とかしないといけないと思ってはいるが、かける言葉も見つからないし、そもそも話す気分になれない。


 なんだか、色々どうでもよくなってきちまったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る