第108話 生き埋めってめちゃくちゃ怖い
「おいおい!なんだあの魔法は!?あんなの見たことねぇぞ!?」
ギーが慌てふためきながら、セリスとフレデリカに目を向ける。幹部の中ではピエールを除けばこの二人が魔法陣に精通しているため、説明を求めたのだ。
だが、セリスもフレデリカも大きく目を見開いて、砂に埋もれていくリングを見ていた。
「あれは……一度クロが使っているのを見たことがあるわ。確か、合成魔法とかいうやつでしょ?」
「え、えぇ。確かクロ様オリジナルの技術です。ですが、アルカはまだ使えないはずなんですが……!?」
明らかに動揺しているセリス。その間にも、フェルの魔法障壁によって行き場を失った砂が高く積もっていった。
「……これはまずいじゃないか……」
いつもは冷静なボーウィッドの声にも焦りの色が見える。観客達にもどよめきが走り始め、会場全体に不穏な空気が流れた。
「このままじゃ……!!」
いてもたってもいられなくなったセリスが立ち上がり、リングへと飛び込もうとしたのを、ギーが止める。
「離してください!!」
「セリス!!落ち着けっ!!ルシフェル様の魔法障壁があるんだぞ!?それにそいつを破っちまったら砂があふれ出して、この辺一帯大惨事になっちまう!!」
「ですがっ!!アルカがっ!!クロ様がっ!!」
パシンッ!!
気が動転しているセリスの頬を、フレデリカが容赦なくひっぱたいた。茫然と自分を見つめるセリスに、フレデリカは厳しい目を向ける。
「あなたが取り乱してどうするの?」
「…………」
「指揮官の秘書なんでしょ?だったら、クロの事を信じなさい」
セリスはフレデリカの身体が震えていることに気がつく。おそらくフレデリカも同じ気持ちなのだろう。セリスは表情を引き締めると、フレデリカに頭を下げた。
「ありがとうございます。少し落ち着きました」
「……分かればいいのよ」
フレデリカはすぐに顔をそらし、リングの方へと目を向ける。もう大丈夫だと判断したギーはゆっくりとセリスの身体を放した。
「クロ様……」
首からかけている青いネックレスをギュッと握りしめる。セリスには祈ることしかできなかった。
*
「アルカっ!!!」
口に砂が入ることもお構いなしに声を張り上げるが、返事はない。周りの砂が音を遮断しているせいで何にも聞こえないんだよ。それに、砂のせいで身動きが全然とれねぇ。
「こいつは本格的にやべぇな……とにかく、アルカを探さねぇと……何か方法は……」
必死に頭を働かし、あることを思い出した俺は右手を力強く握った。その瞬間、現れる黒刀。
「先輩!力を貸してくれ!!」
魔の森でアルカの居場所を教えてくれたのはアロンダイトだ。ならば、今回もそれが可能なんじゃねぇか?
俺の期待に応えるように、アロンダイトが俺の右腕を引いていく。俺は導かれるままに、アロンダイトを持ったまま流砂のプールを泳いでいった。
どれくらい進んだだろうか、最早上に進んでいるのか下進んでいるのか、皆目見当がつかない。だが、砂の流れが強くなってきているというのは、アルカの魔法陣に近づいてきている証拠だ。
と、必死に砂の中をかき分けていくと突然、球体の空間に出る。そこには、砂を吐き続ける魔法陣と、倒れているアルカの姿があった。俺は慌ててアルカのもとに駆けよる。
「アルカっ!!」
そのまま抱き寄せ、アルカの容態を探った。この不可思議の空間のおかげで、砂を飲み込んでいるわけではないし、急激な魔力消費で気絶しているだけのようだ。まじでホッとした。
とりあえず、最悪の事態だけは避けれたが、問題はこいつだな。俺は機械的に砂を生み出している魔法陣に目を向ける。
フェルがリング一帯を魔法障壁で囲っているおかげで外には被害が出ていないが、そのせいで外に転移できなくなってんだよな。それに、この魔法陣はアルカの魔力をエサに動いてるからな。このまま放っておけばアルカの魔力が枯渇して、やばいことになる。
通常、俺の元いた世界では、魔法陣を暴走させた者の魔力回路を切ることで、その魔法陣を消していた。当然、魔力回路を切られたものは、もう二度と魔法陣を組成することはできない。俺はアルカにそんな重荷を背負わせたくねぇ。
「そうなると……こいつを破壊するしかねぇよな……」
いやぁ……それはきつくねぇか?魔力回路を切断するのも、魔法陣自体に干渉したら危険だって理由だし、どこぞの間抜けな研究者が、他人の魔法陣に干渉して研究所を吹き飛ばしたって話も聞いたことあるしな。
って言っても、もう時間もねぇぞ。このままだとこの魔法陣がアルカの魔力を食い尽くしちまう。かといって、そんなリスクの高い方法をとって万が一失敗してアルカを巻き込んだら……。
くそっ!!アルカがいなければ、間違いなくこの魔法陣に干渉してやるのに!!
俺が思い悩んでいると、再び腕が引かれる感覚が走る。気になった俺がアロンダイトに目を向けると、その剣先が魔法陣へと向かれていた。
「お前……いけるのか?」
俺の言葉に何の反応も示さない。ただ、その刃をうち滅ぼすべき対象に向けているだけだった。
「はっ……それなら、付き合ってもらうぜ!相棒!!」
俺は最大限の魔法障壁を腕の中にいるアルカの身体に纏わせる。これなら、最悪な事態になってもアルカの身体が守られる可能性が残るだろ。
俺は左腕にアルカを抱き、右手でアロンダイトを握り、そこに浮かぶ三つの魔法陣を見据える。
そして、覚悟を決めるとアロンダイトを横一閃に薙ぎ払った。
真っ二つに分かれる魔法陣。俺はアロンダイトを身体に戻すと、守るようにアルカを抱きしめる。
俺に斬られた三つの魔法陣は音も無く霧散し、俺達を囲っていた砂が夢から覚めたように消えていった。
暗闇になれていたせいか、突然差し込んだ日の光に目がくらみながら、俺は腕の中にいるアルカに目を向ける。今は幸せそうな顔をして寝息を立てていた。
俺はそのままゆっくりと玉座に視線をやると、フェルは笑顔で頷き、高らかに勝者の名前を口にする。
「勝者!ミスターホワイト!!」
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