第109話 スポーツ観戦とかしてたらやりたくなる
ふぅ、なんとかなったけど普通にやばかった。今度しっかりとアルカには合成魔法を教えてやらないと。こればっかりは一度見たらってもんじゃねぇからな。……っと、この腕の中で寝ているお姫様はどうするかな?
俺は観客席を見回し、セリスの姿を見つけると転移魔法でそこまで移動した。おっと、今は悪魔族なんだった。危うく普通の調子で話しかけるところだったぜ。
「セリス様のお仕えする指揮官様の子を危険にさらし、申し訳ありませんでした」
「……本当です。もし、クロ様があの戦いを見ていたら激怒されたでしょう」
うん、俺もそう思う。散々煽って、暴走させるとか、死を持って償わせるレベルだわ。
「ちなみに、私も激怒していますから」
……やべぇよやべぇよ。久しぶりにマジギレセリス様だよ。こりゃ、大会が終わったら覚悟するしかあるまい。
俺は深々とお辞儀すると、再びリングへと舞い戻った。そこにはなぜかニコニコと笑っているフェルの姿が。……猛烈に嫌な予感がしてまいりました。
「おめでとう!ミスターホワイト!!みんな!今大会の優勝者に盛大な拍手を!!」
会場が割れんばかりの拍手の渦に包まれる。アルカとの白熱したバトルがよかったんだろうか、みんな笑顔を向けてくれてんな。
「さぁ、大会の優勝者には素敵な商品が用意されているよ!!」
あ、そうなの?まぁ、大会っていったら豪華賞品が付きものか。別にそれが狙いってわけじゃなかったけど、もらえるもんはもらって───。
「なんと、優勝者には僕と戦う義務が授与されます!!」
…………は?
「というわけだけで早速始めたいんだけど、いいかな?」
戦う義務?権利ですらないんですか?強制イベントですか?
悲しいかな、我らが魔王様が戦うということで会場は異常な盛り上がりを見せているんですが。
素敵な笑顔を浮かべる魔王様。完全に顔が引きつっている俺様。
空には暗雲が立ち込めていた。
いや、不吉の予兆とかいらないから!そもそも、予兆じゃなくて、もう不吉なことが起こっちゃってるから!!
*
突然のルシフェルのバトル宣言に、幹部席も盛り上がりを見せていた。
「なんか面白いことになってきたじゃねぇか!なぁ、ボーウィッド?」
「……兄弟と魔王様か……常識的に考えたら魔王様だが……」
「なんかあいつには期待したくなるんだよなー」
これから始まる出し物を前にテンションの上がる二人とは対照的に、美女二人は深刻な表情を浮かべていた。
「まずいですね……」
「まずいわね……」
これがクロの本気を見た者と、見たことがない者の差。クロが強いという認識しかないギーとボーウィッドには、まだ事の重大さがわかっていない。
「とりあえず魔法障壁を……」
「私達二人だけであの二人の攻撃を?無理に決まってるわ」
そう言いながらも、セリスの作った魔法障壁に、フレデリカが自分の魔法障壁を重ねる。
「ギー!ボーウィッド!!あなた達も魔法障壁張るの手伝いなさい!!」
「は?お前たちだけで十ぶ」
「いいから言う通りにしてください!!」
フレデリカもセリスも、差し迫った表情で言ってくるので、ギーとボーウィッドは渋々といった様子で、適当に二人の魔法障壁に自身の魔力を重ねた。
それを待っていたかのように、リングにいる二人が動き出す。
ドゴォォォーン!!!
「なっ!?!?!?!?」
ギーが唖然とした表情を浮かべ、隣ではボーウィッドが息を呑む。そして、闘技場を囲う魔法障壁に、本腰を入れて魔力を注ぎ始めた。
ルシフェルとクロは別に魔法を撃ちあっているわけじゃない。ただ己の肉体を強化し、拳を交わしているだけ。だというのに、二人の拳がぶつかった衝撃で、本気ではないにしろ幹部四人がかりで張っていた魔法障壁が破れかけたのだ。
「お前らが言っていた意味が分かった。こいつはやべぇな」
「……兄弟の力……これほどか……」
今も殴り合っているだけなのに、油断すれば魔法障壁が持っていかれそうになる。ギーもボーウィッドも真剣な表情を浮かべ、魔法障壁に全神経を集中させていた。
「まだこんなもんじゃないわね」
「えぇ。二人とも魔法を使っていませんから」
「これ以上はもたねぇぞ!?」
「……会場の者達を避難させた方が……」
「お困りのようだな」
セリス達が真剣に話し合っていると、黒いマントをたなびかせながら、一番前に立ったピエールがおもむろに手を前にかざす。その瞬間、揺らめいていた魔法障壁が、二人の衝撃を受けても微動だにしなくなった。
「ピエール……助かるわ。流石はヴァンパイアね」
フレデリカが汗を垂らしながら、ピエールに笑いかける。当の本人は歓喜の表情で二人の戦いを見ていた。
「これぞ神話に語り継がれる戦い。生き証人として、ここにいる者達はあの二人の戦いを見届ける義務がある!」
突出した実力の持ち主であるピエール。だが、中身は少々残念なままだった。
*
俺とフェルは
「驚いたね。出会った当初はそれでも僕の
それって
現に殴られているが、俺の方が押している。魔王様の
「……魔法障壁にピエールが混じったみたいだね。これなら少しは本気出せるかな?」
「本気?魔法でも撃って来るのか?」
それならそれを打ち破るだけだ。あれ?もしかして俺って魔王様より強いんじゃね?
「……成長しているのが自分ばかりだとは思わないことだね」
そう言うと、フェルの
「魔族領でいろんなことをやらかす君を見ていたら、柄にもなく自分を鍛えたくなったんだよね」
笑顔で施す魔王様の超絶無理ゲー、
「反則だろ!?」
「この状態ならクロの
「試すか、バカ!!」
一つ一つの動作が早すぎて、転移魔法を使わないと避けきれっこない。しかも、その拳圧だけで普通に切り傷とかできるから、直撃したら木っ端みじんだろ!!
「"
とりあえず、自由に動ける態勢を作っておく。地に足なんかつけてたらとてもじゃないが間に合わん。
「どうしたの?全然攻めてこないじゃん!」
「うるせぇ!!だったら少しは攻撃の手を緩めやがれ!!」
「ははっ!それは無理な相談だね!!」
フェルが攻撃の手をさらに加速させる。くっ……これは捌ききれんぞ!つーかこいつ、猛攻しかけながら魔法陣を構築してねぇか!?まずい!一旦距離を取らねぇと!
俺は思い切って、魔法障壁で囲われている上空の限界まで転移する。だが、それは選択肢として最悪だったみたいだ。
俺が下に目を向けると、魔法陣を完成させたフェルが不敵な笑みを向けていた。
「クロの
フェルが作り出したのは
「さぁ、これをどう料理するか楽しみだ。“
六つの魔法陣から放たれたのは透明のレーザー。全てが俺目がけて飛んできている。とりあえず躱すしかねぇぞ、これ!!
俺が無茶苦茶な軌道で旋回しまくってるっつーのに、このレーザー、ご丁寧にも一本一本に追尾機能がついてんな!!不規則に動きながら、いつまでも俺を追ってきやがる!!
試しに一本だけレーザーを魔法障壁で防ごうとしたんだが、威力が半端ない。
「なんかシューティングゲームをやっているみたいだよ!」
俺が必死に飛び回っているっつーのに、フェルの野郎は地上でニコニコしながら、俺の慌てっぷりを楽しんでやがる。くそが。
なんとか反対属性の魔法をぶち当ててやりてぇが、このレーザーどいつもこいつも同じ見た目なんだよ!多分、それを防ぐためにフェルの野郎が色をなくしたんだろうな。
おまけに軌道がぐちゃぐちゃだから、どの魔法陣から出ているレーザーかもわからない。魔法陣から属性を把握するのも無理ってわけだ……まじ性格悪すぎ冷酷残虐くそ魔王が!!
「やべぇやべぇ!!まじでやべぇ!!」
じっくり止まって対策を考えたいのに、それもできねぇ!俺が超高速で飛んでるから当たらないだけで、このレーザー追尾速度も半端ない!一ヶ所に留まるもんなら、一気に六本のレーザーが襲い掛かってきて、一瞬のうちに蒸発しちまうよ!
選択肢は二つ。
このままフェルに攻撃を仕掛けるか、このレーザーをどうにかするか。
前者は肉を切らせて骨を断つって感じだが、肉を切らせて骨も断たれる気がしてならない。これは本当に最後の手段にしておこう。
後者の方は、方法がないこともない。だが、こんな必死に逃げ回りながらできるのかと聞かれると、うんとは言えない。それに、あまりいい手段とは思えない。最悪、俺もフェルも吹き飛ぶ可能性が……。
なんかどちらにせよ、肉を切らせて骨を断つになるな。なら、俺の好み的に後者の方だ。
俺はフェルのレーザーを躱しながら、集中力を高めていく。俺のやることに気がついたフェルが、ニヤリと笑みを深めた。
「まさかそれが可能なのかい?……だとしたら最高だよ!!」
“
本来、魔法陣の組成には多大な集中力を必要とする。だが、慣れてくれば並行的に、例えば殴りながら魔法陣を組成することは可能だ。しかし、俺みたいに全力で飛行し、なおかつ敵の魔法から逃げている状態では、碌な魔法陣は組成できない。
でも、俺は魔法陣の組成を試みる。十八番の重力属性、
ほとんど感覚でレーザーを躱しながら、頭の中に魔法陣を思い描いた。複数魔法陣を全部頭の中で作るのは初めてだ。しかもこんな切羽詰まった状況で。普通だったら出来っこねぇよ。
だけどな、フェル。俺は魔法陣に関しては誰にも負けたくないんだよ。
フェルは瞬時に
「“
重力属性の合成魔法。極限まで凝縮された黒い球体が俺の魔法陣から射出される。その瞬間、フェルの放った六つのレーザーが俺を追うのを止め、一直線にふよふよと漂う黒い球体に向かっていった。いや、引き寄せられていった。
そして、一本また一本とレーザーを飲み込んでいく。レーザーを吸収するたびにその身を肥大化させ、六本全てを取り込んだ時には、俺が生み出した時から何十倍にも膨れ上がっていた。フェルはその様を、汗を垂らしながら半笑いで見ている。
俺は地上に転移すると、喉がはち切れんばかりに叫び声を上げた。
「フェル!!!!全力で魔法障壁を張りやがれぇぇぇぇ!!!!」
「っ!?そういう魔法なのね!!!」
フェルに向かって叫び声を上げながら、会場と自分に対して魔法障壁を展開する。それを見たフェルが、何の迷いもなく同じ動作をした。
フェルの魔法障壁が張り終わった瞬間、たらふく栄養を蓄えた“
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