第26話 お弁当を届けに行くの!
アルカの名前はアルカ!
魔族の悪魔、その中でも「めふぃすと」って種族なの!
アルカはまだ種族とかよくわからないんだけど「めふぃすと」は魔法が得意なんだって。
ルシフェル様もパパもアルカの魔法陣を見ていっつも褒めてくれるんだ!でも、二人の魔法陣は凄すぎてアルカなんて足元にも及ばない。いつか二人と同じくらい魔法陣が上手くなりたいなぁ……。
あっ、ルシフェル様っていうのは、みんなからまおー様って呼ばれてるとっても偉い人なんだ!魔族の中でも一番偉いんだってー!だけど、いつもアルカと遊んでくれる優しい人!アルカの友達!
そんなルシフェル様に仕えてるのがパパなんだ!
パパは「まおーぐんしきかん」なんだって。お城で働いているマキちゃんから教えてもらったんだ!とっても偉い人なんだって!やっぱりアルカのパパはすごい!
……でも、アルカのパパは本当のパパじゃないんだ。
アルカの本当のパパとママは悪い人達に殺されちゃった。
とっても悲しくて、とっても辛くて……あの時はもう生きていくのがどうでもよくなっちゃったな……そんなアルカを助けてくれたのがパパとママ!
ママは本当に美人!アルカはあんな綺麗な人初めて見た!
とっても優しくて、いつもアルカを膝にのせて頭を撫でてくれる。なんかふわふわして暖かくて、アルカはその時間が大好き!
でも、パパとママはパパとママ同士じゃないんだ。一緒にいる事が多いけど、一緒に暮らしてはいない。なんか「ふくざつなじじょー」があるらしいんだけど子供のアルカにはよくわからない。
いつか本当にパパとママになって欲しいなー。
今のパパとママも、本当のパパとママと同じくらいアルカを大切にしてくれてる。だからアルカはちっとも寂しくない!
最近はお仕事が忙しいみたいで前みたいに一緒にいる時間が少なくなっちゃったけど、全然平気!夜になったらパパとママが帰ってきてたくさん甘えられるから!
……でも、やっぱり二人が帰ってくるまでは少しだけ寂しい。
✳︎
今日も二人は朝ご飯を食べたらすぐにお仕事に行っちゃいました。
今パパとママが行っているのは「あいあんぶらっど」って街らしいんだ。大きな建物がいっぱいあって、鎧さんが沢山いるらしいんだ!動く鎧さんとかアルカ見てみたい!
仕事がひと段落したらアルカの事を連れて行ってくれるってパパが約束してくれたからすっごい楽しみ!早くお仕事終わらないかなー。
二人が出て行ってからやる事が無く、ずっと布団の上でゴロゴロしていたアルカにも流石に限界がくる。
「うーん……なんか飽きてきちゃったな。ルシフェル様の所に行こうかな?」
そう呟くとベッドからむくっと起き上がり、足早にリビングを横切ろうとしたアルカはテーブルの上に二つの包みがあることに気がついた。
「あれはパパとママのお弁当……忘れて行っちゃったのかな?」
トテトテとテーブルに近づきお弁当を手に持ちしばらく思案顔を浮かべる。パパもママもお弁当が無くて困ってるよね……もしかしたらお腹が空いて泣いちゃってるかも。
「そうだ!アルカがお弁当を届けてあげよう!」
それならパパとママはお弁当を食べられるし、アルカはパパとママに会える!そうと決まれば早速行動しなきゃ!
アルカは大事そうに二つのお弁当を両手で抱えると、魔王城の方へと走って行った。
✳︎
「えっ、アイアンブラッドの場所?」
アルカがやって来たのは魔王城の給仕室。アルカの目の前には黒と白のメイド服を来た若い魔族の女の子がいた。
「うん!マキちゃんなら知っていると思って!」
「そりゃ知ってるけど、聞いてどうするの?」
うっ、これは困る質問。パパとママから城から出てはいけないって言われてる事をマキちゃんは知っているから、二人に会いにいくなんて言ったら絶対止められちゃうよね。ここは誤魔化すしかない!
「アルカはいつもパパとママに向かっていただきますをしてるの!だからパパとママがいる方向がわからないといただきますができないの!」
上手く誤魔化せたかな?なんかマキちゃんが目を白黒させているみたいだけど。
「うーん……子供の考えていることは全然わからん!まぁでもそういうことなら」
マキちゃんが苦笑いをしながら指をさす。
「アイアンブラッドの街は魔王城から見てちょうど北東にあるよ!アルカの小屋からそのまま右側を向けばいいかな……右はわかる?」
「お茶碗を持つ方!」
「……アルカはサウスポーだったね!その通りだ!えらいぞ!」
えへへ………マキちゃんに褒められちゃった。でも、嘘ついちゃったから少しだけ申し訳ない気持ちがあるよ……マキちゃん、ごめんなさい。
「ありがとうマキちゃん!これでパパとママに手を合わせられるよ!それじゃあね!」
でも、これでパパとママがいる方向がわかったから会いに行ける!待っててね!今お弁当持っていくから!
パタパタと音を立てながら走り去っていくアルカの背中を見ながらマキは首を傾げた。
「なんでアルカはお弁当を二つも持っていたんだろ……?」
うーん、と唸りながら頭をひねるが答えは出そうになかったため、マキは気を取り直して自分の仕事に戻った。
✳︎
「あっ……」
今日の料理はパスタを大量に仕入れて来たので、トマトをふんだんに使ったペスカトーレ。それを調理していた最中、セリスが間の抜けたような声を上げる。
「ん?どうした?」
隣で野菜を切る練習をしていたクロがその声に反応し顔を上げた。
「お弁当を忘れました……」
「よし、俺に任せろ。すぐにとって来てやる」
すぐに包丁を置いてこの場から立ち去ろうとするクロを、セリスは怖い顔で睨みつける。
「ダメです。あなたは家に帰れば確実にアルカと過度なスキンシップをはかりますからね。すぐに帰ってこないことは目に見えています」
「ぐっ……」
完全に図星であったようでクロは悔しげにセリスを見ながら口をつぐんだ。
セリスはエプロンを外すと、今日も手伝いに来てくれているアニーに申し訳なさそうに向き直る。
「アニーさん、すみませんが少しだけ外してもいいでしょうか?」
「……大丈夫です……私のことは気にせず…………行ってきてください」
「ありがとうございます」
セリスはお礼を言うと恨めしそうにこちらを見ているクロを無視して、さっさと転移魔法で小屋へと戻った。
小屋に着いたセリスは、早速お弁当が置いてあるであろうリビングへと向かう。しかし、リビングのテーブルの上には何も置かれていなかった。
「おかしいですね……アルカなら場所を知っているでしょうか?」
セリスがアルカとお弁当を探して家の中を駆け回る。が、どちらも一向に姿を現さない。なんともいえない不安感がセリスに襲いかかる。
「……城にでも行っているのでしょうか?」
胸騒ぎを抑えつつ、セリスは小屋を出て足早に魔王城の中へと移動した。
城の中は清掃タイム中なのか、かなりバタバタしていた。そんな中、セリスはアルカの姿を探していると、見知った顔が目に入り、声をかける。
「マキさん」
「あっセリス様!どうかされたんですか?」
マキは箒で床を掃く手を止め、セリスに笑顔を向けた。明るいで有名な女中のマキは誰にでもフレンドリーな態度で接する女の子。そのため、城にちょくちょく遊びに行っていたアルカととても仲がいい事をセリスは知っていた。
「お忙しいところすみません。アルカを見ませんでしたか?」
「アルカ……ですか?朝に一度見たきり見てないですね」
「そう……ですか」
マキならば何か知っているのではないか、と思っていたセリスは困り顔で自分の頬に手を添える。そんなセリスをマキが心配そうに目を向けた。
「アルカに何かあったんですか?」
「何かあったっていうわけじゃないんですけど……」
セリスが微妙な表情で口を濁す。この胸に渦巻く不安をマキにうまく説明することができない。
「今日はお弁当を忘れてしまって、それを取りに戻ってきたら姿が見えなかったんです。なんとなくそれが気になってしまって……」
「お弁当……」
「クロ様に心配症だって注意しておきながら私も人のこと言えませんね。お忙しいところを邪魔して申し訳ありませんでした」
「ま、待ってください!」
踵を返そうとしたセリスをマキが慌てて呼び止めた。
「なんでしょうか?」
「朝、アルカがあたしに会いにきた時お弁当を二つ持っていました!」
「えっ?」
「それにあの子、あたしに変な事を聞いてきたんです!アイアンブラッドの場所はどこかって!」
「それって……」
セリスの頭の中が真っ白になる。何故か二つ持っていたお弁当、そしてマキに尋ねた私達の居場所。この二つから導き出される答えをセリスは恐ろしくて考えられなかった。
「どうしよう……あたしが軽はずみにアルカの質問に答えちゃったから……」
マキもセリスと同じ結論に至ったのか、身体をぶるぶると震わせている。セリスはそんなマキの肩に優しく手を置いた。
「マキさん……あなたは何も悪くはありません。気に病む必要はないですよ」
「セリス様……」
マキが泣きそうな顔でセリスの目を見つめる。セリスは穏やかに笑いかけると、その表情を真剣なものにした。
「お願いがあります。至急この事をルシフェル様にお伝えください」
「は、はい!……セリス様はどうされるんですか?」
「私は一足先に森に向かいます」
「えっ!?でも……」
「お願いしましたからね」
セリスは念を押すと脱兎の如く城の中を駆けて行く。マキは箒を放り投げると、急いでルシフェルのいる魔王の部屋まで走って行った。
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