第18話 女性をバカにするのはやめましょう

「ちょ、ちょっとクロ様!」


「あん?なんだようるせぇな」


 なんかセリスがめっちゃ興奮してんだけど。あぁ、お前も武器工場の素晴らしさがやっとわかったか。


「ボーウィッドが工場案内するとか前代未聞ですよ!と、いうよりも他の魔族を工場にいれたなんて話、聞いたことがありません!」


 へー。魔族ってあまり武器工場に興味ないんだ。俺はワクワクするけどな。なんかよくわからん部品が流れていき、どんどん組みあがっていくと思ったら自分の知っている武器の形になるんだ。テンション上がるだろうがよ。


 まぁでも人の趣味はそれぞれだ。たまたまボーウィッドと俺の趣味があっただけ。武器工場の素晴らしさが分からないというだけで、俺は魔族をバカにしたりしない。


「……ここだ……」


 ボーウィッドについて街の中を行くこと十五分。アイアンブラッドの中でも一際大きい工場にやって来た。

 ボーウィッドと共に工場内へと入っていく。魔道具による照明はあるものの、建物内はかなり薄暗くなっていた。これは意図的にやったことだ、俺にはわかる。


「兄弟……この薄暗さ、まさに武器工場にぴったりだ」


「えっ、単に照明魔道具を節約しただけじゃ……」


「その通りだ……兄弟…………明るすぎるのは……武器工場じゃ…ない」


「…………」


 いやー兄弟は分かってんなー。つーかセリスどうした?身内の葬式に出ているような顔してんぞ?


 工場内には溶鉱炉や鉄を打つ鉄火場、部品を組み立てる作業場などがあった。街に僅かにいた他の魔族の姿は一切なく、完全にデュラハンだけで作業が行われている。

 全員が自分の持ち場で集中しており、一切の雑念なく作業に没頭している。武器づくりには素人の俺だが、一つ一つの工程が手抜きなく、丁寧に進められているのが見て取れた。

 それにしても……。


「気づいたか……兄弟……」


「あぁ……これは問題だな」


「えっ?何が問題なんですか?私には皆真面目に作業をしているようにしか見えないんですけど?」


 セリスが眉を寄せながら首をかしげている。これだからモノづくりに従事したことないやつは……まぁ、俺も動物を狩るための罠とかぐらいしか作ったことないけどな。いやーあれはお粗末だったわ。結局その罠にかかったのは村長だけだったし。


「セリス、あそこ見てみろ」


 俺が指さした方にセリスが目を向ける。そこには二人のデュラハンの姿があった。

 一人はかなりの経験を積んだベテランなのだろう、テキパキと部品を組み立てている。だが、隣にいるデュラハンは若手なのだろうがかなり作業が遅い。若手のデュラハンが一つ組み立てる間に、ベテランのデュラハンが三、四つ組み立てていた。


「はぁ……まぁデュラハンによって作業のスピードが違うのはしょうがないんじゃないですか?得手不得手もありますし」


「問題はそこじゃない、よく見てみろ」


 セリスが顔を顰めながら二人のデュラハンに注目する。すると、ベテランのデュラハンが若手の方をチラチラ見ていることに気がついた。


「なんか若手を気にしてますね……」


「そこだよ!」


 俺の声にセリスがビクッと身体を震わせる。いや、なんでビビるんだよ。そこまで大きな声出してねぇだろ。


「あのベテランは若手の悪いところが分かるんだよ。そりゃずっと隣で作業していたら相手のダメなところぐらい見えてくるだろう」


「はぁ……まぁそうですね……それの何が問題なんですか?悪いところを指摘してあげればいいじゃないですか?」


 本当にこいつは……。俺は呆れ顔で兄弟に目を向けると、兄弟もヤレヤレといった感じに肩を竦めて首を振った。俺達の素振りを見たセリスが頬をピクピクと震わせる。


「それができたら兄弟が工場に問題があるなんて言わないだろ?問題は一つだ。しかもこの上なく明確な問題がな」


「……その問題点を私にもわかりやすく説明していただけますか?」


 なんか身体が震えてらっしゃいますけど、まさかセリスさん怒ってらっしゃいます?まったく……この程度で腹を立ててるとは、嘆かわしいことこの上ないな。だが、俺は心優しき指揮官。出来の悪い秘書にもちゃんと理解させるのが俺の役目。

 俺は気を取り直すように一つ咳ばらいをすると、セリスにデュラハンが抱える問題点を説明する。


「デュラハンはな……全員コミュ障なんだ!」


「…………はぁ?」


 きょとん顔のセリスはおいておき、俺はこの問題を早急に解決しなければならない。しかし、まいったな……兄弟が特別コミュ障なんだと思っていたが、まさかデュラハンという種族自体がコミュ障とはな……。

 だがこれは由々しき事態!指揮官として、同じコミュ障として腕が鳴るぜ!



 デュラハン達が抱える問題点はわかった。後は解決策を模索するだけだ。

 今日はここまで、とボーウィッドに告げ、俺はセリスの転移魔法によって一旦家に帰える。家のドアを開けるや否や、勢いよく飛びついてきたアルカを思いっきり抱きしめ、切れかかっていたアルカ成分を補充。

 うーん、やっぱりアルカは俺の生きる上での欠かせない燃料だわ。これさえあればどこでだって俺は生きていけるぞ!


 それで今はセリスが持ってきてくれた夕飯をみんなで食べるところ。

 いやー労働の後はお腹が減るなー。おっ、今日はグラタンとパン、それにサラダか。グラタンの具がシーフードじゃないのが少し残念だが悪くない。今はとにかく空腹状態だからなんでもご馳走だ!

 ……ところで、なんで俺の目の前にはパンしか置いてないの?


「……セリス?」


「なんでしょうか?」


 あっ、この感じ懐かしい。初めてセリスに会った時と同じ感じだ。いやーそう考えるとセリスも大分優しくなったのかなー。うん。

 あーなんていうかあれだな、昔の俺よく耐えてたなー。……このナイフみたいに尖ったセリスは信じられないほどおっかない。


「あの……セリスさん?俺のご飯……」


「あぁ、その事ですか」


 セリスは食べるのをやめ、こちらに冷たい目を向ける。やばい、今少しだけ心臓が潰れた気がした。


「帰り道でとても興味深いお話をしてくださったので、てっきりいらないものだと思いました」


 えーっと……俺はセリスさんになんて言ったのかな?ちょっとテンション上がってて覚えてないんだけど。


「確か……男のロマンは女には理解できないから口出しするな、と」


 あーそれは言った気がするなぁ……。


「男が夢を作り出しているというのに、女は何をやっているのか、と」


 ……そんな事言ったかな?ちょっと記憶が曖昧……。


「あとは、女の手なんか借りなくても男は生きていける、とも」


 俺はそんな事言った……私はそのようなことを申したのですか!?なんて傲慢なやつなんでしょう!!

 アルカが不安そうに俺とセリスを交互に見る。……頼むからこんな情けない俺の姿なんて見ないでくれ。

 セリスが非の打ち所がないような素敵な笑みを俺に向ける。


「ですから、女ごときが作ったご飯などいらないかと思いました。城でご飯を作っているのは女中さんですからね」


 やべぇよやべぇよ……。どう転んでも俺が悪いよ。だって本人が悪いって思っちゃってるもん。

 俺が惨めにパンをちぎって食べていると、見兼ねたアルカが身を寄せて耳打ちしてきた。


「パパ……またママに怒られるようなことしたの?」


 アルカよ。またとはなんだまたとは。だが今回に関しては何もいうことができない。

 そんな情けない俺にアルカが微笑みかけてきた。


「ママに謝ろう!アルカも一緒に謝ってあげるから!」


 あーなんていい子なんや……。笑顔が眩しすぎて直視できねぇよ。流石に今回は俺に非があるからな。


 俺はセリスに向き直ると机に手をつき頭を下げる。


「すいません!気の会う仲間を見つけて完全に調子乗ってました!」


「ママ!パパも悪いと思ってるからもう許してあげて!」


 素直に謝った俺を見て、目を丸くしていたセリスだったが、必死に訴えかけているアルカに手を伸ばし、微笑みながら頭を撫でた。


「……アルカは優しい子ですね。私も大人気なかったです。すいませんでした」


 セリスは空間魔法で収納していた俺の分のご飯を取り出し、机に置く。怒っていても、ちゃんと俺の分のご飯を持ってきてはいたのか。セリスさんの優しさに感謝。


「ただ、あまり女性を軽んじる発言はやめた方がいいですよ?」


「……肝に命じます」


 俺が申し訳なさそうに言うと、セリスは柔和な笑みを俺に向けてきた。本当に不本意で認めたくない事実ではあるのだが、その顔に少しだけ、ほんの少しだけドキッとした自分がいた。まぁ多分気のせいだろう、気のせいに違いない。


 俺は女中さんに感謝の意を込めて手を合わせてからご飯をいただく。うん、すごくおいしい。

 俺は夕飯を噛み締めながら、調子に乗りすぎはいけないことだと深く反省しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る