第10話 目は口ほどに物を言うが、その前に顔見りゃ大体わかる

 ところ変わって、ここは城にある闘技場。移動しながらフェルに聞いたんだが、ここはフェルが住んでる魔王城らしい。城内には中庭に闘技場、訓練場、大食堂に大浴場、衣裳部屋や魔法試射場に娯楽施設まであるんだってさ。総合アミューズメントパークかここは。


 闘技場はいたってシンプルなつくりをしていた。半径三十メートルぐらいの円形のフィールドに、それを囲むように観客席が配置されている。収容人数は千人以上で、たまに魔族同士の力比べも行われているらしい。

 今フィールドにいるのは俺とライガの二人。それ以外の幹部とフェルは観客席に座って俺達を見ている。完全に見世物だな。くそが。


「おいクソ人間」


 俺が恨めしそうに観客席に目をやっていると、ライガが腹の底に響くような低音で俺に話しかけてくる。


「てめぇがどんな手を使ってルシフェルを誑かしたか知らねぇ……あいつはたまにおかしいことを言い出すからな」


 誑かすって……。ちょっとそういう言い方やめていただいていいですかね?ああいう中性的なイケメンだと誤解が生まれやすので。てか、やっぱり部下からもおかしいって思われてるじゃないですかフェルさんやだー。


「あいつのこういう暴走を止めるために俺達幹部がいるんだ。お前をぶち殺してルシフェルの目を覚まさせてやるよ」


 めちゃくちゃ怒っとりますやん。俺なんかしたっけ?魔王軍の指揮官になっただけですよ?


 人間の国にいきなり見知らぬ魔族がやってきて、王様が「今日から彼が大臣です。みなさんよろしくね」と宣言。


 うん、有罪。


 ライガの身体に魔力が集中する。それと共に体毛が伸びていき、爪や牙が鋭利になっていった。

 おぉ!これが獣人のアニマルフォーゼか!初めて見たぜ!

 黄色の毛に黒い縦模様がちらほらと。柄的にも完全に虎だな。フェルも紹介するときに人虎ワータイガーって言ってたし、なんか鋭い牙からグルルって唸り声聞こえるし……つーかこれやばくね?


「行くぜ……恨むんならこんな場所にてめぇを連れてきたルシフェルの野郎を恨みな!」


 大丈夫だ。こんな展開にしたフェルの事は最初から恨んでるから。ライガが大きな亀裂を作りながら地面を蹴ると、猛スピードでこちらに迫ってくる。


 いやーこれまじでどうしよう。魔法陣が使えれば何とでもなるけど、今の俺はパンピーもいいとこ。作れて魔法陣が一、二個だな。っていっても、敵か味方かわからんし、こいつらの前であんまり手の内をさらけ出したくないんだよね。

 俺は極力ゆっくりと魔法陣を組成し、初級シングル身体強化バーストを発動する。その時にはもうライガは目の前で右腕を振り上げていた。


「死ねぇぇぇえぇぇぇえ!!!」


 兄貴、殺す気満々ですね。俺は両腕を交差させライガの拳に備えると、足に意識を集中させる。そして、拳が俺の腕に当たった瞬間、思いっきり地面を蹴り、後方へと自ら吹き飛んだ。


 バコーン!!


 吹き飛ばされた俺の身体は頑丈に作られているはずの闘技場の壁をいともたやすく破壊する。そのまま闘技場を超えた城内の壁に叩きつけられ、ズルズルと倒れこんだ。

 痛ってぇぇぇぇぇ!!!後ろに飛んで威力を減衰させたはずなのに、どんな怪力してんだよ!!あのクソ虎!!

 俺は朦朧とする意識の中、完全に折れている両腕で何とか回復魔法を唱え、自分の身体に最低限の治癒を施す。


 なんとか応急処置をすました俺が、貫通した穴越しにライガに目を向けると、奴は忌々しそうな顔でこちらを見ながらアニマルフォーゼを解除した。追撃をしてきたら完全にお手上げだったがまじで助かった。


「ちっ……気に入らねぇ」


 ライガは吐き捨てるように呟くと、クルリと身体を反転させ、闘技場から去っていく。あれ?終わり?もしかして俺許された?


「ライガは超がつくほどの実力主義。なんでも力で解決しようとするけど、脳みそまでは筋肉じゃないんだ」


 俺が声のする方に目を向けると、いつの間にか近くにいたフェルが俺に対して微笑んでいた。どっからどう見てもあいつは脳筋だろ。お前の目は節穴か。


「彼も相当な実力者だからね。クロと拳を重ねて思うところがあったんだよ」


 フェルが手をかざして俺に回復魔法をかける。それまで俺の身体を蝕んでいた痛みが奇麗さっぱり消えてなくなった。……とりあえずこの回復魔法で今回の茶番の件はチャラにしてやるよ。


「ルシフェル様!!」


 と、そんな俺達の所に駆け寄ってくる金髪の美女。


「セリス、他の幹部達はどうしたのかな?」


「えっ……あっはい。他の人達はライガが闘技場からいなくなると、そのまま自分達の領地へと帰っていきました」


「そうかそうか。じゃあクロが指揮官になることに異議をとなえる者はもういないってことだね」


 フェルは嬉しそうに笑っているが、セリスは微妙な表情を浮かべていた。フェルさんや、目の前にいるこの人は全然納得しているように見えないのだが?


「じゃあセリス、今日からクロの秘書として頑張ってね」


「……ルシフェル様がそうおっしゃるなら、可能な限り努力いたします」


 いやいや努力するって人の顔じゃないよね?俺の事を夏場の台所に出てくる黒いあれを見るような目で見ているよね?フェルさんチェンジで。フレデリカお姉さまとチェンジでお願いします。


「じゃあ僕は自室に戻るね。クロも今日はいろいろあって疲れていると思うから、庭師の家まで連れて行ってあげて?もうあそこにはだれも住んでないからクロの家にしてもらって構わないよ」


「……仰せのままに」


「それと明日の朝になったらセリスがフェルを僕の所に連れてきてね。それじゃ」


 それだけ言うとフェルは転移の魔法陣を描き、この場から消える。


 残された俺達。この沈黙まじで気まずい。正直ライガと戦っている方が楽だった。

 セリスは無表情で俺を起き上がらせると、服についている土埃を叩き落とす。


「あ、ありがと───」


「勘違いしないでください。こんな汚い格好で神聖な城の中を歩いて欲しくないだけです」


 なにこいつ。俺が素直にお礼を言おうとしたのにマジで感じ悪い。

 セリスは一通り俺の汚れをはたくと、さっさと踵を返しスタスタと歩き出した。えっ?放置?俺このまま放置されんの?


「何をしているんですか?さっさとついてきてください。あなたに割いている時間なんてないんですから」


 呆けている俺に蔑むような視線を向けてくる。まじでなんなのこいつ。見た目はこんなにも美人なのに、ここまでキッツい性格していると何の魅力も感じない。

 ……だが我慢だ。大変遺憾ではあるが、セリスは俺の秘書となったのだ。とういうことはこの女から色々な説明を受けるのだろう。ここでセリスの機嫌を損ねれば、俺は何もわからないままここで孤立することになる。ここは大人になって素直にセリスの言う通りに……。


「そこであほ面浮かべてに立たれていても迷惑なんですが?元から間の抜けた顔をしているのに、それ以上ひどくなると見られたものではないですよ」


 このアマ、まじでいつか泣かす。

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