第6話
書くことで底の方へ降りていきたい。もっと深く掘って自分の心の鉱脈にまでたどりつきたいと思って書いているところはある。でも本当に私の心は底にいくほど本音が埋まっているようにできているのか。何か安易な精神分析の手法に惑わされているではないか。心の浅い部分は意識できる領域であり、深くなるほど無意識の領域であり、底へ行くほど心の本流があり、それは幼児期に形成されたものだとか何だかそんな理論に私は知らない間に大きく影響されている。そしてその理論を自分にとって救いとして捉えているところがあり、書くための動機として利用しているのではないか。私はずっと愚にもつかない自己分析の虜になって、そのためにこれまで多くの時間を無駄にしてきたのではないか。とはいえ書くことで自己が整理されて、多少ではあるが心身が軽くなり憑いていたものがとれたような感覚があるのも確かだ。なんだか同じところを徘徊している。いくら書いても同じところを巡っている感じはするが、自己満足なら別に構わないだろう。
静かだ。休職してからずっと独りだから心を乱されることはない。長時間独りでいると自然と内省する。自分の過去の記憶を反芻することが多くなる。そして、遠い過去の記憶ほど心身に刻まれた確かなもののように思われてくる。現在に近い記憶ほど誤った判断をくり返した上での経験であり、少しの判断の違いで存在しなかった記憶と私は判断し、あまり重要視しなくなる。何が正しいのかわからない。わからないけれど、私は遠い過去の記憶ほど自分に深く埋め込まれており、普段の思考や意識に大きな影響を与えているのではないかと考えている。なんだ同じことを言っているじゃないか。
下手な自己分析にこだわってばかりいないで、自己の外側にもっと興味を持つべきではないか。わかっているが、どうしても意識が内の方を向いてしまう。外を向くのは精神に大きな負担がかかる。いつからこんな性格になったのか。いつも腰が重くて何をやっても億劫で、周りより遅れをとってしまう。他人に声をかけられても反応が鈍く、会話をしていても思考が遅くて相手を苛立たせてしまう。布団の中でずっと寝ていたい。でもそれでは生きていけないから、社会に出ないとだめだ。わかっているがつらい。
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