第16話 ペンダントの中の悪魔

ミリアは、ぎゅっと目を閉じて 衝撃に備えていたが、 何故か ふわりと誰かに 優しく抱きとめられる。

「えっ?」

驚いて目をパチクリと開けると ダリルの厳しい横顔があった。


「 気が触れるのも 時間の問題だな」

ダリルの言葉に エリザベスを見ると ジェニーから ペンダント 取り上げていた。

取り戻そうとするジェニーを エリザベスが突き飛ばす。

「ジェニー!」


体をくの字にして ジェニーが床を滑っていく。

その先には 大きなチェストが。

このままぶつかれば 大怪我をしてしまう。

「 ダリル !」

何とかしてと叫んだが、 それより早く 乗馬服を着た男が チェストの前に現れる。

誰?


そこへジェニーが 鈍い音を立ててぶつかる。

何処から来た人か分からないが 助かったとほっとして息を吐いたのも 束の間、 男の帽子が脱げて 顔が見える。

「ウイル?」

どうして ここに?


ミリアは 突然の弟の登場に混乱する。

もしかしてダリルが 召喚したの? でも 会ったこともないのにどうやって?


「痛てて!ジェニー?」

ウイルが、痛さに顔を顰めながら 自分が抱きしめている人物を見る。

ジェニーにも 振り返る。

「 ウィルこそ 。どうしてここに ?」

「 俺こそ、知りたいよ。 気付いたら、ここに居たんだ」

ウイルが、辺りを見回す。


「やったわ! これでまた お父様に、ほめてもらえる」

その場にいた全員が エリザベスに注目する。 嬉しそうにエリザベスが 自分のペンダントを引きちぎって 捨てると 奪い取ったペンダントを 首にかける。


力が及ばなかった。

エリザベスが 恍惚の表情を浮かべる。

願いが叶って さぞ嬉しいだろう。

しかし、 今のミリア達は それを指をくわえて見ているしかない。


ウィルが、エリザベスの 異様な雰囲気を感じ取って ジェニーを庇うように前に出る。

「 ジェニー下がって 」

ジェニーがウイルの言葉に従って背後に隠れる。


その間も ミリアは油断なくエリザベスから目を離さない。このまま 大人しくしてくれたら良いけれど・・。

「今から、お前を 向こう側の壁にある 絵画の処まで、飛ばすから エリザベス目掛けて落とせ 。分かったな」

「えっ?えっ?」

聞き間違いでなければ 私に 突拍子も無い事をさせようと している。


「 つべこべ言うな」

いや。いや。 つべこべ言いたい。

私に何かさせるより、 悪魔なんだから 自分で何とかして欲しい 。

「最初の願いが決まったわ。ジェニー、あなたよ」

無理だと言おうとするのを エリザベスの声に黙らされる。


ゾクリ!とする。

溢れ出るエリザベスの殺意に 誰もが飲み込まれてしまう。 視線を向けられて ジェニーが、涙ぐみながら ウイルにしがみつく。

「ここで死んで。 だって そうしないと 奪いに来るでしょ?」

「しっ、 しないわ。 やっ、約束する 」

ジェニーが止めてと 哀願する。 しかし 、無情にも信じないとエリザベスが首を横に振る。


なんとしても阻止しないと と立ち上がると ダリルに腰を掴まれる。

エリザベスがペンダントを握る。

不味い。 時間がない。


「 私が だまされると思うのか」

「 おっ、お願い。 なっ、何でも 言うことを聞くから、止めて 」

気付いた時には ダリルの頭上に 体が掲げられている。 と、 次の瞬間 槍のように壁めがけて 問答無用で投げ飛ばされる。


この 感じ・・前にもあった 。そんなことを思い出す暇もなく 壁が迫ってくる。

今、このピンチをなんとかできるのは 私だけだ。 何としても ジェニーを助けなくちゃ。


使命感に駆られたミリアは 絵画の上の壁に両手をつくと 額縁に足をかけて そのまま重力に任せる。 ガタンと大きな音を立てて 絵画が外れる。

続いて指が2回鳴らされると 絵画が向きを変えて エリザベスに向かう。


突然、襲ってきた 絵画から逃れようとするエリザベスに向かって ダリルが指をパチンと鳴らす。すると 絵画に描かれている薔薇から つるが伸びて 鞭のようにエリザベスを叩く。

痛みに縮こまっているエリザベスを今度は、 ぐるぐると 体に 巻きつく。 最後には棒のように バタンと顔を強かに打ちつけて倒れて 気を失った 。


その横に ふわりと着地する。

エリザベスとの攻防は わずか数秒で終わる。

ミリアは安堵して ジェニーの元へ行こうと振り返ると 顔を真っ赤にした ウイルと鉢合わせする。


「ミリア!」

えっ?怒ってる?

ウイル の怒気を含んだ声に 怯えながら後ずさると

一難去ってまた一難 。

何で怒ってるの? ジェニーを助けたのは私なのに 。褒められこそすれ、 どうして叱られる。


ジェニー が後ろから ウイルのジャケットを引っ張って止める。

「 待って!待って!」

「 一体何を考えてるんだ! はしたない! 令嬢としての自覚がないのか 」

「あります 。あります。凄〜く、 あります 」

「嘘をつくな!」


令嬢? はしたない?

・・空を飛んだことか。 やっと合点がいく。

でも、男は ウィルだけだし 目くじらを立てなくても。

「ウイル お願い。 私を助けるためだったんだから、 今回は許してあげて」

ジェニーが必死に取りなす。


「そう、 そう。仕方なく。 緊急事態だったんだから 大目に見てくれないと」

「 何が大目だ。 もっと違う方法があっただろう」

ミリアは両手を突き出して 諌めようとしたのに 、余計に怒らせるだけだった。


「 まあ、まあ」

「 何が『まあ、まあ』だ 」

怒りの収まらない ウイルを何とかしようとするが 一向に収まる気配がない。


ピシリ!


3人は何かが割れる音に振り向く。

ダリルがエリザベスの投げ捨てた黒いペンダントを踏みつけている。

何してるの?


ひびの入ったところから黒い煙が立ち上がって 次第に形を作り出す。

「ガーゴイル?」

「 なんだ。これは?」

ウイル達が、 驚きの声を上げる。

博物館などの雨樋にいる ガーゴイルを小さくしたような悪魔だ。初めて見る悪魔っぽい悪魔に 興奮する。

この見た目。これこそ、ザ・悪魔。


自分 の膝ぐらいしか 背丈がないせいか 恐怖より可愛らしさが勝った。

「 悪魔だ」

ガーゴイルが私の声に反応して 近づいてこようとするが 、途中でぴたりと動きを止める。

そして、まるでぜんまい仕掛けの人間のように ギギギと首を動かして ダリルを見る。


途端に、ガーゴイルが飛び上がると悲鳴を上げる 逃げ出す。 しかし、ダリルが 指をパチンと鳴らすと 首根っこを掴まれていた。


「ジェニー、ジェニー。しっかり」

動き出したガーゴイルを見て 気絶したジェニーを ウィルが介抱する。


そんな二人を尻目に ダリルが、ガーゴイルと言い争いを始めた。


「キッー。キッー。キッー」

「キッキッー。キッーキッー。キッキッー」

耳を澄ましてみたが ミリアには、『キッー、キッー』としか聞こえない 。

これが悪魔語なの?


ガーゴイルが何を言っても なかなか納得しないダリルに向かって 両手を振り回しながら必死に説得する。その姿は まるで自分のようで同情する。 それでもガーゴイルは何か言っていると、 突然青い炎に包まれて 消えてしまう。


忌々しげにダリルが舌打ちする。

「殺したの?」

「違う。情報が漏れないように 口封じに殺された。 何か仕掛けがあったんだろう」

「 可哀想に ・・」

「ふん」

悪魔に同情する私を馬鹿にするように ダリルが鼻を鳴らして部屋を出て行こうとするのをウイルが 回り込んで 止める。

「 待て! 一体何者だ。 事と次第によっては許さない!」

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悪魔の助手になりました(暫定) あべ鈴峰 @asami1965

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