第15話 エリザベスとの対決

ダリルに、ジェニーに渡したペンダントを エリザベスが狙っていると教えられ。 慌てて返してもらおうと 教室にとって返すが 、ジェニーの姿も エリザベスの姿も無い。

(二人とも、どこへ行ったの・・)


胃の中で 蝶が羽ばたいているみたいに 落ち着かない。まさか もう襲われたの?

いつもと違う様子の エリザベスの姿思い出す。

「どうしよう・・」


サッと血の気が引いて めまいを起こすと ダリルが支える。

「どうした。居ないのか?」

縋る ように頷く。 万が一のことがあったら 、悔やんでも悔やみきれない。

ジェニーの家族や ウィルの顔が浮かぶ。


「 私のバカバカ 」

自分の軽はずみな行動が招いたことだと 自分の頭をポカポカと叩くと ダリルが腕を掴んで止める。

「 そんな事をする暇があるなら、 金茶の髪の 娘が行きそうな場所を考えろ」

「 行きそうな場所?」


「 あの娘は、 熱心にペンダントを見ていたから、 何か願い事があるんじゃないのか?」

そうだ。 ペンダントを手に入れたジェニーが、 学校が終わるまで待てるはずがない。


「 ええと・・」

ミリアは パニックになりそうな気持ちをなんとか抑えて 必死に考える。

(ジェニーが行きそうな場所。 行きそうな場所・・ 行きそうな・・)


ミリアは ハッとしてダリルの顔を見た後、 一気に走り出す。ペンダントを使うなら 校舎で一人になれる場所じゃないと。 それなら アソコしかない。


音楽準備室。 しかし 、音楽準備室とは名ばかりで、 ただの物置。 金目の物は置いていないので 、当然 鍵はかかっていない。


二人で廊下を走っていると ダリルが話しかけてきた。

「 ところで 、どんな願いかしているのか?」

「えっ、どうしてですか?」

悪魔のダリルが 、 名前さえ覚える気のない人間の願いに 興味を示した事に警戒する。

 何故、聞いて来る?


「願いによっては大量に魔力を消費して、 下手すると 一発で真っ黒になるからだ」

「いっ、 一発!・・ それって、どんな願いですか?」

もしそうなったら ジェニーが死んで 魂を悪魔に取られる。 ダリルが 少し考えて答える。


「 そうだなぁ〜・・ 国王になりたいとか、 戦争に勝つとか、 後は恋の願い事だな」

「恋ですか?」

意外だ。確かに願い事の中で一番多いのは、恋愛関係だろう。

でも、 そんなに難しいとは考えにくい。

すると、 ダリルが 馬鹿にしたように舌打ちする。


「 全く 人の心を変えるのに どれだけ魔力が必要なのか わかってないな」

「 そんなに?」

「考えてもみろ。 自分を嫌いな相手を好きにさせるんだぞ」

言われて見れば、気の無い人を振り向かせるのは大変だとクラスメイトが言っていた。


「方法としては 記憶を操作して 小さい時に会ったことがあるとか 、命の恩人とかにして 出会いを演出する方法がポピュラーだな。 後は、幻術で 常に夢を見させてるとかだな」


「 でも そんなの嘘じゃないですか。 それで幸せと言えるんですか?」

「 だから、お前は 子供なんだ。 恋に身を焦がしたことも無いんだろう」

「 あります!」

「 嘘だな。なら どうして 17歳なのに結婚してない」


ムッとして食ってかかると ダリルが気の毒そうな顔をする。 だから 負けまいと反論した。

「 残念でした。 今の結婚適齢期は、もっと上です!」

しかし、 ダリルが怪しいと言うように 片眉を上げる。 ミリアは 嘘だと思われたのが悔しくて、 語彙を強めて言い切る。

「 本当です!!」


「 はいはい。 そういう事にしておこう」

駄々を捏ねた子供をあやすような 大人の対応に ギロリとダリルを睨みつけたが、 知らんぷりされた。

( 悔しいー)


ミリアは拳を握りしめながら 何か反論しようとしたが 、うまい言葉が思いつかない。


**


そうこうしているうちに 目的の場所に到着した。

ドア開けると、 ジェニーが跪いて ペンダントを両手で握りしめている。

「 ダメ ー」


ミリアはジェニーに向かって突進すると ペンダントをつかんで、その色を確認する。

ほんの少し黒い部分が増えただけだ 。

間に合った。 ほっとして、その場にへたり込む。


「ミリー?」

「ジェニー、 ごめんね。 これ返してもらうわ」

驚き戸惑っているジェニーをよそに 、ペンダントを首から外す。


ふと影が差して顔を上げると 覗き込むようにエリザベスが立っている。

「 だめだよ。 私が、ねらってたんだから 」

「ひっ!」

ミリアは驚いて悲鳴を上げる。

全く気付かなかった。


間近で見るエリザベスは 痩せ細った体に パサパサの髪。 目の下にはクマが、くっきりとできていて 白い肌は生気がなく 乾いた唇からは血が滲んでいる。

別人のように形相が変貌している。


「エッ、 エリザベス。 どっ、どうしてここに?」

「ちょうだい。 ねぇ、ちょうだい。 ちょうだい。 ちょうだい 。ちょうだい」

子供のような口調で強請ってくるが 、その顔は無表情で 壊れた人形のようだ。

その違和感に気味の悪さを覚える。


私の腕をつかむ ジェニーの手が震えている。

「何のことかしら?知らなわ」

ジェニーを背にして距離をとろうと 適当に言い訳を口にすると エリザベスの口調が一変して、獣が獲物を見るような目つきになる。


「ニギッテル モノダヨ!サッサト ワタシナ!」

ミリアはジェニーの手を外すと その中にペンダントを隠す。 絶対にエリザベスに渡しては駄目だ。


「そんなの持ってないわ 」

ゆっくりと立ち上がると 何食わぬ顔でエリザベスの前で 両手を振ってみせる。

「コノ ウソツキガ!」

そう言って、エリザベスが飛びかかってくる。

体をひねって直撃は避けられたが 位置が入れ替わって、エリザベスがドア側になってしまった。


これでは 簡単に脱出できそうにない。 じっとりと手に汗をかく。

「 また成績が下がったら 見捨てられちゃうの。 だから、お願い 」

また口調が変わって 子供のようにエリザベスの首をかしげる。


コロコロと口調が変わる。

まるで二人のエリザベスが体の中に同居しているみたい。

「 ミリアの意地悪。 ジェニーは意地悪しないよね 」

エリザベスが立ち上がると ジェニーに向かって一歩一歩近づいていく。

ジェニーが一歩ずつ首を振って後ずさる。


「これはミリーの物よ。 あなたの物じゃないわ。

分かるでしょ?」

「 どうしてジェニーにも意地悪するの」

エリザベスは両手で顔を覆って泣き出す 。

ミリアはジェニーの袖を引っ張ってドアを指差す。ジェニーが、頷くと 足音を忍ばせてドアへ向かって移動した。


子供のエリザベスなら逃げ切る。

もう少しだけ泣いていて。 そう祈りながら歩みを進める。 しかし 、ドアにたどり着く前に 願い虚しく エリザベスが顔を上げる。

ぎくりと 固まる。


どっちのエリザベス?確かめようと顔を見ると ニヤリと笑っている。 凶暴の方だ 。

「ジェニー。今のうちに逃げて!」

エリザベスを突き飛ばして転がす。

「 分かったわ。 先生を呼んでくる」


自分も出口に向かったが、 逃げたはずのでジェニーが突っ立っている。

どうしたのかと その先を見ると エリザベスがドアの前で立ちふさがっている。


ミリアは我が目を疑った。 確かに床に倒れたエリザベスを見たのに。 この素早さは 人の域を超えている。驚き固まる。

「ソレハ ワタシノ モノダ!」


ジェニー目掛けてエリザベスが、飛びかかってきた。 助けようと した私も そのまま勢いに負けて 床に体を打ち付ける。

「痛い !」

痛み目を一瞬閉じた。 目を開けた時には ジェニーにエリザベスが馬乗りになって 揉み合っている。


「 駄目よ。これは 」

「ジェニーから降りなさい。 降りなさいって言ってるでしょ」

エリザベスの手を引き剥がそうと 腕を叩いたりしたが、全然歯が立たない。

ミリアは エリザベスのその骨ばった腰に両腕を巻きつけて 渾身の力で後ろに引っ張る。

それでもビクともしない。 普段のエリザベスからは想像もつかないほどの怪力だ。


「自分のがあるでしょ」

必死に抵抗しながらジェニーがエリザベスのペンダント を顎でしゃくる。 すると、 エリザベスが争うのを止めて 悲しそうな顔でペンダント 服の中から取り出す。

「 これはもう駄目なの 。だから 新しい物が欲しいの」

「 買えばいいじゃない」


真っ黒に染まっている宝石を見て ダリルの言葉が頭をよぎる。 このままでは 悪魔が魂を回収しに 来る。持ち主を間違えられたらジェニーが危ない。

早くしないと時間が無い。


ミリアは、ペンダントに気を取られている隙を突いて 横からエリザベス押し倒すと ジェニーを助け起こす。

「 ジェニー大丈夫?」

「それより早く、ここから出ましよ」


手に手を取って逃げようとしたが 突然のエリザベスの怒鳴り声に振り向いてしまった。

「ウッテクレナイノヨ!」

目が合った瞬間 、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。 逃げなくてはだめだと 思っても指一本動かせない。


「ウッテクレナイナラ ウバエバ イイノヨ。ソウデショ」

エリザベスが獲物をいたぶる様な 冷酷な笑みを浮かべて近づいてくる。

「 ペンダントを捨てろ!」

ダリルの声に、我に返った時には 突き飛ばされていた。


「 ミリー !」

ジェニーの叫び声に 助けを求めて無意識に手を伸ばすが、 周りの景色を飛ばしながら 遠ざかる。

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