第14話 エスティーと言う悪魔
ダリルは、初めて 人間の服を着た時の出来事を思い出す。
あれは今から500年以上前。
天使のマリアが 魔界にある穴を通って、人間界に逃げるという事件が発生した。
マリアが無断で穴を利用した事なのに。
天使たちが、逃げられたのは管理を怠った お前たちに責任があると因縁をつけて、 仕方なくマリア探しを協力することになった。
そのメンバーの一人に私も選ばれた。
**
ダリルは 人間界への抜け穴の前で、 一緒に行く予定の エスティー を待っている。
抜け穴と言っても 森のはずれの小さな広場に 何の変哲もない扉がぽつんと立っているだけ。
知らなければ、これが人間界へと 繋がっている 扉だとは 誰も思わない。
( 遅いなぁ〜)
ダリルは扉の前でウロウロする。
人に遅れるなと言いながら、本人は遅刻して来る。 全く アイツは、いつもそうだ。むかつく。
帰るか?・・ 否、アイツの事だ。
短気だとか、約束を反故にしたとか、後から ネチネチ嫌味を言うに決まっている。
はぁ〜 仕方ない。 もう少し待つか。
しばらくして 森の中から エスティー が来た。
小作りで、繊細。 その姿は 、女性と見紛うほどの顔を 金髪が包んでいる。
しかし 、その見た目と違って 腹の中が真っ黒。
何度も 口車 に 乗っては死にそうな目に遭ってきた。
「なんだ。その格好は?」
胡散臭そうに体に巻きつけている布を顎でしゃくる。 すると エスティー が両手を広げて自分の格好を見る。
「どう、似合う? 人間界に行くから 服を着たんだ。着なよ」
人間が服をというものを着ているのは知っているが 、邪魔だし、重いし、締め付けるし 、何一つ良いところが無い。
「 俺は良い」
着たく無いと 首を振って断る。
「駄目 だよ。 人間たちに聞き込みするんだから。 まさか、僕一人に押し付けようって魂胆じゃないよね」
不満 もあらわに エスティーが腰に手を置いて睨む 。 確かにそうだが。 人間に我々の姿は見えないんだから、 勝手に調べれば済む。
態々、人間の真似なくても。
「 俺は、俺のやり方で探すよ」
「 ダリルは人間界のこと 何も知らないくせに。 どうやって探すつもり?」
「 人間界にいる悪魔に聞けば なんとかなる」
俺の方が強いんだから、使役してしまえばどうとでもなる。
エスティー が肩をすくめて首を振る。
「 無理だよ。 天使たちと行動を共にするんだから。 おとなしく人間の格好して」
ダリルは、 苦虫を噛み潰したような顔をする。
そうだった。 主導権は天使達にある 。
しかし、 だからと言って 天使たちの言うことを聞くこと自体が不本意。
だが、ノーと言えば攻撃してくる。
天使ほど好戦的な生き物はいない。 それでも避けたい 。
「俺は持ってない 」
「そうだと思って、用意してきた 。好きなのを選んでいいよ」
にっこりと微笑んで エスティー が 布の塊を差し出す。 人間にも 人間界にも 全く興味がなかったので 、何も考えずに一番上にある服を 選んだ。
今思えば それがいけなかった。
行く先々で エスティー との扱いに差がある。 その理由が服装にあると知った時は 愕然した。
まさか 、人間がランクによって服装が違うとは 知らなかった。
『 どうして教えてくれなかったんだ』と、 食ってかかると 『聞かれなかったから』 と、言い返されて絶句した 。意地の悪い エスティーの言う言葉を鵜呑みにした自分が悪い。
もっと、アイツの性格を考えるべきだった。
そんな エスティーが 服を 替えてくれるはずもない。 だからと 言って 、 今の待遇に甘んじるのは屈辱だ。 魔界に尻尾を巻いて帰るのも プライドが許さない。 しかし、服を買う金も無い。
結局 仕立て屋に潜入して 自力で 服の作り方を覚えた。 あの 時代 はミシンがなくて、 全部手縫いだったから 手間も時間もかかった。
苦労したなと 感慨 に ふけっていたダリル だったが ミリアを見て眉をひそめる。
髪が元に戻っている 。
これは、どういう事だ?
あのペンダントは それなりに魔力が宿っていた。 いずれ戻るだろうとは思っていたが、 一晩も持たないとは想定外だ。
ミリアにペンダントの力が及ばないなら、 他の人間を探さないと駄目か 。
我慢してミリアと付き合っていたのに。
徒労に終わったと 渋い 顔をする 。
ミリアからペンダントを返してもらおうと 教室を見ると 負の気配を漂わせている 小柄な娘に目が止まった。
( もしかして、 あの娘がエリザベスか?)
目の下にクマがあり、 体から生気が感じられない。悪魔と取引しているのは一目瞭然。
あの様子だと もうペンダントの魔力も底をつく頃だろう。果報は寝て待てだなと ニヤリと笑う 。
後は、魂の回収に来た悪魔を捕らえて 主犯を吐かせれば一件落着だ 。
「ん?」
しかし、すぐ真顔になる。
エリザベスが チラチラと後方を気にしている。
不審な行動に 視線を追うと 金茶の髪の娘を見ている。
何が、そんなに気になるんだ?
ダリルも金茶の髪の娘を見る。
「なっ!」
金茶の髪の娘が ペンダントを眺めているのを見て ダリルは目を剥く。 あの娘の持っているペンダントは、 紛れもなく昨夜ミリアに買ってあげた物だ。
ダリルは 、こめかみを引きつらせながら ミリアを睨みつける。
( あのバカ女! あんな危険なものを ホイホイ他人にやりやがって!)
せっかく代わりの人間を見つけたのに、 ペンダントを奪われたら振り出しに戻る。
ダリル は腰を浮かせると 侵入するために建物の隙間を探し始める。
***
ミリアは、教科書を取り出そうと 動かした 腕を 誰かに 引っ張られて強引立たされる。
「えっ? 何々 ?」
一体誰がこんな事をするのかと 腕を掴んだ人物を見ると ダリルだった。
どうして、ここに ?
昨日の今日だ 。早すぎる。 何か不測の事態が起きたのだろうか ?
「ど」
聞こうとすると ダリルが口に指を立てる。
ミリアは わけのわからないまま 教室の外に連れ出される 。
人目につかない場所まで移動すると やっとダリルが腕を放す。
「何事」
「この 愚か者が!」
開口一番怒鳴られた。 全く身に覚えがない ミリアはポカンとダリルを見返す。
「 ペンダントだ! 他の奴に 渡しただろう 」
(どっ、どうしてそれを)
ミリアはギクリとして身を引く。
監視してたの? それとも誰かが密告したの?
今も 見てる?
あたりの様子を伺っていると ダリルが詰め寄ってくる。
「 折角 買ってやったのに 」
「こっ、 これには深い訳が 」
確かに 買ってもらったものを勝手にあげちゃったけど・・。
だからと言って 不良品を 買わされたとプライドの高いダリルが知ったら どんな事になるか。
「 第一、 もらったプレゼントを他人にやるなんて。 人としてどうなんだ ?」
「うっ」
「金貨10枚だ。 お前に弁償できるのか?」
「 かっ」
「死にたくないと言ってたくせに。 他人は死んでもいいのか?」
「ぐっ」
ダリルに、一言一言 言われるたびに 刃となってグサグサと刺さる。
でも 私の事も少しは同情してほしい。 今朝 ショックでベッドに突っ伏している私に 両親が髪が元に戻ったと 手を取り合って喜んでいた 。
何が 『僕のミリーが帰ってきた』よ!
どんなに悔しかったか 。それもこれも 中途半端な力しかない あのペンダントが悪い。
髪が元に戻ったんだったら、 ちょっとは慰めてくれても良いのに・・。
ミリアは 拗ねて口を尖らせながら 恨みがましい目でダリルを見る。
「別にいいじゃないですか。 不用品なんだから」
自分は悪くないと言わんばかりに 髪を一房掴むと これが証拠だとダリルの前で振ってみせる。
するとダリルが イライラと私の手を払いのける。
「不良品でも エリザベスがペンダントを狙っている」
「 どうして エリザベスが出てくるんですか?」
私がペンダントを渡したのは ジェニーだ 。
ダリルの口から、どうして その名前が出てくるのか不思議で仕方ない 。それに名前は知ってても 顔は知らないはず。
「 あれだけ 侵されていれば 誰でもエリザベスだとわかる。 その娘が 金茶の髪の娘を狙っている」
「えっ? どうしてジェニィーが狙われるんです」
エリザベスは朝から 自分の世界に 慕っていて 他人に興味がないと思うんだけど。
ミリアは小首を傾げる。 するとダリルが お見通しだというように 小馬鹿にする 。
「 お前のことだ 。どうせペンダントを 堂々と人前で手渡ししたんだろう」
図星だ!
でもどうして、そのことをダリルが ?
ミリアは、はっとして 自分を抱きしめて身を守る。
「 ストーカーしてたんですね 」
途端にダリルが露骨に不満げな顔をする。
「 してない。 無理やり押し付けたから 心配して来てやったのに 。何だその態度は。えっ!」
「・・そっ、 それは、ありがとうございます」
悪魔でも良心はあるのね 。ダリルの優しさにミリアは言い過ぎだと 頭を下げた。
しかし、ダリルが構わないと手で払う。
「そんな事を良いから。金茶の髪 の娘から返してもらってこい」
「今ですか?」
さっきあげたばかりで 返してというのは ばつが悪い 。ゴネるとダリルが教室を指差す。
「もともとの原因は お前なんだから、 とっととペンダントを返してもらってこい!」
相変わらず 自分優先にイラッとしたが 素直に 教室に、とって返す。
しかし 、いくら教室を見渡しても ジェニーの姿も エリザベスの姿もない。
一体何処へ?
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