第8話 仲直りの方法
ロールに言われて ダリルは、ミリアの鞄を 返しに行くことにする。
その頃 ミリアは 悪魔退治が失敗に終わった上に 原因が自分ということで ベッドの上で 悶々としていたが、 物音で起き上がる。
( 何の音?)
音のする方を見ると 鞄が空中に浮いている。 その鞄に 見覚えがあった。
ベッドから降りて 窓ガラスに顔を近づける。 間違いなく私の鞄だ。 でも どうしてここに? そう思っていると 鞄の後ろから ダリルの顔が視界に割り込む。
「 忘れ物だ」
そうか 、教会に忘れたんだ。
ミリアは鞄を見ながら 唇を噛み締める。 学校に行くには カバンが 無いと困るのは事実だが、 素直に受け取る気持ちにはなれない。
「・・・」
「なっ」
無言で窓を開けると ミリアは ひったくるように鞄を取る。
許した訳でも無いし 感謝するつもりも無いと、 そっぽを向く。
「 ありがとうも 言えないのか?」
「・・・」
ダリルに 軽蔑するように言われて 反射的に口を開いたが すぐに閉じる。
そんな事、悪魔に言われなくてもわかる。
でも 心が この程度のことで許すのは間違っていると 言っている。
「 悪かった。 この前の件は謝る」
「えっ?」
意外なことに ダリルの方から謝ってきた。
思わず二度見する。今までの態度を考えれば、俄には信じられない。
本心で言ってるの?
「 だが、 悪魔の私に 人間のモラルを求められても 分かるはずが無いだろう」
ダリルが 両手のひらを上にして首を振る。
許そうと思ったのに 一言多い。
「・・ 悪魔は 違うんですか?」
「 魔界では 弱者は常に強者に利用される存在だ。 だから どんな理不尽なことでも言うことを聞く。 そうしなければ 殺されるからな」
「それでも一人くらい 大切にしたいと思う人はいないんですか?」
「 大切ねぇ〜。 家族も友人もいないし、 自分より強い奴に会った事が無いからなぁ〜」
「・・・」
ダリルが顎に手をやって考え込んでいる。
本当に、いないんだ。だから、こんな性格になったのね。
ダリルの生きてる世界は 力が全て。 虐げられないためには 強者でなくてはいけない 。そんな殺伐とした生活を送っていたら 弱者など眼中にない。
だから人間と価値観が違って当たり前。 その悪魔に 人間の尺度を当てはめるのは 間違いかもしれない。
「今後 私の事を大切に扱うと約束してくれたら 今回だけは 特別に許してあげます」
悪魔のダリルが わざわざ私のために 忘れ物を届けてくれた事を考えれば 随分 譲歩してくれている。 今回は大目に見よう。 でも 気を抜かないようにしないと また何をされるか 分かったもんじゃない。
「 そうか。 なら 情報を教えてくれ」
コロッと態度を変えたダリルに ミリアは冷ややかな目を向ける。 あんなに傷ついた自分が馬鹿らしい。 所詮 悪魔は悪魔だ。簡単に 許した自分がいかに お人好しか痛感する。
今度 何かやられたらキッパリ縁を切ってやる。
「 今夜は遅いので 明日の放課後来てください」
ダリルを外に押しやって カーテンを閉める。
もう、甘やかしたりしないと、心に刻む。
***
「この物体は何だ?」
ダリルは お腹をパンパンに膨らませて 仰向けに寝ている元使い魔の腹を指で押す。すると 私の指をガシガシと 噛みつこうと反撃してくる。
それが 元主に対する態度か!
お仕置きだと 首根っこを捕まえて 投げ飛ばそうとすると ミリアに向かって 助けてと泣き出す。
「 もう離して下さい。キュル が可哀想です」
手を離すと 一直線にミリアの元へ行く。
あれは魔獣じゃない。 もはやペットだ 。その証拠に 首輪をしている。 全く嘆かわしい限りだ。
人間、 特に女は 小さなものに愛着が、わきやすい。 確か・・ 母性本能をくすぐると言ってたな。
「 痛かったですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
飽きることなくキュルを撫でているミリアを イライラしながら待った。 そう 話を切り出すのを待った。
「 可哀想に」
「・・・・・・・・・・・・・」
なんとか許してもらった手前 今はおとなしくしておこうと思ったが、 このままだと 何時まで経っても 本題に入れそうにない。
「もう大丈夫ですよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
もう待つのも限界だ。 さっさと情報を聞き出して 、とっとと帰りたい。
ダリルは、待ち切れずに聞くとミリアの手が止まる。
「それで お前の掴んだ情報は どんな内容なんだ?」
「えっ?あぁ、 同じクラスに エリザベスという子がいるんですけど その子がテストで満点を取ったんです。 それで何か裏があるんじゃないかという話題になって。・・ そうそう、テストって言うのは この前 点数を改ざんしてもらったアレです。 あの後 家に帰ったら両親が泣いて 喜んで 大変だったんです。 弟なんか」
「で!!」
終わりそうにない脱線話を 強制的に戻す。
本当にうんざりする。 こんなお喋りの女とは 1分でも早く別れたい。
「・・ どうしてかと言うと エリザベスは私と同じように 赤点の常連で 5年もそうだったんです。 5年です。 それが突然満点なんて 誰でもおかしいと思うでしょ?」
相槌を求められても そのエリザベスという小娘の事など知らない。 しかし、 知らないと言えば、また 脱線するに決まってる。
「そうだな。分かったから続けろ」
適当に頷くと 先を促す。
「そしたら クラスメイトの使用人が 手相占いの店に出入りしている エリザベスを見たんです。・・あっ、 手相っていうのは手のひらにあるしわの」
私に自分の手のひらのシワを 指差して説明しようとするが 興味がないと手で払って止める。
「 いいから、先を進めろ」
「 その占いの店で ペンダントを買ったみたいなんです。 そのペンダントは」
ミリアが顔を近づけると 声を潜める。
「なんでも願いを叶えてくれる 魔法のペンダントらしいんです」
ダリルは鬱陶しいと ミリアの額を指で押して遠ざける。
(魔法ねぇ〜)
エリザベスの話には興味がある。あの死んだ男も ペンダントを持っていた。
もし、同じ物なら・・。
「 そのペンダントを見たことがある人間はいるのか ?」
「同じかどうか分かりませんけど 私が、それらしいのを見ました」
ミリアが額をさすりながら不機嫌そうに言う。
実際のところ エスティーからの情報は無い。 渡された資料は 何の役にも立たなかった。
「 では 、エリザベスの家に案内しろ」
「 えっと・・その・・」
ミリアが困った顔をする。何だ?自分で振っておいて クラスメイトと言っていたが 訳ありか?
「 もしかして、知らないのか ?」
ミリアがとんでもないと 手を振りながらしどろもどろに言い訳する。
「 いいえ。 フルネームも 住所も知ってます。 ですが 友達かと言われると・・・ その ・・何と言うか 」
「問題無い。 それだけわかれば十分だ」
ミリアから住所を聞いたダリルは 帰ろうと 立ち上がると ミリアに引き止める。
「ボタンが、取れかかっています」
「 これくらい別に良い」
「 すぐ済みますから、 脱いで下さい」
ぬるくなった紅茶を啜りながら ミリオをぼんやりと眺める。 ボタン付けなど 指を鳴らすだけで済むのに どうして ミリアに頼んだんだ?
**
ダリルはビスケットを頬張りながら ロールからの報告書を読んでいた。
ミリアの言うとおり 何の努力もしていないのに、 占いの店で目撃された日を境に 成績が急に上がっている。 使用人に 聞き込みしたが、 何かを大事に持っていて 家族にも秘密にしていているらしい。
唯一、分かったことは 金色のモノだということ。
報告書投げると 手を組んで 黙考する。
限りなく黒に近い。・・・ 行ってみるか。
「 しかし 、これは美味しいな。 人間界の料理も 捨てたもんじゃないな」
ビスケットを食べようと 手を伸ばす。 砕いたナッツが何とも言えずに 後を引く。
「こちらは、 ミリア嬢の 手作りです 」
「・・・」
ビスケットを持った手が止まったが、 口に放り込む。 人間 何か一つは取り柄があるものだ。
「 ミリアといつのまに 知り合ったんだ?」
「 偶然 お会いした際に 挨拶しましたところ、 色々と親切にして頂きました」
何が 偶然だ。 どうせ 様子見に行ったんだろう。
ロール が素知らぬ顔で後片付けする。
名前を出したところから見て ミリアのことが気に入ったらしい。 どこが良いんだか 私には理解不能。
「ところで、 店の住所調べたか ?」
「はい。 王都の西側の地区にある 『魔女の館』という占いの店です」
「よし、 ミリアに 迎えに来るように言ってくれ」
そう言うとダリルは 皿を傾けて残りを全部一気に口に流し込み。
敵の店に乗り込むんだから 人目を避けた方がいいだろう。となると・・ 制服姿 じゃないほうがいいな。
部屋を出て行こうとする ロールを呼び止める。
***
ダリルに言われて迎えに来たのに 姿が無い 。
ミリアは御者が間違えたのかと 渡された地図を確認する。
合っている。
でも矢印の先は 5番地の家と 3番地の家の間を示している。 ダリルの家は 4番地。
でも、建物も扉らしいものも無い。
どういうこと?
窓から顔を出して キョロキョロと辺りを見回していると 横から声がする。
「 待たせたな」
見ると既に ダリルは座っている。
「 どこから来たんですか?」
「なっ」
ダリルを押しのけて 乗り込んだ方を見たが 家と家が並んでるだけ。
きっと仕掛けがあるのはず。
目を皿のようにして見ていると 空気が歪んで 家と家との隙間から ぬるりとロールが出てきた。
ここで当たってた。でも、どうやって?
「 ロール。 いったいどこから来たの?」
「 ミリア様。 先日はありがとうございました」 ロールが恭しく頭を下げる。
同じ悪魔でも ダリルと違って横柄な態度を取らない。 この前 少し話したが とても丁寧で優しかった。 人間を 家令にしているのかと 勘違いするほどだ。
「 今度、お時間がありましたら。 お尋ねください」
「ええ。 是非 」
親しげな雰囲気に笑顔を返す。
悪魔の家に招待されるなど 不思議なことだ。
チラリとダリルを盗み見したが 別に反対する気配がない。 どうやら社交辞令ではないらしい。
悪魔の家は どんな感じなんだろう?
余り おどろおどろしくないといいけど。
「 くだらん挨拶はいい。 ほら 、行くぞ 」
「いってらっしゃいませ」
ダリルが勝手に御者に合図を送る。
体をひねって 振り返ると ロールが笑顔で手を振っている。 ミリアも つられて手を振り返す。
「 しかし、 占いの店に行きたいなって 悪魔でも 色々あるんですね」
座り直しながら しみじみする。
完全無欠を自負しているらしいが やはり悪魔でも 悩みがあるのね。 そう思うと親しみを感じる。
「 無い。 興味があるのは ペンダントだ」
「まぁ、 アクセサリーにも 興味があるんですか」
やはりダリルは 違う。 服が好きだから 細部にまでこだわるね。 でも 占いの店で売っているペンダントって お洒落なの?
ミリアは首を捻る。
紙の擦れる音に横を見ると ダリルが熱心に ページを捲っている。
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