第9話 ダリルの能力

ダリルはドレスのカタログをめくりながら、 どれが一番 ミリアに似合うか選ぼうと していたが、 一向に決まらない。どのドレス も似合う。こうなると 逆に面倒だな。


「 何をご覧になっているんですか?」

覗き込んできたミリアを見て、 着るのは本人なんだから 選ばせようと パタンとカタログを閉じて 差し出す 。

ミリアが 怪訝そうな顔で カタログと私を見比べる。

「 何ですの?」

「 ドレスのカタログだ。 好きなの選べ。 作ってやる」

「はっ?」


ミリヤが、ぽかんと口を開けて 間抜けヅラで私を見る。 家族でもないのに ドレスをプレゼントすると言われたら 戸惑うのは当たり前か。

ダリルは 補足説明をする。

「 お前が、いつも同じドレスを着ているからだ」

「えっ? これの事ですか?」

「そうだ。 お前ならもっと似合うドレスがある」

顎でしゃくると ミリアが自分の服に手を当てる。 その 仕草 から 気に入っているようではないが、 愛着があるんだろうと 推察できる。


「 これは制服です」

「 制服? だが、 勲章 も エンブレムのついていないじゃないか」

軍服なら 階級と 所属を示すものがついているはずだ。 しかし、 それらしいもが無い。


すると ミリアが胸を突き出す。

「 ほら、ここにあります。 女学院の制服だと言う 証拠が」

よく見ると 制服と同じ色で 刺繍してあって目立たないようになっている。 これではエンブレムの意味がないじゃないか。


「 王都中の 女子の憧れの制服なんですよ」

「何が 憧れだ。 制服は制服だ。 それ以上の価値などない」

馬鹿にしたように言うとミリアが 頬を膨らませる。

「 ステータスなんですよ」

期待通りの反応示さない私に、 ミリアが文句を言う。

価値があるとミリアが訴えるが 一切響いてこない。

「 制服にステータスなど無い。そんなものに憧れるとは、 世も末だ」


人間が どうして同じ服を着るのが好きなのか 理解できない。 何のかんのと理由をつけて 同じ服を着せることで 連帯責任を持たせて 自分たちが、いいように管理されているだけなのに・・。 そんなことにも気づかないとは、 やはり人間は単純な 生き物 だ。

ミリアに言っても どうせ 捻くれ者と言うだけで、 聞く耳を持たないだろう。

なにせ彼女は 制服にステータスを感じるんだから。


「 そもそも どうして着替える必要があるんですか?」

「 お前はバカか! 制服で出かけたら目立つだろう」

「 お言葉を返すようですが 規則で通学時は着用するように義務づけられています。 それに、 この制服は 女学院の生徒であるという自覚と 責任と名誉を守るための服です」

堂々と言うが、 とてもミリアが守っているとは思えない。 よく退学にならないものだ。


「 それなら 尚更名誉を守るために 制服を着ない方が、 いいんじゃないか?これから 怪しい店に行くんだから」

「 そうですけれど・・・ この服、動きやすいんですよ。 自転車にも乗れるし」

「 自転車だと! お前の学校は 一体何を考えているんだ 。ドレス姿で そんなことをさせるなど、信じられない」


公園で見かけたが 若い娘が恥ずかしげもなく乗っていた。 今は、馬も 横乗りしない。

どんどん女が男の領分に 入ってくる。そのうち 女が国を統治する日が来るかもしれないな。


「 大丈夫ですよ。 ブルマーを穿いてますから。 ブルマーは、ですね。 かぼちゃパンツみたいなもので」

はしたない言葉を言おうとする ミリアの口を手で塞いで黙らせる。 男の前で 下着の話を臆面もなく喋るとは、 バカなのか? 無邪気なのか ?はたまた私が男として見られてないのか?


「ハレンチ この上ないな。 お前には 乙女の恥じらいと言うものがないのか ?」

「ハレンチって、 ダリルは いつの時代の悪魔なんですか?」

「様!ダリルじゃない。 ダリル様だ」


呼び捨てにするとは、 全く 悪魔の私のことを何だと思ってるんだ。 このままでは示しがつかない。 どちらが上か分からせる必要がある。


***


ダリルが 噛み付いてくるが、 敬称をつけるには 少しでも尊敬できる相手でなくては。

ダリルに そんなものなど感じない。

しかし、 ダリルの憤怒やまぬ表情を見て 仕方なく敬称をつける。

「・・・ ダリル様」


「 私は古き良き時代の悪魔だ。 それにしても お前は躾がなってない。 私は悪魔だぞ。 その上、年上だ。 私の名前呼ぶときは様をつけろ」

「はぁ・・」

「 親の顔が見たいとは、 こういうことを言うんだ」

「 親は関係ありません。 それに・・ダリルの恋人は服だから 女性に興味ないと思ったんです」


「 どうしてそうなる? 女性に興味を持たないから 呼び捨てにしていいと思っているのか?」

「 別に そういう理由では・・」

まさか 変態悪魔だからとは 口が裂けても言えない。

「じゃあ どういう意味だ?」

腕組みして聞いてくるダリルを見て 逃げられないと腹を括る。


個人の趣味を色々というのはどうかと思うが 、これからの事を考えれば オープンしておいた方が お互いの為だ。


「 私、 ピンと来たんです。あの ねっとりとした手つきを見た時。服が恋人なんだと 」

「 違う! あれは縫い目をなぞってただけだ 」

「良いんです。 何を愛そうと 個人の自由です。 私は博愛主義者ですから、 許します」


「 許さなくていい!」

ダリルが必死に言い訳する。

やはり自分でも 特殊な性癖だと 自覚しているのだろう。 でも 大丈夫。 ここに一人だけど 理解者がいる。

「 でも ホッとしました。 女性の服の方が まだ健全ですから」

「 人の話を聞け!」


「 ここは私の趣味ではなく。ご自分の趣味で選んでください。 一緒に並んで歩くんですから、 その方が嬉しいでしょう。 私が着るのは 不満でしょうが我慢してください」

ミリアはカタログをダリルに手渡すが 受け取らずに 私の肩を掴むと グラグラと 揺らす 。


「 違うんだ! あれには理由があるんだ 。私は変態ではない。 信じてくれ !」

「じゃ、じゃあ・・なっ、何で・・すか?」

揺さぶられながら問うと ダリルがピタッと 動きを止めて私は見る。 その顔には、ためらいがある。 しばし黙っていたが ため息をつくと 仕方ないといいように重い口を開く。


「・・・はぁ〜・・ 。私は一度 手にしたものを再現できる能力がある。 だから 自分の服も自分で作ってる。 だが 再現するためには 詳しい情報が必要になる。 パンの材料があっても 作り方を知らなければ パンが出来ないのと一緒だ。 だから触ったんだ」


「器用なんですね」

感心して言うと ダリルが複雑な 表情して私を見る 。 別に秘密にするようなことではない。

・・もしかして、 悪魔だから? 悪魔が服を作っていることを知られるのが恥ずかしいから?

いまいち ピンとこない。

「 魔法を使えるように どうしてわざわざ 作る必要があるんですか?」

「 魔法の本質を知らない、お前には 一生かかってもわかるまい」

「 言ってみないと分からないじゃないですか」


「お前には論より証拠だ 」

そう言うと ダリルが走っている馬車の窓を開けて 枝をむしり取った。 それを 両手 で丸めているうちに 糸になり、布になり、巾着になった。 釘付けになる。 とても不思議だ。


「仕組みを知っているから、 木からでも物が作れる」

「 凄いです! 魔法みたいですね」

「 だから、 魔法じゃないと言ってるだろう。 能力だ! 能力!」

本人は魔法だと 勘違いされるのが不本意らしいが 、人間の私から見れば 魔法も 能力も変わりない。

巾着受け取ると ひっくり返したり 中を覗いたりしたが、本物そっくり。

ご丁寧に 私のイニシャルまで 刺繍してある。とても可愛い。友達に見せたら、羨ましがられる。


「明日の朝になったら消えてるとか?」

ダリルが首を振って太鼓判を押す。

「 無い。 人間界にある材料で作ったから 大丈夫だ。 そこが魔法と違うところだ」

「 良かった」

ミリアは微笑むと 大切にしようと巾着を自分の胸に当てる。


「 いいか 私は服を作るために触っただけで、 好きとは違う。わかったな?」

「一応・・」

必要以上に、触っていたような気もするが、 ここは信じよう。

ダリルが、ほっとした肩の力を抜く。

その姿にミリアは 疑惑に満ちた目で見る。

どっちでホッとしたの? 信じてもらえたから? 性癖がバレなかったから?

とりあえず前者ということで、 その方が私も安心できる。


「分かったなら、早く選べ 」

ミリアはカタログをパラパラとめくる。

色々なデザインが載っていて 目移りしてしまう。 ここは あまり着たことのない大人っぽいデザインにしようかな。


悩んだ末、ページを開いて指差す。

「 これが良いですわ」

ダリルがジッとカタログを見た後、私の肩に手を置いて反対側 の手で 指をパチンと鳴らす。

すると来ていた制服が バラバラのパーツになったかと思うと 次の瞬間には カタログ通りのドレス姿になっている。

感動しているとダリルが ドレスに何度も手をかざして色を変える。


「おぉ!」

「まっ、こんなもんだろう」

ミリアは歓喜の声を上げると 出来栄えに満足してドレスに 手を滑らせる。

生地も綾織のサージから 平織りのモスリンに変わっている。 本当に生地から作れるんだ・・。 ここまで来ると 凄いを通り越して怖い。


また指を鳴らす音に面をあげると コロリとキュルが 転がり出てきた。

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