第6話 教会での戦い
ダリルは、 帰ってくるなり カウチに、どさりと腰掛けて 天井を見上げる。
夜光虫を閉じ込めた シャンデリアが、 ぼんやりとした明かりを灯している。
「 疲れで御座いますか?」
「あぁ、疲れた」
ロールの気遣しげな声に、 ダリルは素直に 認める。
大したことは してないのに 魔獣を100匹連続で 退治したぐらい疲れた。
「 一体、何があったのでございますか?」
ロールが そう言いながら ワインとつまみをテーブルに並べる。
ダリルは ロールの顔をじっと見る。
本音を言えば 洗いざらい喋りたい。
そして 何時ものように 何も聞かずに聞いて欲しい。 だが 、たった一人の女のせいだとは 言えないし、私のした事を言えば やれ短気だ、 やれ配慮が足りないと 逆に説教するに決まてる。
全く 命の恩人の私を何だと思っているんだが、 口うるさくて構わん。
「大した事ではない」
ダリルは出されたワインを呑む。 このモヤモヤは 酒で晴らすしかない。
「 そうですか。 それで ミリア譲と 契約なさったんですか?」
「まだだ」
ロールの質問に ミリアの顔が浮かんだが 、すぐに消える 。さっきの様子だと 簡単にはいかない。
女は、へそを曲げると長い。
ミリアが劣ると言う訳では無い。
見た目だけなら ナンバーワンだろう。
だが、 私が求めるのは その上だ。
「一応 リストアップしましたので、 ご覧下さい」
ロールが リボンを巻いた紙を トレーにのせて差し出すが、 受け取らずに一瞥だけする。
見るよりも 直接聞いた方が早い。
「 それで どうだった。 見つかったか?」
「 残念ながら おりませんでした」
「 何でだ? 無理な条件は 言ってないぞ」
人間など 大勢いるのに 候補者が一人もいないなど 考えられない。
「昔と違って 武芸といっても 護身術程度です。 今の人間の女性に求められているのは 良き娘、良き妻、 良き母、 つまり 良妻賢母という事です」
「 私が必要としているのは 妻では無い。 私の手足となって 働く者だ。 全く くだらない世の中になったものだ。 そんな女の どこに、魅力がある」
少し前なら 女の騎士も 沢山いたのに。 これでは ミリアと変わらないじゃないか。
代わりが見つかったら お払い箱しようと思ってたのに。
「 考え方の違いです。 人間は昔から 男は外で働いて、女は家で子育てするならわしです。 私たちのように 寿命が長くありませんから 致し方ありません」
ダリルは、リストを掴むと 手のひらに打ち付けながら ロールの意思を推し量る。
つまり 探すだけ無駄と 言いたいのか?
ミリアをクビにして 他の女を探すか?
しかし 初めから仕込むのも 面倒だし・・。
「 ミリア嬢に 奴隷の刻印は すれば、 全て解決するのではありませんか?」
「ただの操り人形に 興味は無い」
ダリルは ロールの意見を あっさりと却下。
確かに 奴隷にすれば 絶対服従だが 言われたことしかしないのは 逆に不便だ。
究極の選択 ミリアを受け入れるか、 受け入れないか。
受け入れたくないが 情報が欲しい。
それが 正直な気持ちだ。
今まで妥協したことなどなかった。自分の思うがままに生きてきたのに まさか この歳になって経験するなとは。
ダリルを諦めたように ため息をつくと リストを暖炉に放り込む。
仕方ない。 明日にでも 会いに行くか。 単純だから 適当に言いくるめれば 平気だろう。
「 一応 ミリアで手を打つ。 だが 引続き候補者を探せ いいな!」
「かしこまりました」
***
ミリアは 馬車の中で ダリルに来て欲しいのか、 欲しくないのか 自分の気持ちが分からない。
私にだって フライトはある。
あんな事したくせに 謝らない。
泥が無くなったからといって 行ったことまで元に戻るわけではないのに、 本人は何とも思っていない。
それが一番頭にくる。二度と会いたくない。
でも、 来ない 理由が 私の代わりが見つかったという事なら、 それはそれで不満だ。
まるで私に 価値がないみたいで、気分が悪い。
ミリアは 馬車が目的地に向かっているかどうかを 窓から確認すると 背もたれに寄りかかる。
やはり このまま有耶無耶には出来無い。
懲らしめて 一泡吹かせたい。
腕組みしながら 色々と考えを巡らせていると パサリと絹擦れの音がした。
目だけ動かして 横を見ると ダリルが座っている。
( 来た!)
ミリアは心の中で ガッツポーズ。
企みがバレ無いように 無言でプイと横を向く。
すると、ダリルが咳払いして 徐にに喋り出したが 完全無視。
「こほん。何だ・・その・・」
「・・・」
「まだ 、怒ってるのか?綺麗にしただろう」
謝るのかと 密かに期待してたのに。言わない。
そっちがその気なら こっちも言わせてもらうわ。
「 当たり前です。 私は人間なんですよ。 それを靴が汚れるからと 水溜りに投げるなんて。いくら紳士気取りでも 中身が伴わなければ、 タダの偽物です。 そう あなたは 似非紳士です」
ミリアは間髪入れずに 罵ると ダリルの顔が 見る見る険しくなっていく。
でも 、構わない。 私が傷ついた分 傷つけたい。
「 お前のことなど 簡単に殺せるんだぞ!」
私の顔の横にドンと両手をついて 強引に目線を合わせてくる。
青筋を立てたダリルの顔を見て いい過ぎだと思ったが、 それでも 顔を背けて文句を言い続ける。
「そっ、 そういうところ 紳士的じゃないです」
「なにぃ〜」
ダリルが自分の額を 私の額に ゴリゴリと押し付けて プレッシャーを与える。
ミリアは 身の危険を感して 二人の間にカバンを差し込む。 ささやかな抵抗だが 少しでも離れたい。
(あぁ、 早く着いて!)
心の中で祈っていると 馬車が止まる。
ミリアは頭を引っ込めて ダリルの腕から転がるように 外に出る。
ミリアは 女学院 近くにある教会に向かって走る。
もう少し、 もう少しで助かる。
悪魔の弱点= 聖なる物。
その象徴といえば 教会。
教会の中に人影はなく、 がらんとしていて 静まり返っている 。聞こえるのは 自分の息遣いだけ。
ミリアは 呼吸を整えながら 祭壇近くの ベンチとベンチの間に 四つん這いになって隠れる。
ダリルの性格からして 絶対追いかけてくる。
教会の中に誘い込めれば 私の勝ち。
荒々しい靴音が、どんどん近づいてきたかと思ったら、 大きな音がする。
バーン!!
それと同時に 扉が頭上を飛ぶ。
(ひっ! 殺される)
扉が壁にぶつかって 床に落ちると 土煙が立つ。
ミリアは 両手で口を押さえて 悲鳴が漏れないようにするので精一杯。
覚悟してたけど ここまで恐ろしいとは。
気絶しそう。 恐怖で手の震えが止まらない。 自分の心臓の音が、 ダリルに聞こえるのではないかと 思うほど ドクン、ドクンと 大きく打っている。
今すぐ降参したい。 でも ノコノコ出て行っても、 もう許してはくれまい。なら、決行するだけ。
ガラスを踏みしめながら ダリルが 一歩一歩近づいて来る。
( 落ち着いて。・・ 落ち着くのよ)
ミリアは深呼吸すると ポケットから 十字架を出して 命綱の様に握りしめる。
勇気を出すのよ。 ダリルに 何をされたか忘れたの?
ここで止めたら プライドが傷ついたままよ。
目の前に よく磨かれた 革靴が立ち止まる。
今だ!!
ミリアは 勢いよく立ち上がると ダリルに向かって 十字架を突きつける。
「 アーメン!」
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