第129話『隠密親衛隊の変遷』1
憎しみで人が殺せたら。
ふとそんなことを考える。
身震いするね。
もし出来たのなら僕の命など真っ先に消えるだろう。
冗談じゃなく。
何故かって?
「どうしました兄さん? 遠い目をして……」
華黒が疑問を口にする。
「………………真白お兄ちゃん……食欲無いの?」
ルシールが心配してくれる。
「あはぁ……黛さんはなんとなく解っちゃいました……」
黛はこういうことに聡い。
多分華黒も悟ってはいるだろうけど。
ルシールは………………わかっちゃいないだろうけど可愛いから別に良し。
このかしまし娘は一人残らず美少女だ。
そんな三人に囲まれて学食を利用している平凡な僕。
スクールカーストは最底辺だけど。
……コホン。
つまりあんまり特徴の無い……ある部分嘘だけど……平凡な僕と美少女三人組が仲良く食事なぞしていたらそりゃ周りの人間には面白くないわけで……。
嫉妬の視線が刺さるわけで。
針のむしろなわけで。
昴先輩ならその嫉妬の視線さえ自分の優位性を証明する手段や評価と見なすだろうけど僕には無理なわけで。
「はぁ……」
溜め息をつく他なかった。
あからさまな溜め息に、
「………………お兄ちゃん……具合悪いの?」
ルシールが心配そうに聞いてくる。
このずれた心配……実にルシールだ。
華黒と黛は溜め息の原因がわかっているだろうけど、ルシールはまだ人間の悪意と害意に対して無頓着だ。
責めているわけではない。
それは僕に言わせれば貴重な資質だからだ。
ある意味で華黒にこそ持ってほしい能力ではあるけれど……過去体験故に無理に押し付けるわけにもいかない。
そういう類のモノである。
僕はコーヒーを飲むと、
「大丈夫だよ」
とルシールに言った。
「………………本当?」
「本当」
嘘だけどね。
さりとて心配なぞさせるだけ損だろう。
自分……この場合はルシールである……に僕の憂鬱の原因の一端があるなどと話せばルシールは自責すること必至だ。
故に口を閉ざす。
黛に目をやると、
「わかってますよ」
と表情で答えてくれるのだった。
「で? 何の話だったっけ?」
「ですからまたルシールに恋文が」
ペラペラと恋文の入った封筒が黛の左手で揺すられる。
それは聞いた。
「ですからお姉さんとお姉様に御足労願えれば、と」
「構わないけどね」
「………………いいの? ……お兄ちゃん」
「もちろん」
気負いを見せずに僕。
それは華黒もそうだったし黛もそうだ。
「ルシールは困っているのでしょう? なら付き添うのは当然です」
「黛さんも一緒だから安心してね?」
それぞれルシールの不安を吹き払う。
「………………あう」
申し訳なさそうにルシールは呟く。
そんなルシールの頭を撫でて、
「四人揃えば黛さんたちは無敵だよ」
元気づけるように黛。
僕はコーヒーを飲む。
「まぁ」
と間を持って、
「ルシールが誰かの物になるのも見逃せないし」
からかってみる。
「………………」
ルシールは沈黙した。
おそらく言葉を理解できなかったのだろう。
一秒。
二秒。
三秒。
それから、
「………………ふえ!」
と顔を真っ赤にして狼狽えた。
「ん」
それでこそルシール。
可愛いなぁ。
「兄さん?」
あ……こっちの存在を忘れてた。
「それは私に言うことではないですか?」
「だって華黒はもう僕の物でしょ?」
「それは……そうですけど……」
唸る華黒。
「罪な人ですな」
黛がケラケラと笑う。
「むぅ……」
「………………ふえ」
華黒とルシールはそれぞれ言って沈黙するのだった。
「ともあれ事情はわかったよ。時間は?」
「放課後です。場所は屋上」
「うん。了解」
そう言って僕はコーヒーを飲む。
甘露甘露。
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