第130話『隠密親衛隊の変遷』2
ウェストミンスターチャイムが鳴る。
時間の切り替わりの合図だ。
ホームルームから放課後へ。
一字一句まで合ってはいないけど気を付けて帰れよなどと言いながら担任の教師は教室から姿を消した。
さて……。
憂鬱の時間がはっじまっるよー!
ヒュー!
放課後……それは時として僕に牙をむく。
実際問題として他人事なんだから僕が憂鬱になる必要は無いんだけど……それでもテンションやや落ちになるのは避けられない。
無論おくびにも見せないけど。
「兄さん」
と後方から華黒が声をかけてくる。
凛と鈴振る声だ。
リズミカルにして心地よい……そんな声。
天は二物を与えずってのはつくづく嘘だぁね。
こんな完璧超人……ゆで理論ならどれだけのパワーを計測できることか。
とまれ、
「お心の準備は出来てますか?」
華黒はそう問うてきた。
「まぁそれなりに」
ぶっきらぼうに僕。
元々、
「学校の人間には嫌われるだけ嫌われればいい」
と言っていた華黒だ。
今回の状況と僕の行動はそれなりに条件を満たしている。
わかる奴だけわかればいいってのも殿様商売的で何だかなぁ……。
チラリと統夜を見る。
視線が重なった。
ニヤリと笑われる。
状況を察しているらしい。
どうやっているのか知らないけど統夜はたまに盗聴器でも仕掛けてるんじゃないかと思うほど耳の早いところがある。
そして全てを理解してのニヤリである。
我が親友ながら、
「君子危うきに近寄らず」
を徹底している。
……本当に親友と呼んでいいのだろうか?
辛い友、あるいは辛口の友と書いて辛友とでも呼ぶべきか。
ともあれ状況は進む。
「おーい」
廊下から快活な声が聞こえてくる。
「お姉さーん。お姉様ー」
元気な声。
明瞭な声。
黛だ。
ボーイッシュな魔力を持った後輩にして僕に付きまとう……周りには僕が付きまとっていると誤解されている……かしまし娘の一人。
黛がはたはたと手を振っていた。
上級生の教室ということに対してなんらの抵抗も覚えていないようだ。
それでこそ黛なんだけどさ。
そしてその隣。
扉の影から頭だけ出しておずおずと僕と華黒を見やる金髪碧眼の美少女。
おずおずの代名詞。
百墨ルシールもいた。
二人に向かってヒラヒラと手を振ってみせると、ルシールは扉の影に完全に隠れ、黛は華やかに笑った。
どっちも可愛い仕草だ。
うーん。
八十点。
「では役者も揃いましたし……行きましょう兄さん?」
華黒は自然に僕の腕に腕を絡ませた。
恋人の特権。
リア充爆発しろ的な。
教室の男子の視線が痛い痛い。
無論気圧される僕じゃないし華黒じゃない。
これからのことと同じくちょっぴり憂鬱は覚えるけどね。
スクールカースト最底辺の宿業だ。
僕と華黒は仲睦まじくクラスの扉を潜る。
そしてルシールと黛と合流する。
「おまたせ」
「いえいえ今来たところです故」
やっぱりベタだ。
「………………本当にいいの……お兄ちゃん?」
「大丈夫だよ」
安心させるためのルシールの頭を撫でる。
「何があっても僕はルシールの味方だから」
「………………あう」
ルシールは紅潮してしまった。
「ルシールは愛らしいなぁ」
黛がからかう。
まったくもって同感だ。
閑話休題。
「場所は屋上だっけ?」
「はいな」
黛が頷く。
聞いたのはルシールに、なのだけど既にこの案件を取り仕切っているのはルシールではなく黛らしい。
黛はルシールの手を取る。
「それじゃ屋上に行きましょう。ね? ルシール」
「………………うん」
黛に手を握られていることに抵抗は無いらしい。
こういうところは本当に理想の共生と思わされる。
僕こと真白は華黒に物理的に依存し、華黒は真白に心理的に依存している。
そんな関係とは大違いだ。
羨ましくもあったけど僕たちとルシールたちとでは当然ながら運命が違う。
仕方ないと思わざるを得ない。
ああ、告白?
ルシールが袖にして終わりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます