第123話『真金拘束』4
引き続きゴールデンウィーク。
「あー……うー……」
僕は僕のアパート……その部屋のダイニングで眠気覚ましにコーヒーを飲んでいた。
華黒の淹れてくれたコーヒーである。
白花ちゃんに拉致られたことは僕の責任じゃないけど、ともあれ華黒ときたら不機嫌まっしぐら。
機嫌を直してもらうために一緒にお風呂に入ったり添い寝したりとご機嫌伺いをせねばならなかった。
ま、雨降って地固まる……と言ったところだろうか。
朝におはようのキスをすれば華黒の機嫌はたちどころに晴れ渡った。
そんなわけで安っぽいご機嫌で僕に奉仕してくれる華黒はニコニコ笑顔でダイニングテーブルの僕の対面に座って幸せオーラを振り撒く。
「それ以上の幸せが何処にある?」
華黒の笑みはそう語っていた。
色々あると思うんだけど……それは言わぬが花だろう。
「あー……うー……」
眠気がとり払えない故にコーヒーを飲んでるけど即効なわけもなく、席に座ったままこっくりこっくりと頭部を上下させる僕。
「まだ眠たいのですか兄さん? ミントのガムがありますけど?」
「うー……いらない……」
コーヒーをズズと飲む。
と、ピンポーンとドアベルが鳴った。
華黒の表情に緊張が奔る。
当然だ。
僕には前科がある。
正確には僕じゃなくて白花ちゃんなのだけど。
ともあれ応対しに華黒が玄関へと向かう。
さて問題です。
此度のお客様は誰でしょうか?
ヒント一。
「ジュテーム」
ヒント二。
「きゃああああああああああっ!」
ヒント三。
「散る桜の趣さえ華黒くん……君の前では色あせるね」
ヒント四。
「抱きつかないでください! 気持ち悪い!」
ヒント五。
「それは無理な相談だ。愛らしい君を抱擁しないなんて嘘だよ」
ヒント六。
「私を抱擁していいのは兄さんだけです!」
さて、誰かわかったかな?
正解は、
「やあ真白くん。酒奉寺家の婿養子になる決心はついたかい?」
百合の権化……酒奉寺昴先輩その人です。
ティーシャツに春らしいジャケット。
穿いているダメージジーンズはおそらく百万はくだらないだろう。
「そんな決心を持ったつもりはないですけど……」
コーヒーを飲みながら応対する。
「何? 真白くん……君は私をいかず後家にするつもりかい?」
「華黒と似たようなことを言うんですね」
苦笑してしまう。
愛されてるなぁ僕……。
「それで?」
「とは?」
「用もなく僕と華黒の城に出向いたわけでもないでしょう?」
そんな僕の皮肉に、
「愛しい真白くんの顔を見たい。それだけで訪問するに十分だが?」
堪えた様子は先輩には無かった。
さすがだ。
けど嘘でもあるだろう。
だから僕は更に問うた。
「何のご用でしょう?」
「真白くん……それから華黒くん……」
「何でしょう?」
異口同音に僕と華黒。
「デートをしよう」
「はあ……」
僕がぼんやりと肯定して、
「ありえません!」
華黒が過激に否定した。
「兄さんと交際していいのは私だけです!」
「だから私が真白くんとデートする。華黒くんは真白くんとデートする。真白くんは二股デートを楽しめばいいだろう?」
「…………」
思案顔になる華黒。
おいおい。
それでいいのか妹よ。
「ハーレムはいいんですか?」
「ゴールデンウィークの前半で全て義理は済ませたさ。だからこうやって百墨兄妹に声をかけている」
……なるほどね。
「僕は構わないけど」
「正気ですか兄さん!」
「華黒とデートできるならどんな状況でもいいんじゃない?」
「あう……」
プシューと茹でられる華黒だった。
うん。
可愛い可愛い。
「で? 何処に行くんです?」
「都会の方面まで行こうじゃないか。足はある」
「妥当な落としどころですね」
少なくとも僕にとっては。
「ついでに華黒くんと真白くんの服を見繕ってあげるよ。なに……任せたまえ。服のコーディネートならお手の物だ」
うわ。
嫌な予感……。
そんなわけで僕と華黒と昴先輩とでデートすることが決まった。
やれやれ。
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