第110話『与えられるモノ』3
というわけで二年生に進級。
華黒は相も変わらずクラスメイト。
まぁ別のクラスになられるより面倒がなくていい。
猫の被り方は既にプロの域だが、僕とのお付き合いもあって最近は猫に少しだけ本音が混じることもないではない。
いい兆候だ。
「兄さん以外の人間に本音を晒す必要がない」
という考え方も僕にとっては解決すべき命題の一つだったからだ。
無論のこと作用には反作用が付随する。
本音を少し他人に見せるということは、即ち学校でも僕とイチャイチャラブラブコメコメしたいと相応に意志表現することに他ならない。
そっちについての解決策は今のところ思いついていない。
男子からは嫉妬の視線が。
女子からは胡乱な視線が。
それぞれ僕に刺さる刺さる。
自業自得……得をしてないから自業自損と言うべきかな……ではあるが故に僕は今日も嘆息する。
そんな華黒は新しいクラスに入るなり女子に声をかけられてチラッと鬱陶しげな表情を僕にだけ見せ、猫を被って応対した。
「香水つけたんだぁ?」
「ラベンダーです」
そんな切り口から始まり姦しい会話を繰り広げる。
このあたりの女子力は大したモノだ。
友達の少ない僕としては見習いたくあるけど、そもそも猫の被り方がわからない。
僕の多数ある欠点のわずか一つだけどさ。
僕は指定された席に座る前に見知っている女子がいたから声をかけた。
「やっほ」
「やっほ……」
碓氷さんだ。
「碓氷さんもこのクラスなんだ?」
「うん……まぁ……」
頬を桜色に染めておずおずと碓氷さん。
虐められた過去を持つ女の子だ。
人と対面するのが恐いのかな?
それとも僕が避けられてるだけ?
試しに聞いてみる。
「これから一年間よろしくね」
「こっちこそ……」
嘘の予兆は発見できなかった。
僕の認識が正しいのか。
あるいは碓氷さんが僕より上手なのか。
前者だと思っておこう。
どっちにせよ一年間顔を突きつけあうのだ。
ここで自責する必要もないだろう。
「百墨さんとも同じクラス……だね……」
「まぁいくつかの事情と思惑が錯綜していまして……」
あははと渇いた笑い。
「華黒とも仲良くしてくれると兄として嬉しいかな」
「うん……。頑張ってみる……」
「感謝」
僕は右手を差し出す。
「…………」
碓氷さんは桜色の頬を桃色に染めて僕のシェイクハンドに応じた。
うん。
良かれ良かれ。
「じゃあ碓氷さん、またの機会に」
「うん……」
そう言って手を離すと僕は自分の席に着いた。
鞄を横のフックに引っ掛けて、ギシリと椅子の背もたれに体重を預ける。
そこに、
「よう」
と声をかけられる。
ソイツは僕の前にある空席の椅子に馬乗りで座り僕と対面する。
昴先輩と同じツンツンとした癖っ毛の男子だ。
美男子ではないけど好男子と呼んでいい奴。
部活はしていないが体つきは平均より逞しい。
そう言えばソイツの家では護身術を教えられるんだったっけか……。
酒奉寺統夜。
それがソイツの名前だ。
昴先輩の弟。
僕の手首の傷と女顔を差別しないで接してくれる唯一の男子。
即ち貴重な友達だ。
「おはよう真白。美少女複数名を連れて登校とはいい度胸だ」
「おはよう統夜。どこで聞いたのソレ?」
相も変わらず耳の早い。
「既に噂になってるぞ。華黒ちゃんだけでなく他にも二人連れて歩いていたってな」
「まぁ袖擦り合うも他生の縁っていうし」
「知り合いなのか? ハーレムなのか?」
「前者」
僕は頬杖をつく。
「僕の従姉妹とその友達。アパートの隣室……つまりご近所さんになってね。登下校を一緒することになったんだよ」
「金髪の方は?」
「外見まで出回ってるの?」
「そりゃ金髪の美少女ともなれば噂されない方がおかしいだろ」
だね。
「金髪の子は百墨ルシール。僕の従姉妹だ」
「新入生の間じゃちょっとした有名人だぞ。入学早々他の一年生の男子に目をつけられたらしい」
「可愛いしね」
「とんだジョーカーだな」
「そういう目で見てはいないけど。僕には華黒がいるし」
相手方がそうじゃないことまで統夜に説明する義理もないだろう。
「リア充め」
「本当にリア充なら統夜以外にも友達がいるはずさ」
「ごもっとも」
くつくつと統夜が笑う。
不本意だなぁ。
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