第102話『生まれ出でた日に祝福を』1
「誕生日……ねぇ?」
僕はズズとコーヒーをすすった。
無論のこと華黒が淹れてくれたものだ。
今日は四月二日。
僕の誕生日。
ちなみに昨日……四月一日は華黒の誕生日であった。
しかしややこしいことに四月一日はエイプリルフールで、どんな真摯な言葉も嘘に変換できる日である。
故に華黒の誕生日も四月二日に祝うのが通例。
今年から策謀するだろう連中にはその旨通達してある。
抜かりはない。
ちなみに昨日の朝と今日の朝に祝福のキスは華黒と済ませてある。
言葉は嘘に出来るけど行動は嘘には出来ない。
そこに込められた意志には嘘がつけるけど結果論で問うなら無益な嘘になってしまうのは……まぁご存知の通り。
そんなわけで、
「おはようございます兄さん」
「おはよう華黒」
「誕生日おめでとうございます」
「ありがと」
という流れでキスをしてしまったのである。
いいんだけどさ別に。
僕も華黒のことは好きだから。
本人に言うと調子に乗られるから一切口にはしないんだけど。
ツンデレかな?
とまれかくまれ、嵐の前の静けさを前に目を覚ますべくコーヒーを飲む僕だった。
ピンポーンとドアベルが鳴る。
来た。
さぁ一番手は誰だろう?
「はいはいはーい」
と華黒が玄関に出向いて応対する。
ダイニングでまったりしてると口論が聞こえてきた。
華黒にしてみれば僕の誕生日を祝う人間は自分だけでいいとでも思っているのだろう。
その辺の意識改革が僕の命題の一つだ。
そしてしぶしぶと云った形で華黒に招かれ顔を出したのは幼女だった。
小学生。
僕はそれが誰だか知っていた。
「諦めましたよ!」
「どう諦めた?」
「諦めきれぬと諦めた!」
さいですか。
名前は
僕の本物の従姉妹だ。
白坂家はこの辺りの地主である酒奉寺家……その隣街の地主として有名だ。
僕はその白坂の血を引いていたりする。
高貴な生まれって奴かな?
自覚はまるで無いけど。
一線引いて付き合ってはいるんだけど白坂家としては僕を白坂に引き込もうと色々画策しているらしい。
それと密接に関係しているわけではないのだけど……とまれ白花ちゃんは僕のことが大好きでこうやってちょくちょく訪問してくる。
今日は僕の誕生日ということもあって訪問してくるだろうことは予想の範疇だ。
驚くほどのことでもない。
「お兄様の誕生日を祝福しようとしましたのにクロちゃんが威嚇してくるんですよ。お兄様……躾はちゃんとなさってくださいな」
「一種の様式美だよ」
レゾンデートルとも言う。
「ともあれお誕生日おめでとうございますお兄様。ささやかですがプレゼントです」
そう言って大きな袋を示してみせた。
さっきから気になっていた袋ではあるけれどやっぱりの僕へのプレゼントか。
「中身はなぁに?」
「和牛セレクションです」
「なるほどね」
ちなみにここに訪問してくるだろう人間には、
「プレゼントは消耗品に限る」
と伝えてある。
そうでもしなければ指輪だのなんだのと扱いに困るモノを贈られる可能性があったからだ。
消耗品なら消費すればいいのだから後腐れが無いと……そういうわけ。
「華黒」
「何でしょう兄さん?」
「コーヒー。三人分」
「白花にまで茶を出せと?」
「お客をもてなさないでどうするのさ。しかも僕を祝福してくれる人に対して」
「むぅ」
「クロちゃん……私ミルクと砂糖たっぷりで」
「……………………了解しました」
不満そうにキッチンへと消えていく華黒。
「華黒がごめんね。あまり嫌わないでやって」
「私も同じだから気持ちは痛いほどわかるよ」
小学生なのに何だかなぁ……。
「それよりお兄様?」
「なにさ?」
「いい加減白坂家に帰順されては?」
「百墨の父さんと母さんには良くしてもらっているしねぇ……」
「手切れ金はちゃんと積みますよ?」
「白花ちゃんならそれで不十分ってことくらいわかってるでしょ?」
「まぁ……」
ムスッとする白花ちゃん。
良かれ良かれ。
華黒のふるまったコーヒーを飲みながら白花ちゃんが言う。
「略奪愛も困難であるほど燃えますし」
当人は気付いてないけど小学生の言葉じゃない。
好かれるのは純粋に嬉しいんだけどね。
華黒が口を挟む。
「いい加減諦めませんか? 兄さんは私の恋人です。あなたのお兄様ではあっても恋仲には至れませんよ?」
「だから諦めましたよ」
「どう諦めた?」
「諦めきれぬと諦めた」
ちゃんちゃん。
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