第12話 そして当日 ~誤解を恐れず言おう。《創られたお前たち》~

「だからかな、アイツがそっちに飛んだ時点で、色々イレギュラーではあったと思うんだ。ヒロインって言うのはさ、純真無垢の天真爛漫なただの街娘。ひょんなことから身分違いの者達に囲まれ、やがては大きな事件の渦に巻き込まれていく。その先で一人か、全員か、相手を……いや、だが今のアイツは違う。《預言者》、そんな役割、無かったはずなんだぜ?」

「我々は、お嬢様が時折示す選択によって何度も救われました。周囲の者がお嬢様を《預言者》と呼ぶようになったのは、誰もが気づかない黒い陰謀、大きな《闇》にいち早く目を付け、先んじて対処することで幾多事なきを得たことによる賛辞なのです」


「先んじて対処か。当然だ。あいつは知っていたから」


 もはや打ちのめされたリヒャルト君の変わりに俺に反応を見せるのはヴィルヘルムだった。

 ただ、ここまでは……いい。俺にとっての勝負は、ここからだ。


 墓参りについて、ヴィルヘルムに打診したときから、話し方とか、考えてきたんだ。


「誤解を恐れず言おう。《創られたお前たち》」

「ッ! 孝之殿! それはっ!」


 俺の呼びかけに、あれほど従順だったヴィルヘルムは敵意を向けてきた。


「あの部屋を埋め尽くしていたグッズ同様、お前たちが描かれた物はこの世界にたくさんある。シナリオとは物語。登場人物が存在する。文章は、挿絵があれば入りやすい。この手の物語の主要人物は容姿端麗成績優秀ってのがお約束でさ。シナリオは商品だ。商売だ。人気が出れば派生する。そういうことで、お前たちの姿絵は、あのような形でグッズとなり販売された」

「商品。創られた存在……なら、私たちは。私たちは……」


 そう、それでいい。


うつろなる存在か? 『はじめは俺もそうだったよ。居るはずのない、作り物の存在がどうしてあの時俺の目の前に現れやがった?』なんて思ったもんだ」


 敵意とともに漏れ出るものは恐れだ、不安だ。俺の目を見つめ続ける彼からはソレしか感じなかった。


「……だけど……な? 俺が飲んだ、お前が作ってくれた味噌汁は現実だったよ。ヴィルヘルム?」


 だが、だからこそこれまで以上に集中して聞いてもらえるかもしれない。俺は……それを期待した。

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