第11話 そして当日 ~《恋嵐剣魔のヴァルキュリス》~

「《恋嵐剣魔れんらんけんまのヴァルキュリス》。この世界で発売されたゲームソフト。いわば遊戯……というか、選択によって違う結末が用意されているシナリオといえばいいか。どこの神か悪魔が、お前達の世界を手がける際に参考にしたかは分からないが、そのお話の世界が、お前たちの世界のモデルになった」

「選択によって違う結末が訪れる?」

「まぁ、俺自身プレーしたことがあるわけじゃないから詳しくは無いけど。ただ、その遊戯は販売物だ。となれば供給元も居れば開発者だって居る。シナリオといったな。お前たちにとっての命運を、筋書きとして作ったシナリオライターだって居るだろう」


 顔面蒼白となったリヒャルトから目を背けたくなった。ただ、それでもそれはかなわなかった。

 あの部屋を見られた時点で俺だって覚悟していたから。すべてを、ぶちまけなくてはならないと。


「選択によって違う結末が訪れる。とはいえ、そのシナリオは商品だ。だから違う結末だってあらかじめ用意されたものとなる。完成されていない不完全な物など、商品にはならないからね」


 話しながら、俺は手持ち桶に入れてきた大量の水を、柄杓で救い上げて墓に掛け始めた。


「プレーヤーというのが存在する。その商品を購入し、シナリオライターが書いた話の流れ、つまりそのシナリオを元として生まれた君たちの世界にとっての運命の流動をトレース……違うな。なぞる者達のことだ」


 水を満遍なく掛けたことが墓石の変色で分かった俺は……


「そしてその者たちはそのシナリオ、その世界である役割を演じるロールする。このゲームではその役割を女性がつとめるんだ。ゲーム自体が女性向けのものだからね」


 ついで花立ての挿されたまま枯れていた献花の撤去を始めた。

 一、二週間は献花から放置されたものだろう。それは結局俺が、口に出して呼ぶことはならなかったアイツの両親、お義父さんお義母さんが手向けた物に違いない。


「ここまで言えばなんとなく分かるかな。アイツは、このゲームのファンだった。凄くやりこんでいたし、ソレによってどの選択がどの結末に至るルートとなるかすべてを網羅していた」

「そ……んな……」


 リヒャルトのおののいた表情が、俺に苦しさをもたらした。

 それでも、俺が止まるわけには行かなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る