そして当日
第10話 そして当日 ~アイツの墓だよ。そんでもって……遺体はこの中には入っていない~
「これが……姉様の……墓……」
あからさまな狼狽。
リヒャルトがこの場に立って最初に見せたのがその表情だった。
全身から夥しいほどの汗が吹き出ている。瞳は揺れて、息も荒げていた。
「アイツの墓だよ。そんでもって……遺体はこの中には入っていない」
俺が説明した瞬間だった。振り返ったリヒャルトが、俺の着るスーツの袖を握り締めたのは。
「どういうことだ! だって姉様は、生きている! 僕たちはいつだって姉様……」
「それは
体すら振るわせる彼に、俺がそう言ったのは、彼の気持ちを静めるため。
「孝之殿、あまり苛めないでくださいませ。私たちにとって貴方のその言葉は、とても痛い」
「ハハ、そんなつもりで言ったんじゃ……」
だがどうやら失言だった。
「でもさ、これが俺たちの認識なんだ。確かにアイツは生きてるんだろう。だが、この世界でないのが問題なんだ。アイツは友達の前から姿を消した。家族の前から姿を消して、俺の前からも消えたんだ」
「それは、そうかもしれませんが……」
「重要なことだ。この
明らかに二人とも言葉を失っている。ただそれでも俺は言葉を切ることはしなかった。
「炎に巻かれていったのが最期だったんだ。あんときゃ結構いろんな人が見ている所でな。結局焼死体は見つからなかったが、そういうことでアイツが死んだとも認識されることになった」
「炎に巻かれたのが最期……ですか」
「あぁ、自分が変えたお前たちの世界の命運。だから『私には責任がある』ってな、行っちまったよ」
「姉様が変えた世界の命運? 孝之、教えてくれ。あの部屋のこともそうなんだけど、姉様は何者なんだ? 数年先を見通しピタリと当てる《予言の力》を持った巫女として、今は僕たちにとって、かけがえのない存在になっている」
「あぁ、スケールのデカイことへの予言の力は凄いのに、身の回りのことに関しちゃトンと予言が外れるってあれだろ?」
「知っている。僕たちの世界の側ではない孝之が。どうして……?」
ここまで話してきた。さぁそして、やっとこの手の質問がリヒャルトから飛び出した。
待っていたといってもいい。
俺はこの話をするためにここにつれてきたし、今日を逃せば、もうきっと、さらけ出して気持ちを楽にすることは出来ないだろうと思っていた。
「その命運は、この世界の不特定多数の者が知っている。よく聞いてくれ。その世界を作り出し、お前たちに命を与え、《命運》という試練を課したのは……この世界だ」
重要なことだった。だけどともすれば彼ら二人に衝撃をもたらす内容。
だから、ゆっくり聞こえやすいように話はしても、努めて感情は込めずに口にして見せた。
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