二日前

第8話 二日前 ~テメェら! よくも……オレの世界を壊してくれやがって!~

 二日前


「おいおい、コイツァ……なんて事……してくれやがる」


 仕事が終わり、やっと週末へと至る金曜日の夜。立ち尽くした俺が目にしたのは……滅茶苦茶になった部屋だった。

 

「どういう……事だ? ヴィルヘルム、リヒャルトはどうした?」


 空き巣でも入ったかのような、いや、ソレすらまだ可愛いともいえる部屋の荒れよう。

 色々壊されていた。折れていた。砕かれていた。破れて、散乱していた。


 俯く表情のヴィルヘルムに、ここまでしたからこそ行方をくらませたのであろうリヒャルトの居所を聞くために、俺はヴィルヘルムの襟首をひん掴み、目の前に引き釣り上げた。


「答えろ! リヒャルトはどこだ!」

「落ち着かれてください。それに、孝之殿だって彼の心中を察することは出来るでしょう!? 聞きたいのは寧ろこちらの方です。コレ・・がこれまで、私たちに隠してきたものですか!?」

「ウルセェ! ウルセェヨ! テメェら! よくも……アイツオレの世界を壊してくれやがって!」


 体が熱い。怒りが収まらない。

 別にリヒャルトがいなくてもかまわない。いないというなら、ヴィルヘルムにこの思いをすべてぶち込むだけだ。


「お前、俺がどれだけあの部屋世界を!」

「いい加減……およしなさい!」


 自分でも感情が優先して、何をすればいいか分からなくなった。ただただ、両手で彼の襟を掴み、揺さぶる。

 ヴィルヘルムがこれまで見せたこと無いほどに、顔を険しく、怒声を上げなければ、きっと俺はそのまま彼の首を絞めていたに違いなかった。


「また、なくなる! オレの大事なものが!」


 抵抗されたことで襟を放さざるを得なかった俺。ヴィルヘルムを押しのけ、とにかく被害状況を確認するしかなかった。


 ひどいざまだ。木っ端微塵といえばいいか。徹底的に壊されていた。


「クソッ! クソォ!」


 漫画も。

 小説も。

 フィギュアやポスターも。

 ポスターキャラクターが描かれたステッカーが貼られたゲーム機。

 ゲームソフトパッケージ。

 何から何まで、すべてズタズタになっていた。


「それほど……狼狽なさいますか。気持ち悪いだけではないですか。そんな、そんなリヒャルト様や私・・・・・・・・私たちの知り合いがた・・・・・・・・・・くさんの物に描かれている部屋・・・・・・・・・・・・・・など!」


 背中に振ってくる、軽蔑と恐怖が混じった声が、さらにオレの怒りの炎を燃やす。


「私は、気持ちが悪い。正直狂気です。リヒャルト様がこの部屋に入った瞬間に、どれだけ恐怖を感じたかを推し量れば、払拭するために部屋をここまでにしたのは……」

「うるせぇぇぇぇぇ!」


 怒りと喪失感がひどい。

 仕事が終わって疲れて帰っていることもある。腹が減っていることもあるから余計に気が立った……が……


「リヒャルト様は、飛び出していかれた。これらを目にして信じられず!」

「黙れ! ヴィルヘル……」

「自分たちは! 造り物なのかと・・・・・・・!」

「ッツ!」


 その一言が、俺に言葉を失わせ、頭を空虚にさせ、胸を苦しくさせた。発言の重みたるや、俺の怒りを上から押しつぶすほど。


「今日は寝る! 出て行きたかったら! 好きにしやがれ!」


 きっと論破、というやつを食らってしまったのだろう。


 ヴィルヘルムの言葉に何も返すことが出来なかった俺は、この堪えようも無い怒りのぶつける先も得られないことで、落ち着くことさえ出来ない……から、それだけ吐き捨て、その部屋から押し出すようにヴィルヘルムを排除し、この部屋の扉を閉めるにいたった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る