第7話 1か月前 ~ヴィルヘルム……知らなくてもいい事まで知っちまったか~

「ただいまぁ」

「お帰りなさい孝之殿。酒席は如何でした」


 飲み会が終わり、家路についた俺は、エプロンをかけたままのヴィルヘルムの歓迎を受け、笑い返してやった。


 この美しい顔した好青年に言ってやりたい。時間はもうすぐ日付を跨ぐ頃、鍵はあるから寝てても良いのに起きて待っているとか、「お前は新妻か?」と。 


「可もなく不可もなく……かなぁ。リヒャルト君は?」

「既に床に入っておられます」

「そっかぁ。こっちに来てもう二ヶ月かぁ。早いな。特に……問題が無ければいいんだけど」

「リヒャルト様は強いお方ですよ。あんな美貌をもってなかなかどうして」

「『あんな美貌を持って』……ねぇ? お前が言うと全然説得力が無いけど。リヒャルト君だけじゃない。俺はヴィルヘルム、お前も心配しているんだが。こっちじゃ色々、制約も厳しくて、あまり外出もさせてやれない」

「私は大丈夫ですよ」


 とりあえず靴を脱ぎ捨て(靴はヴィルヘルムが整えてくれるけど)、スーツのジャケットを剥ぎ取り(そのまま拾ってヴィルヘルムがアイロンかけてくれるけど)、ネクタイほどいて(ヴィルヘルムが折りたたむとナプキンアートみたいになるけど)、リビングまで来たところで、いつもと変わらない落ち着いたイケメンボイスが耳に入ったところで、俺はやっとこさソファに座って一息ついた。


「文明レベルは私たちの世界より遥かに高い。孝之殿にご厄介になって、不便もありません」

「なら、いい。とりあえず俺風呂入ってくるわ。お前ももう寝ろ」


 あー、何でソファに座り込んじゃった俺? 立つの物凄くしんどいんですけど。


孝之殿の方こそ大丈夫・・・・・・・・・・ではないんじゃないですか・・・・・・・・・・・・? 本来、今お嬢様の傍にいる私たちは貴方にとって……」

「んー? なんか言った?」

「……いえ、ソレではお先に休ませていただきます」

「あぁ、お休みヴィルヘルム」


 足ダルイ。びっくりするほどに。

 酒もいい感じに回って気持ちがいい。ぶっちゃけこれで風呂に入るのは危険かもしれない。


 が、飲んでいてよかった。いや、逆にヘベレケだから彼は聞いてきたのか。

 酔っていたから、今、彼が言ったことを、俺は無視することが出来た……が……


「あぁ、そういうこと……かよ。お前、ヴィルヘルム……何でも出来るから、知らなくてもいい事まで知っちまったわけか? それは数少ないお前の短所……だなぁ」


 ふと、目をやったのは玄関、靴箱の上だ。一枚、手紙が届いていた。

 その手紙は知らせ。

 アイツ・・・の、一周忌を知らせるものだった。

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