一か月前

第6話 1か月前 ~お見合い……ですか?~

 一月前


「お見合い……ですか?」

「おうよ! 優良物件だぞ! 品川支店の支店長の娘さん。令嬢だぞぉ?」


 久方ぶりに同僚数人と、居酒屋で飲んでいるさなか、不意に課長が口にした内容に、一瞬口に運ぼうとしていたグラスを持っていた手が止まった。


「そ、それって……」


 俺に注目する皆の楽しそうな視線に苦笑いだ。

 当然だった。話に出てきている《令嬢》とやらは皆が知っている女性だから。

 半年前まで俺の職場で、俺の後輩として働いていた。


「『支店長との繋ぎ! 将来安泰! 婚約が立ち消えになった俺・・・・・・・・・・・・は、一族経営企業で成り上がる!』 っすね!」


 俺が何かを言う前に、そんなことを口にするこの場に同席する後輩。


「……お前、不謹慎って言葉知ってるかコラ」

「立消えとかそんな話じゃねぇんだよ、しょうがねえだろ。コイツの、ツレ・・は……」


 瞬間、それ以外の同僚が結構な力を込めてその後輩をボコボコに叩きのめしていく。


「だけどな……別にお前に非があったわけじゃないんだ。あんなことがあってまだ一年しか経っていないが、あちらさんから直々に来たお話。滅多に無いのも確か。まだお前も若い。俺は良いと思うがね」

「あ、アハハ。アハハハハハ」 


 後輩がソレを口にした瞬間、胸に炎がともったのもつかの間、あっさりと同僚たちの制裁を見せられたことによって鎮火され、どういう顔をしようかと迷った挙句の課長のこの言葉だ。


 もう、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


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