20.月下美人

 伊月は、また月からの受信を試みている。

 でも、その成果が芳しくないことは、彼女の表情から見て取れた。


 新月の夜から毎晩、彼女はこうしていた。


 私はあの築山の麓にいる。

 月は雲に隠れて見えないし、伊月のほうもあまりじろじろ見れなかった。


 『愛しています』か、私はどう答えるべきだったのだろう。少なくとも、はない。

 てか、それに至るまでの長口上も自己嫌悪の対象だ。


「はあ……」

 知らぬ間に、溜息を漏らしていた。


「あの」

 それを聞きつけたのか、伊月が私に話しかけてくる。

「あの返事は個人的にないと思うのです」

「ごめんなさい。私も個人的にないと思います」


「てなわけで、時間をあげますから、それまでに最高の返事を考えておいてくださいなのです」

 築山のてっぺんから、彼女は微笑んだ。


 ああ、伊月は、月光を浴びた天女でなくて、街の光を浴びた今の姿も似合うのだ。


「時間って……いつまで?」


 伊月は微笑む。まるで物語のかぐや姫のように。

「こちらの暦で九月二十四日。満月の夜までに」


 呆然とする私をよそに、伊月はこう言った。

「あたしが月へ帰るまでに、返事をください」

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