13.HAGOROMO2018-2

[2018・9・9-A.M.1:10]


 曇り空の夜は、空気が重くて、寝苦しい。


 今日みたいな日はなおさらだ。

 湿気を吸った万年床が、重く私にのしかかる。


 でも、この重さは、布団乾燥機をかけ忘れたせいだけじゃないだろう。


 私の隣では、すっかり気落ちした伊月が、同じ布団の中、背中を向けて丸まっていた。


 経年劣化でヒビやら染みの入った天井を見上げながら考える。


 彼女はもう寝たのだろうか?

 彼女はもはや月に還れないのだろうか?

 羽衣に光は戻るのだろうか?

 彼女が月に還れないのは、私が抱いて穢しちゃったせいなのかな?

 今何時だろう?ベッドに入って何分経った?

 これからどうしようか?

 私の彼女に責任は?

 助けられないの?

 私が軽率だった?



 ……どのルートの思考をしても、自己嫌悪に至るようだ?


「ねえ、伊月。わたしのせいだったら、ごめん」

 もう寝ているだろう彼女に聞こえるか、聞こえないかの声で、天井に向かって謝った。



「……抱かないのですか?」


 そんなとき、伊月がつぶやいた。


「抱かないのですか?あたしは、さびしくて、それで、抱いてほしいのです」


 馬鹿野郎、と思った。

 お前がほしいのは、性行為じゃなくて、言葉だろうが。


 でも、私には、伊月にかける言葉が、伊月を慰めて、励ましてやる言葉が、わからなかった。



 ちくしょう。

 よく回る二枚目の舌がほしい、と本気で思った。


 ベッドの上で姿勢を変える。



 ちくしょう。

 空気も布団も重たいや……。





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 羽衣伝説。


 それは、今なお日本各地に伝わる童話・伝説。


 地上に降りてきた天女が、ひょんなことから地上の男と結婚し、富を築くも、やがて妻となった天女は夫と生まれてきた子供たちを残して、天に帰ってしまう。


 などと言えば聞こえがいいのだが、その実は、天女が裸になって水遊びをしている隙にたまたま通りかかった男が羽衣を盗んで隠し、助ける見返りに結婚を要求。

 そのまま妻となった天女に働かせて財と子供を産み、ウハウハ生活を続けるも、箪笥の奥底に天女の羽衣を隠していたのがバレて、羽衣を取り戻した天女に逃げられて大泣きするというものすっごく男にとって都合のいい話なのである。




 ……ところで、私は、天女を拾っていた。


 私には、油断丸出しで椅子に掛けられた羽衣を盗んで隠す勇気はなかったが、羽衣は勝手にその力を失い、ただの衣服の一つになった。


 その天女は私のことを、たぶん悪く思っていない。



 じゃあ、と思う。

 羽衣伝説に登場する男たちが、お前も仲間になれよ、と言っている気がする。


 今なら、この天女は、紛れもない天の配剤によって、私のものになる。

 それを私は、心のどこかで望んでいるはずだ。



 でも。



「それでも、私は伊月を月へ還すんだ」

 なぜかわからないけど、私はそう呟いて、ベッドに転がったまま無理矢理笑ってみせた。


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