8.視点を『私』から『あたし』に変えるのです!
などと、私がそんなまなざしを送っているのに気づいてか、気づいていないのか、伊月はてくてくと、歩いてゆく。
伊月は、何を考えているのだろう……?
伊月は、歩く。
歩いていれば、何かやるべきことが見つかるだろう。
それよりも、あたしは、あのひとに言われたことを考えていたかった。
「伊月、馬鹿なことをやるときに大切なのは、『自分は馬鹿なことをしているなあ』って絶対に考えないことだよ」
「私は伊月が地上にいる間は、自由にしてほしいと思っているんだ。そのために必要なことなら、なんでもしたい。もし、君がこれから『善行』だと思うことをやって、うっかり人に迷惑をかけることになったとしても、その時は一緒に謝るから」
あのひとは、あたしに甘い。
言葉の上ではあからさまに身体目当て、といった感じがするし、実際のところ最初の出会いは性的接触だったわけだが、一緒に過ごしてみると、あたしを保護しよう、庇護してやろう、といった言行をひしひしと感じる。
この人にとって、実はあたしに対して抱いている欲求は、性欲などではなくて、庇護欲に近いものなのではないだろうか。
あのひとはあたしの『おねえちゃん』をやりたいのではないだろうか?
でも、と思う。
そんなことあたしが考えたところでどうにもならない。
かつて、かぐや様は言っていた。
「伊月、あなたは時々物事を難しく考えるけど、なるべく単純明快に考えるようにしなさい。それが、あなたの良さなのだから」
素直に、ここはかぐや様の言葉に従うとしよう。
あのひとの個人的な領域には、踏み込まないし考えない。
それに、あのひとの言葉は、確かに心強いものだし、甘えてもいい気になった。
月に還るまで、頼りにしてもいいかな。
こうやってあたしは、誰かの言葉を自分の思想にして、時には誰かの言葉に甘えきって、そうやって生きていく。
あたしは、だれかからもらった言葉の総体なのだから。
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