5.善行(前編)

「それでは善行を積むのです」

 伊月は、私に【地球送り】についての説明を済ますとそう高らかに宣言した。

 


 ……ちなみにだが、伊月はもともとおとなしめの常識人だったが、昨日私に抱かれている最中に何かが吹っ切れて元気っ子キャラになった、という事実も同時上映された。

 何か申し訳ない気がするが、まあ私もこいつの容姿を見て性癖が曲がったのでこの件は伊月と私のドローだろう。



 という、心中で最低のジャッジを下しつつ、私は伊月に尋ねる。

「本当に善行を積んだだけで月に帰れるの?」


「ええ、地球送りの本質は浄罪。穢れたこの身を清めて月に還る刑罰。まあ、あなたのせいでこの身は穢されましたが……」

「その節は本当に申し訳ありませんでした」

「まあ女に犯されたので半分穢れの『ハンケツ』だと思うのです。『ハンケツ』なのです。まあ、過去には地上の男と子供を作っておいて、自分だけしれっと月に戻ってきた官女もいるので帰還には問題ないと思います」


 月世界の不浄観はそんなもんでいいのだろうか。


「まあともあれ、あたしが善行を積むと、今着ている羽衣の羽の部分の色がどんどん変化します。最終的にこの羽が七色になったらあたしは月の不思議パワーで帰還できるのです」


 うん、科学的考察をまったくさせる気のない説明ありがとう。

 まったくもって童話のように雑なシステムだった。


「では、善行を積みに街へ繰り出すのです」

 ちょっとした冒険の開始宣言がなされた。

「お供しますよ」

 ……負い目があるので。

「あの」

「はい」

「羽衣を汚したくないので、あなたの服を貸してほしいのです……」

 伊月はおずおずと申し出た。かわいい。


 まあ、確かに人間社会でこの羽衣は目立つ。ここで着せ替え遊びをするのも悪い考えではないだろう。

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