2.死臭の季節

 その夜、夢を見た。

 自分の葬式の夢である。


 私は若くして死に、葬式が営まれ、そこに参列した両親や友人たちや、まだ顔も知らぬ愛する人が、私の死を嘆いていた。


 この上なく甘美な幻想だった。



 ……。


 目覚めた。

 まったく、不健全な夢を見た。


 まだ不完全な意識を、まどろみから覚醒に持ってゆくために、私はぼんやりと考える。


 なんでこんな夢を見たんだろう、と。


 私は遠くでぼんやりと蝉の鳴く声を聞いた。

 そこで、ああそうか、秋が死に移ろいゆく季節だからだろう、と思った。


 春、命が芽生える。

 夏、命が繁茂する。

 

 この秋は、死の季節である冬への過渡期だから、こう、おセンチな気分にでもなるんじゃないかな、と思った。



 開けっ放しの窓から涼しい風が吹き込んだ。

 快適だ。

 それゆえに、時間の流れが緩慢になった気がして、体の軸が怠惰の方向に倒れそうになる。


 秋とは、そういう季節なのだろう。




 ベッドの隣を見た。


 昨日の羽衣少女が裸で転がっている。


 ああ、そうか。

 私は死に至る季節の中で狂ってしまったのだろう。


 迫り来る死期を恐れる老人のように。

 終わりゆくモラトリアムを愛するがゆえに。



 私は私を嗤った。

 

 

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