温かいスープと冷えたゴミ

 軍の施設で親衛隊ヴァリヤーグの少年と獣使いの少女が慎ましい夕食を摂取していると、外気を遮断する重い木製扉が軽々しく開けられた。


 あの重い扉を重い扉として開けているのは私だけか――と、獣使いの少女は言い得ぬ不公平さを感じる。代償となっているものを考えると、一つも羨ましくはないが。



「低体温の人間に低温の野外は堪えます。あと一歩で死ぬところでした」


「それ、冗談のつもり? ひとつも笑えないんだけど」



 遅れてやってきた少女は軍部支給の重苦しいコートを脱ぐと、少年の隣に座る。



「何故、あなたが隣に座るのかしら?」


「あなたが隣を確保していないからです」



 ――この子、ほんと嫌い。



「では席を交換しましょう」


「……ええ、そうね! そうしましょう!」


 私の好意を汲み取って、こうするためにわざと――。それなら、やっぱり好きかもしれない。


 二人が席を入れ替えると、来客に応じる執事のような人間が食器の位置を変え始めた。次いで給仕がやってきて、自己死霊術セルフネクロマンサーの少女の前へ温かいスープの注がれた器をほとんど無音で置く。流石に本職の給仕は慣れたもので、三人見ても年端もいかない少年少女が軍部で丁重に扱われるのは奇妙だとか、そういう表情も素振りも一切感じさせない所作を見せる。



「ついこの間まで捕虜だった身としては、このような扱いを受けて良いものか戸惑います」


「あなたでも戸惑うことってあるのね」


「当たり前じゃないですか。高々十三年しか生きていないのですから、人生経験ではあなたに劣ります。この状況で堂々とは、中々できません」



 それって、私のことを年増だとでも言いたいのだろうか――。


 額をヒクつかせた獣使いの少女は、こういうのは全て慣れだから、と少々感情的な物言いで応えた。

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