第13話 打開策を見つければ
「なんで、デートの誘いなんか乗ったんだよ!だいたい僕が日本人だってのは、明かしてただろ!」
「ホントだよ!もともと日本に興味を持ってる人だったから、『我が社』から縁談を持ち掛けられたはずだろ、彼女は。なのに、日本人の男性には興味ないってのは、どういうことだよ!!」
俺は常喜さんを俺たちの宿に連れ帰り、お互いにデートに対する愚痴を言い合っていた。
「ねぇ、気持ちはわかるけど、そうやって何度も同じことを言い合うのはやめてよ。私、ずっと寝れてなくて、散々なんだから」
「そうだな。お前にも迷惑かけたよな、サラ。ごめんよ」
「サラさん。僕は尽くした相手に日本人だからっていうだけで振られたんだ。君はどう思う?普通、期待させるようなことをしたら、きちんと責任をとらなきゃダメだと思わないかい?」
あ、これヤバいぞ。
この展開だと…。
俺はパフの方をちらっと見やる。
やはり彼女からは真夏の紫外線並みに強い視線が向けられていた。
「あ、あの…、常喜さん。そろそろ銭湯にでも…」
俺が身の危険というか、精神的な危険を感じて常喜さんを銭湯に誘ったそのときだった。
サラから放たれたセリフが俺たちをどよめかせた。
「常喜さん、いい人なのにねぇ。レイナウトさん…だっけ?なんで、その人そんなことしたのかしら。もったいない…」
「「えぇえぇ!?!?」」
*
「なあ、サラのことをどう思う?」
「確かに僕のタイプの女性ですが、でも彼女は…」
もしサラと常喜さんが結び付いてくれれば、俺はマジックアイテムを得て、日本に帰還することができる。
俺がマジックアイテムの変更を断った理由は一つ。
サラを無責任に捨てるような形は取れないということ。
その点、常喜さんなら大切にしてくれるだろうし、サラにその気があるのなら、逆にその話をなかったことにする方がおかしいというもの。
サラはこの世界の者ではないから常喜さんは日本に帰ることはできないが、そもそも彼はその気がないわけで。
そして、問題となってくるのはやはり俺とサラの関係。
しかし、マジックアイテムの変更でその関係を別の人――例えばパフに変えることができるのであれば、俺たち全員が満足のいく結果になる。
パフももともと日本に興味があって俺に接触を図ってきたわけだから、そういう結果になっても問題ないだろうし…。
サラとパフがお互いにもう会えなくなることは嫌がるかもしれないが…。
それは彼女たちに了承してもらうほかないな。
なんてこった。
答えはすぐ近くに転がっていたなんて…。
「どうです?」
俺は先に風呂から上がっていた常喜さんに、俺の考えを打ち明けた後、身体を拭きながらそう尋ねた。
「いや、その…確かに僕はサラさんと結ばれれば幸せになれるだろうとは思うのですが、僕のせいであなた方の関係が壊れるのは見たくない」
「何言ってるんですか!みんな、幸せになれるんだから、いいじゃないですか!これ以上の結果が得られるものなんてないでしょう」
俺の力説を聞いていなかったのか?
みんなが納得できるこの案に、この人はそんなことで賛成できないというのか?
「ありますよ」
「何があるっていうんですか!?」
「声のトーンを抑えてください。他にも
「あっ、その…、すみません…」
俺たちは急いで着替えて銭湯を後にし、宿へ戻る途中で先程の話を続けた。
「鈴木さん、逆に聞きますが、あなたはあなた方の関係が崩れてもいいと本気で思っていますか?」
「当たり前でしょう!」
「もし鈴木さんの言うとおりになったとしましょう。すると、鈴木さんはもうサラさんとは会えなくなるわけですよ。それでもいいんですか?」
「え?あぁ、そんなこ…と……」
「いったい何の話をしているのよ」
「そんなこと…って、えぇ!?」
「やっぱりいるよな…」
俺はわかっていたが、常喜さんはパフが話し掛けてきたことに驚いたようだ。
俺と常喜さんは顔を見合わせ、頷き合う。
パフにもこの話はしておいた方がいいだろう。
「パフ、聞いてくれ」
俺はパフにそう声を掛けると、俺の日本帰還計画を打ち明けた…。
「はぁぁ…。タクトがずっと何かに没頭してると思ってたら、そういうことだったのね」
パフは俺の話を聞き終えた後も特に驚いた様子を見せなかったが、喜んでいるようにも見えなかった。
どうしてだ?
俺が言うのも恥ずかしいが、俺のことが好きだったんだろ?
それなら日本にも行けて俺とも結ばれて、パフにとっては一石二鳥ならぬ無石二鳥のはずなのに。
「タクトからそういうセリフは聞きたくなかったわね。それにあんたさ、ホントに日本に帰りたいって思ってるの?」
「は?」
「だってあんた、色々と文句言ったり溜息吐いてることも多いけど、この生活を結構楽しんでるじゃない」
「…………………」
そんなわけない。
そのセリフが出てこなかった。
まただ。
パフには俺の奥底の感情が読み取られているような気がする。
「まあ、あんたの好きにすればいいわよ」
俺はいつもと違う風呂上がりのパフのセリフに呆気に取られながら、宿に戻るのだった…。
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