第12話 タイムリープを繰り返せば

「はぁぁ…。これで、四度目か…」


 俺は銭湯に入りながら、溜息を吐く。

 俺は常喜さんのデートがことごとく失敗するので、タイムリープしてやり直しているのだが、さすがにもう嫌になってきた。

 

 まず、気分が三徹なのだ。

 いつまでも起きてるから、ストレスが半端ない。


 いつまでも成功しないことへの鬱憤が募るのみ。

 次また失敗したら、精神がおかしくなりそうだ。


 精神状態が不安定な所為か、体の状態は問題ないはずなのに、クマができている気がするし。


「はぁぁ…」


 溜息が出るのも仕方ない。


 まあ、大体は一度目のデートと大して変わらない失敗をするのだ。

 何度失敗してもいいとタイムリープを安易に捉えていた俺は、二度目のデートでも、一度目のデートとまるっきり同じ場面に出くわし全く同じ理由でデートが失敗する恋人未満の男女を見る羽目になった。


 そして三度目では、レイナウトさんの嫌がるものと祭通りで行ってはいけない店を伝えておいたのだが…。

 

 結局、甘くて辛いものがわからず、昼食は失敗。

 前回までは問題のなかった土産選びでも、三度目で初めて出向いた土産屋のおばちゃんに二人がつかまり、延々と旦那さんとの惚気話を聞かされ、土産屋を回り切れず。

 相手にしなければいいと思うのだが、彼らのお人好しの性格がそれを許さないらしい。まあ、そこが彼らのいいところなんだけど。

 そして、祭通りでは景品を受け取ること自体がダメだったようで、もらう景品すべてがパットと育毛剤だった。

 

 そして、四度目の失敗では主たる原因は俺にある。

 俺がタイムリープできることを常喜さんに伝えたのだ。

 どうせ、日本人なのだから、俺の能力がわかっていてもいいだろうと思って。

 彼も疑うことなく、受け入れてくれた。


 しかし、その所為でデート本番、彼自身が回る場所を選べなくなってしまった。

 そして、早めのお開きになり、もちろん結果は前回と同じ。


 唯一の救いは、甘くて辛いものが何か分かったことだ。

 モッシュという名の鶏肉料理らしい。

 比較的さっぱりしていて、女性でも気軽に食べられるとのこと。

 

「まあ、次のデートでは昼食は失敗しないだろうし…。あとは見て回る小物屋の方を調べておかなきゃな…」


 そして俺には、まだもう一つストレスの溜まるイベントが残っているのだ。


「結構、長かったわね。というか、昨日に比べて大分疲れ溜まってるみたいだけど、大丈夫なの?」


 そう、パフへの告白イベントである。

 しかもなぜか同じセリフではタイムリープできないようにもしてあるようで、三度目のときには疑われまくって、愛を叫ばなくてはならなくなったのだ。


「あぁ、大丈夫だ。それで、どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないわよ。サラじゃないけど、どうして朝出るとき私に何も言ってくれなかったの?」

「ごめんって。悪かった。許してくれよ…」


 もう言い合いしている程、気持ちに余裕がないんだよ…。


「え?あ、そ、そう…。って、ホントに大丈夫なの?普段のあんたからは、そんなに素直に謝られることが想像できないんだけど…」

「別に、俺も悪いと思っただけだよ。パフ、俺は考えてたんだ。どう言えば、パフに喜んでもらえるのかを。でも、やっぱり、これしかないと思うんだ」

「どうしたのよ。本当にどうしたのよ。やっぱり変よ、タクト」

「そうかな。だけど、この気持ちを打ち明けないといけないんだ。だから、パフ。聞いてくれ」

「な、なによ…」

「俺はパフがいい。パフのことが好きになってしまったんだ。だから、パフとこうして一緒にいられるように今、頑張ってるんだ。何を頑張っているかは言えないけど、俺のことを信じて待っていて欲しい」


 日本の友達が告白の時に使っていた文句をそのまま引用させてもらった。

 日本にいた頃、無理矢理付き合わされて告白現場まで付いて行ったのだが、そのときの言葉を覚えていて、心底よかったと思う。

 俺の今の状態では、好きだくらいしか出てこなかっただろうから。


「そ、そうだったの?実は私のことをずっと考えていてくれたってこと?」

「うん、そうだよ」

「嬉しい。本当に嬉しい」

「そっか…」

「ありがとう」


 いやぁ、本当に嬉しそうだなぁ…。

 俺、死んでも天国には行けなさそうだわ。


 というか、今更かもだが、パフは俺の言葉を信用しすぎじゃないか?


 パフの将来が不安になるも、何かをできるわけもなく…。

そして俺は例の如く屋台通りへと飛ばされるのだった…。




   *




 俺は、祭通りの最奥にある広場に来ている。

 タイムリープの後、近くの水場で顔を洗って気を引き締め直してから、俺はタイムリープすることと『辛くて甘いもの』の正体を常喜さんに伝えたところ、なんと事が順調に運び出したのだ。


 俺は屋台通りで尾行に加え、情報収集をし、どちらかがお手洗いに行っている際に常喜さんのもとへ駆けつけ、情報提供を逐一行っている。


 今まで情報提供を最初の一回きりに絞っていたのがいけなかったのだろう。

 最初からやっておけば、こんなに苦労しなかったってことか。


 広場では花火展が開かれているようで、花火師が集い、自分たちの技量やら工夫やらを花火の仕組みを説明しながら自慢気に語っていた。


 二人は、色々な花火職人のもとを訪れ、談笑に浸っていた。

 それはもう、こっちが妬けてくる程、楽しそうに。


 ひと通り見て回り、もうそろそろお開きという時間に差し迫ると、運命の瞬間が訪れる。


 といっても、今回に限っては問題ないだろうが。

 この話の続きは常喜さんから直接聞こう。惚気話と一緒に。


 そう思って俺が帰ろうとしたその刹那だった。


 彼女のこんな言葉を耳にしてしまった。


「私、日本人の方とはあまり馬が合わないんですよね…」


 もちろん、俺と常喜さんとで一番に感じたことは同一のもので――



「「じゃあ、なんでお見合いなんかしたんだよぉおぉおぉお!!!!!!」」



 ――ツッコミにも似た悲痛な叫びとなって、独りでに飛び出てきたのだった…。

 





 


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