第8話 再体験してみれば
「あ~、美味しかったわね。お刺身なんて久しぶりよ。最近、定食しか食べてなかったから」
「確かにな。それはある。俺もいつも賄いで昼飯とか済ませちゃってるから丼ものばかり食ってるしな。たまにはこういうのもいいな」
俺は、パフにサラが一緒に来ている訳を今度は誤解を与えないように説明した後、もう一度リープ前に泊まっていた旅館に来ていた。
その理由は二つ。
本当にタイムリープが起こったのかを確かめることとその条件を調べること。
タイムリープが起こったならば、その条件が必ずあるはずで、前回と同じようにイベントをこなしつつそれを確かめなければならない。
「いやぁ、食べたわねぇ。私もうお腹いっぱいよ」
満足したようにお腹を摩りながら、サラがそう言った。
なんだか、緊張感に欠く言葉を聞くと、やる気が削がれるな。
確かにここの海鮮料理は絶品だったが。その証拠に、リープ前も同じものを食べたはずなのに、腹が満たされるまで箸が止まらなかった。
俺はパシパシと頬を叩いて、気合を入れなおし、今回のメインイベントである就寝タイムへの移行を謀る。
「そろそろ寝るか」
違和感を与えないように、日本での俺の昔話に花を咲かせた後、俺はそう切り出した。
さぁて、始まるぞ。
俺にとってはこれからが本番なのだ。
これから告白されるのかと思うと若干ドキドキするな…。
だが、浮かれてはいられない。俺には確かめねばならないことがあるのだから。
俺はサラが寝始めたのを確認し、灯りを消してパフが俺の布団に潜り込んでくるのをじっと待つ。
案の定、隣でもぞもぞと音がした。
よし、ここまでは計画通り…って、なんでパフのいる右側ではなく、左側から音が聞こえたんだ?
見ると、寝ぼけたサラが俺の名を呼びながら抱きついてきた。
おい、用があるのはお前じゃない。というか、俺の計画が狂うからやめてくれ!
「おい、サラ戻れって。お前の布団はここじゃない」
俺はパフが見ていないことを祈りながら、サラをサラが敷いた布団のもとまで運んだ。
俺は自分の布団へ戻り、しばらくするとようやくパフが俺の布団に入ってきた。
どうやらさっきのサラとのやり取りは見られていなかったらしい。
あぶない、あぶない。
「ねぇ、あんた、どうしてそのまますぐ寝ようとするわけ?」
「どうもこうも、何もすることがなくなったらすぐ寝るもんじゃないか?」
「はぁぁ…、もうあんたって奴は…」
「なんだよ」
俺はパフとイチャつきたい衝動を抑えながら、できるだけ平常心を保って、言葉を紡ぐ。
「ねぇ、あんたは私とどうなりたいわけ?」
そんなことを聞かれても困る。
俺は告白されるのを待っているだけで、告白するつもりはないんだから。
「え?何のことだ?」
「そういうわざとらしい言い方は嫌い。好きなら好きって言えばいいじゃない」
「い、いやだからさ。好きなんて言ってないじゃん?」
「告白しておきながら、そうやって誤魔化そうとするのは良くないと思うわよ。前に聞いたことがある…、えっと…、そう!思わせぶりってやつだわ!」
なんでそういう単語だけはしっかり覚えていやがんだ!
いいんだよ、これで。
というか、告白してもらわないと、前回と同じ状況を作れない。
タイムリープものでは、手順をなぞってリープ条件を模索するのが鉄則なんだから。
前回、俺は何て言ったんだっけ。
あっ、そうだ。俺に告白した覚えはないって言ったんだった。
「俺は告白なんてした記憶がないぞ」
「はぁ!?だって私に呼び名を付けてくれたじゃない?」
「当時はそれだけで告白したことになるとは思わなかったんだよ」
「そうなの?でもその言い方だと、今は知っているわけでしょ?」
しまった!墓穴ほった!!
「い、いや、それはだな……」
「そういうことね…。呼称はただ思い付きで付けただけで、別に私が好きとかってわけじゃないのね…」
なんかマズい予感が……。
「なんだか、冷めたわ。私も布団に戻って…って、いきなり掴んできて何よ」
「違うんだ。そうじゃない。俺は冷めて欲しくない!」
「違うって何よ?冷めて欲しくないってどういうこと!?」
やばい、やめろ。それを言っては…。
「俺だって…、パフのことが好きなんだ!」
しまった…。衝動で言ってしまった…。
今のは、恋愛感情から出てしまったというよりも、この流れを断ち切りたくなくて、つい口にしてしまった言葉に近い。
二重の意味でやらかした…。
流れも何もかもが前回と違うし、もうハチャメチャだ…。
「え…、ホ、ホント?ねぇ、その告白は嘘じゃないわよね?」
目の前に本当に嬉しそうにしているパフがいた。
なんか…、ごめん……。
「ま、まあ、そうだな…。こ、告白したことは嘘じゃない…よ……」
告白したことに関しては嘘ではないな。告白した内容は真実ではないかもしれないがな。
「嬉しい。私、本当に嬉しい」
謝るのでそんなに喜ばないでください。
衝動的に口走っただけなんです。
「ありがとう…」
ごめんなさい…。本当に謝るので勘弁してください。
「私もあんたのこと好きよ。これからずっと一緒にいたい」
「本当に、ごめんなさぁああい!!!!」
俺はそう叫ぶ同時に例の土産屋の前で呆然と立ち尽くしていた。
こんな純粋な愛を受け取れないと感じながら。
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