9

夕方。カニをたらふく食べた3人はその場で寝転がり空を仰いでいた。ねこまは口を大きく開きヨダレを垂らして寝ている。


「リオン、お前の眼のことなんだけど。」

「うん?」

「もう少しだけ待っててくれないか。なんとか治す方法探すからさ。」

「はは。そのときはアネにかけられた呪術も解けるんだろうね?」

「だといいな。まぁ、その、ごめんな。」

「お互い様お互い様。あはは。」


よいしょ、と身体を起こすアネ。カバンから酒瓶を取り出しコルクを引き抜く。

「あ!また飲むのか!」

「今日はまだ飲んでなかったからな。」

そう言ってお酒を体内に流し込むアネ。

「飲んでばかりじゃないか!部屋も酒瓶だらけにして!」

「はは、部屋くらい好きにさせろよ。」

「まったく!」

「あ。今度また稽古やろうぜ。」

「稽古…やりたいけどなぁ…僕達が戦ってるの見られたら怒られそうだからなぁ…。」

「木剣ならセーフだろ。」

「セーフ…なのかなぁ…。」

「まぁ俺次第みたいなとこあるけどな。」

「早く落ち着かせてくれよ?」

「あぁ、ちゃんと考えておくよ。ねこまに常に見張ってもらう訳にもいかないしな。」

「うーん。僕も考えて来るよ。」

「おぉ、ありがとな。はは。」

「じゃあそろそろ帰るね。」

そう言ってリオンは立ち上がった。


「ねこまに遅くなる前に帰るように言っておいて!」

「わかった。じゃあな。」

「カニご馳走!じゃあまた。」


水平線の向こうへと落ちていく太陽。

もうすぐ、夜が来る。

アネはしばらく1人でお酒を飲んでいた。





「………マァ?」

ねこまが目を覚ましたようだ。むくりと身体を起こし、目を擦る。

「くァ〜…おはヨウー…。」

「おはよう、ねこま。もうすぐ夜だ。」

「夜カ〜。リオン、ドコー?」

「帰ったよ。遅くならないうちに帰ってこいってさ。」

「ワカッター…。」

まだ眠そうなねこま。岬に吹く風が心地良いのだろうか。


「マ?」

ねこまの半開きの目が何かを見つけた。

「マ!キレイ!!!」

「おぉ、ファイアフライか。」


ラノシアに広く生息する、夜になると光を放つホタル、ファイアフライ。ラノシアの美しい自然に幻想的な光で彩りを添える。ねこまは目を輝かせ走って行った。

「マー!キャー!」

「はは。ねこまは元気だなぁ。」

ファイアフライと遊ぶねこまを眺め、お酒を1口飲む。

「アネ!」

「ん?」

「コレ!ナニ!」


ファイアフライをマゲに乗せたねこまが何かを指差しているが、暗くてよく見えない。

アネは瓶を片手に立ち上がり、ねこまに寄る。


「…ニメーヤの秘石だったかな。」

「ニメーヤ?」

「そう。…惑星?とか運命?とかなんとかを司ってる神様にゆかりのある神聖な石なんだってさ。」

「…?」

「はは、わかんねぇな。まぁ大事な石らしい。イタズラするなよ。」

「ワカッタ!」

そう言ってメニーヤの秘石の周りをぐるぐると走り回りファイアフライを追いかけて遊ぶねこま。

見てるとこっちも元気が出るな、とアネは思った。


ふと、また前髪をぴんっと伸ばして見た。

髪色が水色に近くなっている。

「………。」

「アネ?」


気づくとねこまがアネの足元に立っていた。

「ねこま、今の俺から何か感じるか?」

「ンー。」

ねこまがアネをじっと見る。

吸い込まれそうな深い翡翠色の目。


「タノシソウ!」

「はは、楽しそうか?そりゃよかった。」

「ナニカ、いい案、思いつイタノカー?」

「あー。そのことなんだけど。」

アネは辺りを漂うファイアフライに目をやる。海を渡る夜風が髪を揺らした。心地がいい。静寂の中に風の音だけが、静かに広がる。


「ねこま。」

「マ?」


アネはねこまに向き直り、ひざまづく形で視線を合わせた。



「お願いがあるんだ。」











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