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川のせせらぎと小鳥のさえずり、木の葉の揺れる音。その中に混じってねこまの落胆の声だけが聞こえる。


「…サカナ…ウゥ。」

「………。」


アネは川のど真ん中で俯くねこまの服の襟に、器用に釣り針を引っ掛ける。

「?」

そして勢い良くリール巻き上げ、川からねこまを釣り上げた。

「マァアアアアァァァァァ!」


一気に引き上げられ、橋の柵の外で宙吊りになるねこま。

釣竿を構えるアネに気付くと、にこやかに挨拶した。

「アネ!おはヨウ!」

「おはよう、ねこま。もう15時過ぎだ。てかお前、何してんだ。」

「サカナ!にげらレタ!」

「奇遇だな。俺もなんだ。」

「デッカイ!サカナ!うううう…。」

「それ俺が釣ってたやつな!!」

「そうなのカー?」

「釣り針引っこ抜いたろお前!」

「………?」

「なんで覚えてねぇんだよ。もう、いいけど。」

ぶらぶらと揺れるねこまを橋に下ろすアネ。ねこまはずぶ濡れだが特に気にもしていないようだ。


「こんなとこで何してんの。」

「キノコ食べにキタ!」

「採りに、じゃなくて食べに、なのな。」

「オイシカッタ。」

「ならよかったよ。ほら、キノコ探しに行きな。釣りの邪魔をするんじゃない。」

「アネ、遊ばないのカー?」

「今は深刻なギル不足なんだ。今晩のメシ探しの方が重要だから、また今度な。」

「ビンボーシャチョー!」

「こらねこま!どこでそんな言葉覚えた!!」

「ミンナ、いってタ。」

「くっ…!!今に見てろ…。じゃあな。」

「ジャアナ!」


ねこまはトコトコと小走りで帰っていく。1人残されたアネ。どこか背中が寂しげである。


「サーモン…。手づかみのが取れるのかな…はぁ。」


「マ?」

「うおっ!」

アネの足元に再び現れたねこま。両腕に大量のキノコを抱えている。

「え、そのキノコ、今採ってきたのか?早くねぇか?」

「スグ見つかル。から、アゲル。」

そう言うとねこまはキノコを1つだけ自らの口に押し込み、残りを全て渡した。

「え…いいのか?」

「マ!」

「ありがてぇ!まさかねこまから食べ物を貰えるなんて…!」

「げんき、だして!ジャアナ!」

「?お、おう。ありがと、じゃあな。」

そう言い残して再び駆けていくねこま。


「今日はキノコソテーだな…。」

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