3


黒衣森、北部森林。葉を赤茶色に染め上げた木々が立ち並び、辺りにはオポオポが群れで暮らすのどかな森林地帯だ。グリダニア旧市街地を黄蛇門こうじゃもんから出てほど遠くない場所にある釣り場、さざめき川。

そこには1人のヒューランが、川に架けられた橋の柵に肘をつき釣りに没頭していた。アルコールの入った瓶と共に。


「かからねぇ…。」


彼はEASTの代表を務めるアネ。金髪青メッシュに顔には刺青、ぶっきらぼうな物言いをしながら酒を煽る彼の姿からはフリーカンパニーの代表たる威厳や気品などは皆無である。


そんな彼の竿には、30分以上アタリがない。

他の釣り人達は3分も経たない内に魚をどんどんと釣り上げ、満足して帰っていく。


「サーモンが釣れるって聞いたんだけどなぁ…クソ…。」

独り言をこぼしながら手元の瓶のコルクを引き抜き、アルコールをラッパ飲みする。

「はぁ…たぶん今日辺りにはピピさんが来てるはずだからな…まだハウスには帰りたくねぇな。」


そのとき、水面に垂れた糸がぴくりと引きを見せた。

「おっ…サーモンか…!?」

リールを力の限りの速度で回し、上へ上へと思いきり引く。バシャバシャと水飛沫をあげる魚影が近づき、次第に姿を見せ始める。

「うお、マジでサーモンじゃねぇか!頼むぞ…レベル足りてねぇけど…釣られてくれ…!!!」


そのとき、視界の端にオレンジ色の何かが動くのを彼の目が捉えた。


「マ!サカナ!」

「えっ。ね、ねこま…?」


現れたのはPiPの従業員、ねこまじんだった。(以下ねこま)

言語能力と引き換えに食欲が旺盛で、オレンジの髪を頭頂部だけゆったマゲがトレードマークの野生み溢れるララフェル女性だ。

ねこまは川へ駆け寄り、勢いもそのまま川の水をジャバジャバと蹴り上げアネが釣り上げようとしている魚へ近づいて行く。


「おい、ねこま!何する気だ!くっ、こいつ引きが強いな…!!」

目を輝かせ歩みを進めるねこま。どうやら聞こえていないようだ。アネの声は川のせせらぎと共に下流へと流されていく。そして遂にねこまは水飛沫を上げアネから逃れようとする魚の元へと辿り着いた。

「ねこま…?」

ねこまは勢い良く水の中へと両腕を突っ込んだ。そしてしっかりと魚を掴み水中から引き釣りあげ、天高く掲げた。

「サカナー!!」

「おぉ!手伝ってくれたのか!ありがてぇ!」


ねこまは掴んだ魚に目を向ける。引き上げられたばかりの魚はその身体を全力で左右に振り、逃れようとしている。

「おーい!ねこま、ありがとう!」


アネの声はまたしても川のせせらぎと共に、流れゆく。


「え、おーい。」

「マ?」

ねこまは魚の口にキラリと光る釣り針が刺さっていることに気がついた。

そして暴れる魚を脇に抱え込むと、釣り針を引き抜いた。

「…え?」


「イタ、ダキ、マス!」

「ま、待てねこま!!それは俺の夕飯なんだ!!生きた魚そのまんま食うとかねぇから!!待て待て待て!!!」

大きく口を開き、頭からかぶりつこうとするねこまを必死で呼び止めるアネ。下流に流されたアネの言葉でダムでも作れそうだ。

そのとき、魚が最後の力を振り絞り身体を極限にまでよじらせた。ねこまは不意をつかれ、捕らえた魚を手放す。ドボン、と大きな入水音が2人の脳を突き刺した。


「マアアアアアアアアア!!!!!」

「ああああああああああ!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る