色んな異世界が結合して混ざり合ったカオスな地球で三年前まで戦隊ヒーローやってました

第47話 戦うだけがヒーローの力じゃない

「あはははははははは！　はは！　はははははは！」

　異様な程の激しい笑い方に、皆が引く。

「いや、いやいやいや……いや！　素晴らしい！」

　平賀が琴子の元へ行き、その肩を掴んだ。

「ともだちリングと言ったか！　凄いな！　その指輪の力は！」

「あ、え」

　ギラギラと見開かれたその目に、琴子が怯える。

「見たまえ！　君の一言で私の作ったヒーローキラーも動きを止めている！」

　平賀の言う通りだった。

　琴子のもうやめての一言で、ヒーローもヒーローキラーも、そこにいる全ての存在が戦闘を止めていた。

「そして、アルナだ！　まさかあれだけ人を憎み、恨み、殺意のみを抱いていたアルナが、まさか！　人の言葉で動作を停止させるとは！　凄い事だよ、これは！」

　実に嬉しそうだった。

「わかるかい？　君はもっと誇るべきだよ！　自分のした事を！　人を殺す為だけの存在となったアルナが、目の前にいる人を殺す事より自死を選択したんだ！　それも、殺すべき相手である人の言葉でだぞ!?　なぁ？　凄いだろう!?」

「え？　じ、し……？」

「じっし？　あぁ、そうか。自死か。自死がわからなかったか。自死というのは、自殺と同じ意味だ。自ら自分を殺すという事だよ」

「え？　え？　ど、どういう」

「アルナは一度起動したらもう停止する事が出来ないんだ。もしも無理矢理停止させたら、もう二度と動く事は無い。そういう風に彼女は出来ている」

「じゃあ、じゃあアルナさんは……」

「そうだ。彼女だってそれをわかっていた。わかった上で、自ら死ぬ事を選んだんだ。理解出来ただろう？　自分のやった事の凄さが」

「そんな……わたし、そんなつもりじゃ……」

「そもそもアルナはその亡骸を使ってはいるが、機竜となったその身はもう、本来のそれとは別の存在だ。その身体に意志なんて無いし、思考や記憶なんて物も無い。その筈なのに、彼女の体にはその執念が宿っていたのか、人に対する負の感情が満ち満ちていた。そんな奇跡で残った人への負の感情より、君の言葉を彼女は優先したんだ」

「わたし、わたし……」

　琴子が真っ青な顔でカタカタと全身を震わせる。

「どうした、もっと誇りたまえ！　奇跡を呼び起こす程の憎しみをかき消す程の洗脳力！　ともだちリングとはその名からは想像も出来ない程、実に強力な兵器だな！」

「ち、ちが、わた、わたし……」

「さぁ、その力！」

「おい」

「ん？」

　平賀の顎に、下から勢いよく加減無しの全力の拳が打ち込まれた。

　殴られた平賀は呻き声を上げる間も無く、宙を舞ってそのまま地面に倒れ込んだ。

「お前、少し黙れよ」

　彼女を殴り飛ばしたのは、赤羽だった。

「あーいってぇ……クッソ、クソ胸糞悪ぃな、畜生」

　手をパタパタと振りながら汚い言葉を使い、舌打ちをする。

　余程全力で殴りつけたのだろう。

　平賀はピクリとも動かなかった。

　突然の暴力。

　だが、そんな彼女の行動を咎める声は上がらない。

「………………」

　青ざめた琴子の顔を見て、赤羽が眉を寄せる。

　鼻から息を吐き、目をつむると、腕を組みながら歩み寄っていった。

「なぁ」

「………………」

　目の前に立つと組んでいた腕を解き、両手でパチンとその頬を挟む。

「ひゅっ!?」

　琴子が驚いた表情で赤羽を見ると、彼女は腰を曲げて視線の高さを合わせた。

「んな穿った見方する必要無いだろて。もっとシンプルに考えようぜ」

「ひゅえ？」

　頬を挟んでいた手を離すと、ポンと頭に優しく乗せる。

「よくやった」

「え？」

「よくやったよ。あの竜は救われた。お前のおかげでな」

　乗せた手で、わしわしと少し乱暴気味に撫でる。

「あいつの心を縛ってた真っ黒な物を、お前の優しい心が解いたんだ。お前に言われて、人殺すより大人しく寝てる方がいいわってなったんだとさ、あいつ」

　掴んだ頭を、下げさせる。

「いいじゃん、それで。そういう事だよ、お前のした事は」

　琴子の足元に、ポタポタと水滴が落ちる。

「変に考え込むな。シンプルでいいんだよ。誰かを恨んで暴れまわるより、寝てた方が絶対にいいに決まってる。それをお前があいつに気付かせたんだ。偉いな。よくやったよ、ヒーロー」

「…………はいっ」

　琴子がぎゅっと自分の服を握り、声を押し殺しながら泣く。

「よしよし、偉い偉い」

　赤羽はにっと明るい笑顔を浮かべ、そんな琴子の頭を撫で続けた。

「あらあら、こんなにも綺麗に一件落着するとは思いませんでした」

　稲穂が嬉しそうな顔で傘をくるくると回す。

「やはりあの人の妹ですね。どれだけ自分を偽っても、赤く燃え上がる正義感はその心の奥底に、しっかりと引き継がれています。ね？　赤羽（あかば）愛美（あいみ）さん」

「………………」

　琴子の頭を撫でていた愛美の表情が固くなる。

「さて、一区切りついたという事で皆さんには少しお話を――」

　話している途中、稲穂のいた場所が突如爆発を起こした。

「な、何!?」

「どうしたの!?　まだ敵がいるの!?」

　皆が状況を掴めず混乱して騒ぎ出す。

　だが、数人はその爆発の起きた場所を冷静な表情で見ていた。

　爆発の土煙が薄くなっていくと、二人分の人影が見えてくる。

　一人は、稲穂の物。

　そしてもう一人は。

「お久しぶりです、梗さん」

「久しぶりだね、稲穂ちゃん」

　キングブラックに幻身した、黒沼梗だった。