第43話 ヒーローキラー七型 震壊機竜アルナ

「なーんかさー、当人達だけで盛り上がっちゃって私ら蚊帳の外じゃなーい?」


「………………」


「ねー」


「……親し気に話しかけてくるのはいいが、誰だ? お前は。人の尾に跨って何を言っている」


「あっはっは、人の尾、だってー。面白いねー、おじさん。おじさん人じゃなくて竜じゃーん」


「お、おじ!? う、むぅ……いや、今はそういう話をしているのではなくな?」


 地に降り立った竜王の尾に乗りながら、赤羽が気の抜けた顔で大きなあくびをする。


「おじさん強そうだしー、ここ安全そうだしさー。許してよ」

「おいおいおい、おい貴様! 天下の竜王様の尾に乗って何を寛いでいやがる! この無礼者!」

「全く生意気な小娘だ。へっへっへ、やっちゃいましょうぜ竜王様。この物知らずの小娘にはちょいとキツい灸を据えて竜王様の偉大さってやつをわからせてやる必要がありますよ」


「お前達……」


 いかにも小物な手下みたいなセリフを言っている律子とミネットを見て、竜王が呆れたを通り越してその哀れさを嘆く、悲しげな表情になる。


「お?」


 律子とミネットを無視した赤羽が空を見て目を細めた。


「なんか出てきてない?」


 空がヒビ割れ、そこから大きな影が姿を表し始める。

 

「雑魚の相手は任せるわ。私の邪魔をさせないで」

「わかった」


 シスに言われ一型が頷く。


「わかった、ねぇ。クックック、安請け合いはいいが、お前にあれを制御出来るのか?」


 馬鹿にしたように言う平賀に、一型が平然と答えた。


「制御は出来ない。だけど、あの子に誰が敵かを教える事は出来る」


 巨大な影が、空間に空いた穴から出てきて木々を倒しながら地に足を下ろした。

 それは、羽の生えた一頭のドラゴンだった。

 全身が機械仕掛けの人造ドラゴン、ドラゴン型のロボットと言ってもいいだろう。




「さぁ、ヒーロー達にその力を見せつけてやれ! 震壊機竜アルナよ!」




 平賀が叫ぶと、アルナと呼ばれた巨大な機竜が雄叫びを上げた。

 新人ヒーロー達が耳を押さえながら、敵意のこもった目で平賀の事を睨み付ける。

 その視線に気付いたユーリエとネロが、ハッと慌てたように平賀から離れた。


「敵です! この人敵ですよ! そして私達はあなた達の仲間です!」

「違います違います私はこの人の仲間じゃありませんヒーロー側の人間ですこんな人知りません知りません他人です」


 敵の仲間だと思われたくなかったからだろう。

 必死に無関係を訴える。


「アルナ……だと? っ!? まさか、貴様!」


 竜王が平賀を視線だけで射殺すかのような怒りの目で睨み付けた。


「どうかしましたか? りゅーおーさま」


 琴子の声に竜王が怒りを少しだけ静める。


「何と残酷な事を……」


 だが堪えきれず、竜王が牙を剥く。 


「貴様、竜の亡骸を使ったな?」


「あぁ、そうだ」


 平賀が自信作を自慢するように腕を組む。


「あれは芯に震壊竜アルナの遺体を、装甲にオリハルコンから作り上げたオリハルコン合金を使用している」

「そんな……」


 琴子がショックを受けた顔で口元に手を当てる。


「あぁ、勘違いしないでくれよ? これは彼女が自分で望んだ事なんだ」


「何?」


「彼女がどれだけ人を憎んでいたか、復讐したがっていたか。あなたは知っていただろう?」


「…………」


「その彼女が、人に大きな怪我を負わされて死を待つのみの身となった時、最期に何を願うかあなたならわかる筈だ」


「…………」


「おいおい、そんな目で睨まないでくれ。本当に本人から頼まれたんだ。人を忌み嫌う彼女が、人である私に屈辱を感じながらも求めたんだよ。どうせ死ぬならその肉体を、人を、人の世を、人の全てを滅ぼす事の出来る最強の兵器にしてくれ、とね」


 アルナが翼を広げると、そこから水筒位の大きさの円筒形の機械が、何十という数で射出される。

 それは自立行動が可能らしく、空中を高速で移動しながらヒーロー達の周囲に広がっていった。


「準備は整った。これでもう君達の邪魔をする者はいないよ」


 平賀がシスに言うと、シスがフッと笑う。


「そうね。ありがとう」


 そのやり取りを見た後、一型がアルナを見上げて告げた。


「七型。戦闘、開始」


 最初、何が始まったのか新人ヒーロー達のほとんどが気付かなかった。

 円筒形の機械が低い音を発し始めた、位に思っただけだ。

 だが、しばらくすると肌にかゆみに似た違和感が現れ、それが次第に痛みへと変わっていくと、目や耳の奥に激痛を感じるようになった。

 その段階で周囲の草木の異変を見て、気付いた。

 この円筒形の機械からの攻撃は始まっていると。

 草木が微細に振動し、表面から崩れていっていたのだ。


「振壊竜と言っただろ? 七型は崩壊の振動で全てを滅ぼすんだ」

「ひぃぃいい! ひぃぃいい!」

「た、助けて……助けて下さい……」

「……おい、君達さっきまで私の事を敵だの知らない他人だの言っていなかったか?」


 平賀が自分に張り付いてくる二人を仕方なく守る。

 新人ヒーロー達も、この攻撃を防げる者が他の新人ヒーロー達を守ろうとしていたが、その数が圧倒的に足りていなかった。

 ただ目の前にバリアを張っただけでは防げない。

 崩壊の振動は全方位から襲い掛かってくるのだ。

 そして、周囲にいた他のヒーローキラー達も健在だ。

 ヒーローキラー達にはこの攻撃に対する耐性があるらしく、今まで通り向かってくる。

 

「……アルナ」


 そんな中、竜王が悲しげな目で七型を見つめる。


「私が、全てを終わらせてやろう」

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