第42話 空間接続魔法
シスは異世界から地球に来たのだが、異世界結合でこの世界にやってきたわけではない。
シスが元いた世界には、魔法という技術があった。
その世界でシスは空間に穴を開けて遠い場所と今いる場所を繋ぎ、その中を通る事で一瞬で移動が出来る魔法を使い、生活していた。
人や荷物の運送業だ。
その魔法を、空間接続魔法という。
この魔法は便利な反面様々な犯罪に使う事も出来るので、国から認められた者にしか習得を許されていなかった。
シスはそれを許された数少ない一人だった。
限られた人間しか就けないので、仕事はほぼ独占状態。
安定していて、収入も良い。
当然、その権利を羨む者が国内には沢山いた。
認可は人数が決まっている。
通常、その仕事に就きたければ権利を持っている者が引退して枠が空くのを待つしか無い。
だが、それを待っていてはいつになるかわかったものではない。
何歳で定年と決まっているわけではないのだ。
そして大抵の場合、その権利は自分の子供や身内等に継がれるのが普通だった。
なので一族にその権利を持つ者がいない場合、その権利はまず手に入らない。
そこで権利を欲しがる者達はある事を考えた。
権利を持つ者から無理矢理権利をはく奪する事にしたのだ。
そのターゲットにシスが選ばれた。
シスは両親を早くに亡くしていたので年若く、有力な後ろ盾を持っていなかった。
嵌める相手として都合がよかったのだ。
彼らは空間接続魔法を利用した犯罪をでっち上げ、その疑惑をシスにかけた。
シスがいくら無実を叫んでも聞いてもらえず、結局権利をはく奪どころか、空間接続魔法を利用した犯罪と言う禁忌を犯した犯罪者として、国から追われる事になってしまった。
今の世界にやってきたのはその追っ手から逃げる為だ。
両親も祖父母も既に亡くなっていたので、彼女は唯一の肉親である兄を連れてこちらの世界にやってきた。
「復讐よ。全ては兄を殺された復讐だったの」
シスの話によると、シスの兄は英雄の盾に殺されたらしい。
シス同様空間接続魔法を使えた兄は、この世界でその魔法を悪用して悪事を働いたという言いがかりをつけられて、殺されたのだという。
「ごめんなさいね。あなた達の事は利用させてもらっただけ。英雄の盾を名乗ってあなた達を襲う事で、彼女を呼び出す事が目的だったの」
英雄の盾の仲間として誘った者達も、ヒーローキラーに襲わせた新人ヒーロー達も、全てが彼女にとってただの餌でしか無かったのだ。
爆発の煙が晴れていくと、そこには無傷の稲穂と静流が立っていた。
「何すんのよ!」
静流が怒鳴る。
「やっぱり効かなかったわね」
「効いてたら死んでるわ!」
くるっと稲穂の方を向く。
「で?」
「はい」
「稲穂ちゃん達は……さ」
突如小さな声になる。
「……本当にあの人のお兄さんを……その。……殺し……ちゃ、ったの?」
「はい。稲穂ちゃん達というか、私ですね。私が殺しちゃいました」
「………………」
「だって彼女のお兄さんは悪人でしたから。悪人であれば私はどんな相手でも容赦しません」
にっこりと微笑む。
「悪人ですって……?」
シスが怒りと憎しみに満ちた表情で稲穂を睨む。
「兄さんはそんな事をしていない!」
自分の額を強く掴む。
「どうして、どうして! どうして私達はいつもこんな目に遭わなきゃいけないの!?」
目元が赤くなる。
「私達はただ平穏に暮らしていたかっただけなのに! 悪い事なんて何もしていない! いつだって真面目に生きてきた! なのに! なのにどうして!」
「どうしてと言われましてもー。あなたの言うその『達』、というのがそもそも勘違いなんですよ~。あなたは確かに清廉潔白に生きていたかもしれません。ですが、あなたのお兄さんはそうではありませんでした」
「……もういい。これ以上喋らないで」
シスがポケットからグルーガンのような形の注射器を取り出す。
「それは……」
「ねぇ、殺し合いをしましょうよ。戦う理由ならある筈よ? 私は罪も無い新人ヒーロー達を殺そうとした上に、その罪をあなた達英雄の盾に押し付けようとしたんだから」
それを自分に注射すると、全身の血管が一瞬ぶわっと浮き出た後、ビクン、ビクンと体を痙攣させる。
「何て危険な物を……。死にますよ?」
「……死んだっていいのよ」
ツーッ、と目から血の涙が流れる。
「あなたを殺せれば、それで!」
手を大きく振ると、ぶわっと空間が歪んだ。
「どうせ私にはもう何も無いの! 故郷も家族も失った!」
慣れていないらしくその歪みは見当違いの方へと伸びていく。
「現世に未練なんて無い! 今私に残っているのは! あなたへの復讐心だけなのよ!」
その先にあった木がぐにゃりと姿を歪ませ、不自然な形に変化し、崩れていく。
「空間の接続をでたらめに行って攻撃に使っているんですか。おっかない事しますね」
「さぁ、クライマックスよ!」
シスが一型に指示をする。
「七型を呼びなさい!」
「七型?」
一型の判断だけではうんと言えない物なのか、平賀の顔を見る。
「構わんよ。今の私はお前の主じゃない。今の主の命令に従うといい」
平賀がクックックと笑う。
「むしろこんなチャンス滅多にないだろう。こっちからお願いしたい位だ」
「わかった」
一型が後ろを振り向いて両腕を伸ばす。
「おいで、七型」
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