第41話 英雄の盾創始者
「いやいやいやいや、何言ってるの」
静流が顔の前でぶんぶんと手を振る。
「いるじゃん、ここに」
稲穂が満面の笑みでひらひらと手を振る。
「ほらー」
「………………」
だが、シスは無言で首を振った。
「え、嘘」
慌てて静流が周りを見る。
「本当に?」
新人ヒーロー達の反応は様々だった。
自分にしか見えない者の力を借りて戦うヒーローだと思って、初めて気付いた時あるあるの反応だなと微笑ましい目で見る者。
ヒーローの力関係なく、存在しない者が見えてしまっている頭が可哀想な子だと憐れんだ目で見ている者。
いずれにしても、静流の望む視線ではない。
「ちょ、ちょっと待って……あ、そうだ」
英子の方を見る。
「ねぇ、英子ちゃん」
「………………」
「英子ちゃんはずっと一緒にいたし見えてたでしょ?」
「………………」
「英子ちゃん」
「………………」
「ねぇ、英子ちゃん」
「………………」
「……うん。やっぱいいや、ごめんね」
聞く相手を間違えた。
一〇二にも聞きたいところだが、彼女は気絶している。
「ちょっと、どういう事なの?」
仕方ないので周囲への証明は後にして、本人に聞く事にした。
「どういう事でしょ~ね?」
「認識阻害で皆には見えないようにしてるだけ? それとも、稲穂ちゃんは最初からそういう存在だったの? 私にしか見えないとかそういう」
「稲穂ちゃん?」
シスがその名前に反応し、口角を上げた。
「そう、やっぱり……。ねぇ、静流さん」
「はい?」
「あなたが見えているっていうその人は、稲穂って名前なの?」
「そうだけど。知り合い?」
シスはとても嬉しそうな表情だが、その笑みにはどこか狂気が含まれているように見えた。
「知り合い……どうかしら」
胸元からネックレスを取り出す。
「ねぇ、知ってる? 英雄の盾はね……」
剣と天秤と盾をモチーフにしたマークが描かれたネックレスだった。
「ある一人のヒーローが作り上げた組織なの」
取り出したネックレスを掲げる。
「仲間と一緒に人々の為に戦っていたのに、その仲間達は守っていた人々に裏切られて、苦しめられて……。彼女達は人々を恨みながら死んでいった」
ネックレスが光り始める。
「その時の怒り、悲しみ、憎しみ。復讐心から彼女はヒーローを守る名目で人々を殺す、悪の組織を作り上げた」
シスの表情が不愉快そうに歪む。
「その組織が、英雄の盾。そして、その英雄の盾を作り上げたヒーローの名前が……」
皆がネックレスの光の眩しさに目を細める中、稲穂はにっこりと微笑んでいた。
「稲穂」
静流には変化が何もわからないが。
稲穂の姿が皆に見えるようになっていく。
「嘘、あれが……?」
「まさか、本当に……」
その姿、その名前を聞いて新人ヒーロー達がざわつき始める。
「今ので皆に見えるようになったの?」
「そうみたいですね~、困っちゃいましたね~」
全然困っているように見えない。
「それと、今の話本当? 稲穂ちゃんが英雄の盾を作ったって」
「作ったっていう言葉を肯定するつもりはありませんが、否定も出来ないです。私はそういうつもり無かったんですけどね。英雄の盾と名乗った事もありませんし」
困ったような、けれど本気で迷惑しているという風でもない、下の兄弟に手を焼いている姉のような顔で告げる。
「最初は一人だったんです。ですが、気が付くと似たような事を考える人達が私の周りに集まっていて、そういう組織が出来上がっていたって感じです」
「そうなんだ」
「はい」
「じゃあ、稲穂ちゃん自身がそう思っているかどうかはともかくとして……少なくとも英雄の盾の人達は、稲穂ちゃんの事を組織のボスだと思ってるって事でいいのね?」
「そうですね。皆さんはそう思っていると思います」
「そっか」
静流が納得したように頷く。
「じゃあ、ちょっと背を向けて」
「?」
「早く」
「えぇ、急ですねぇ。どうしたんですか?」
「ほらほら」
「もう、わかりましたよ~。では……こんな感じでいいですか?」
「 か か っ た な !」
突然静流が稲穂を羽交い絞めにした。
「あはははは! 罠だよ稲穂ちゃん!」
「あらら、罠でしたか」
「さぁ、降伏しなさい英雄の盾! あんた達のリーダーは捕らえたわよ!」
「捕らえられちゃいました」
「少しでも妙な動きをしたらお前達のリーダーの関節が一本ずつへし折られていくものと思え!」
「静流さん、表現が生々しいです。ヒーローのセリフじゃないですよ。それに、この体勢でどうやって一本ずつ関節折っていくんですか?」
「え!? ……か、肩をこのまま」
「肩を折った後は? 他の関節はどうするんですか?」
「え、えと」
「一本ずつへし折っていくんですよね?」
「…………う」
「最初から傷つける気が無いのがバレバレですよ。イメージが全く頭の中に用意出来ていない」
「う、うるさいわね! とにかく! 酷い事するわよ! いいの!?」
「いいわよ、何しても」
「え?」
シスが冷たい目で稲穂を見ている。
「好きにしたらいいじゃない」
シスがネックレスを静流と稲穂の足元に投げ捨てる。
「元々、その人を痛めつけて殺すのが目的だったんだし」
「どういう――」
ネックレスが、大爆発を起こした。
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