第40話 幻 身 !
「地面に穴掘ったり空飛んだりして爆発の範囲外に逃げるのはまず無理だと思った方がいいよ。封印があるからそんなに遠くまで逃げられないし」
梗が日本酒を飲みながらアドバイスする。
アンドロイドの自爆装置はまだ解除出来ていなかった。
「だから、そうだなぁ。ヒントを出すとなるとー……あ、ちょっと待ってね」
ポケットからガラケーを取り出す。
「はい、もしもし」
おいおい、普通に電話出来るのかよと皆が突っ込みたそうな表情になった。
「うん、うん……うん。……え?」
梗が椅子から立ち上がる。
「わかった、今から行く。ありがとう」
電話を切ると、皆に告げた。
「ごめん、皆。自爆装置解除ミッションはこれで終了」
そして、アンドロイドの元へ歩み寄る。
「何ですか、こっちに来ないで下さい。私言いましたよね? 自爆しますよ?」
気にせずアンドロイドの元まで行くと、背中をポンと軽く叩く。
「あっ」
すると、胸元の辺りからポロッと手のひらサイズの丸い宝石みたいな物が出てきた。
「はい皆ー、ちゅうもーく。これが自爆装置でーす」
「どうして!? 私の体の中からどうやって!?」
アンドロイドが自分の胸元をまさぐるが、そこには何の異変も無い。
服も、アンドロイド自身も。
「じゃあこの自爆装置は……空」
「はい」
空が少し緊張した顔で返事をすると、その自爆装置を受け取る。
「一段階……いや、二段階まで許可する。これを消滅させるんだ」
「はい」
「ミスると爆発するからね? 慎重さは大事だけど、勢いも必要だ。出来るかい?」
「出来ます」
空がゆっくり目を閉じると、その身に纏う雰囲気が変わる。
その場にいる新人ヒーロー達の何人かが、ブルッと身震いした。
「うん、これなら大丈夫そうだね」
「………………」
空が自爆装置を両手で挟むように持ち、グッと力を込める。
数秒の間。
すると、パァン、と風船が割れるような軽い音がして、自爆装置が消滅した。
「よし、よくやった。偉いぞ」
あっさりやったように見えたが、そうでもなかったらしい。
ぶわっと汗がにじみ出し、髪が濡れて肌に貼り付いた。
梗が指先で濡れた空の髪を優しくかき上げる。
『えーーーーーーーー!!!!????』
その一連の様子を見ていた新人ヒーロー達が驚愕の声を上げた。
梗がポンと背を叩くだけで自爆装置を取り出したのも、空がその自爆装置を軽々無効化したのも。
何もかもに驚いていた。
「じゃあ空はこのまま皆の事を守ってあげてくれ」
「はい」
空から手を離すと、今度はキリンの方を見る。
「次はキリンだ。いいな?」
「はい」
力強く頷く。
「リーダー、どゆ事?」
「ちょっとね。会いたかった子が来たみたいで」
「…………まさか」
赫音が視線を鋭くする。
梗がそれに眉尻を下げて苦笑で返す。
「赫音ちゃん、もしかして怒ってる?」
「むっちゃ怒ってる」
赫音がムスッとした顔で口をとがらせる。
「あとで詳しく聞かせてもらうから」
「はい、約束します」
赫音にそう言った後、グッと拳を握る。
「久しぶりだとちょっと緊張するな」
表情を引き締めると、右拳を高く上げた。
「 幻 身 !」
声と共に、梗の全身が光り輝きだす。
黒い光だった。
存在しない筈の光だ。
同時にキリンの体も、同じく黒く輝きだしてその姿が変わっていく。
その外見は、知らぬ者が一見すると、馬。
だが、見る者が見ればわかる。
その姿は、神獣だった。
獣類の長とされる伝説上の存在、
キリンがその光り輝く体を光そのものへと変化させ、梗の纏う光の中に飛び込む。
その瞬間、梗の体が一層強く輝き、黒いスーツが全身を包みこんでいった。
体の中心から、頭、腕、足、そして手足の末端へ。
スーツが全身を覆い光が完全に消えると、そこには世界中の誰もが知っている、最強のヒーローの姿があった。
ヒーローは両腕を広げた後、片手を地に付け、ポーズを決めて名乗った。
「幻獣戦隊ファンタジアン、ファンタジーブラック!」
「きゃぁぁぁぁああああああああああああ~~~~~~~~~~!!!!!!」
その姿を見てエスタが興奮のあまり、鼻血を吹いてぶっ倒れた。
「じゃ、こっちもか」
ファンタジーブラック、キリンブラックの変身を見て、赫音が握った拳を真っ直ぐ前に伸ばした後、肘を曲げて手の甲を前に向けるようなポーズを取る。
「 超 幻 身 !」
赫音の体が赤く輝きだすと共に、真っ赤な炎が背から出てきてその全身を包み込んだ。
それは、翼だった。
麒麟同様、神獣である
鳳凰の翼だった。
身を包んでいた巨大な炎の翼がぶわっと広げられると、そこに赤いスーツを着たヒーローの姿が現れた。
ヒーローは腕を体の前で大きく振り、キリンブラック同様ポーズを決める。
「幻獣戦隊ファンタジアン、ファンタジーレッド!」
ファンタジーレッド、ホウオウレッドがキリンブラックの横に立つ。
「今は二人しかいないけど」
ホウオウレッドの言葉にキリンブラックが軽く笑う。
「「幻獣戦隊、ファンタジアン!!」」
二人の背後が、赤と黒の煙を上げて爆発した。
並び立つヒーローの姿に、沢山の黄色い声が辺りに響く。
「じゃ、ここを出るよ」
キリンブラックが手を伸ばして広げると、その手の中に一本の黒い槍が現れた。
シンプルなデザインの槍だった。
まるで長く真っ直ぐ伸びた一本の角を、そのまま武器にしているかのようだ。
「はっ!」
槍をひゅんひゅんと数回まわした後、何も無い空間を素早く斬り付ける。
すると、周りの風景が一瞬歪み、空気が変わった。
木々が焦げる臭いや、戦いの気配をその身に感じる。
封印が解けたのだ。
「あれ?」
封印が解けると、そこに二人の人物が立っていた。
「二人も来てくれたんだ」
槍を消しながら話しかけるキリンブラックに、二人が頷く。
「……リーダーの周りは本当にデカ乳ばっかだよね。収集家なの?」
「俺が集めてるみたいな言い方止めてくれるかなぁ!?」
キリンが梗の身の内でホウオウレッドの言葉に同意し、不満そうな感情を抱いているのが伝わる。
「くだらない事言ってないで、早く始めるわよ」
一人が苛立ったように梗を急かした。
不機嫌そうに組んだ腕に、重そうな胸が乗っている。
黒いメッシュの入った赤い髪で髪型がワンサイドアップの、赫音と同じ高校生位の少女だった。
「急いでいるんですよね? 準備は出来ています。いつでも大丈夫ですよ」
もう一人が、にっこりと人の心を穏やかにする癒しの笑みを浮かべる。
見た目の年齢は二十代前半位に見えた。
黒いメッシュの入った白い髪をねじって後ろでまとめたハーフアップの髪型がとてもよく似合っている。
「わかった」
二人の言葉にキリンブラックが拳を握る。
「お願いするよ、二人共」
少女と女性が、背筋を伸ばして頷く。
「行くぞ!」
握った拳を胸の前で合わせ、叫ぶ。
「 獣 王 身 !」
少女と女性の姿が変化していく。
少女は雄々しく巨大なドラゴンに、女性は大きな翼の生えた美しいペガサスとなった。
ドラゴンは赤と黒、ペガサスは白と黒の色にその身が染まっている。
ドラゴンとペガサスがキリンの時同様黒い光となり梗の体に飛び込むと、梗の全身が再度黒く輝きだした。
光の中でスーツに装飾が施され、更に新たなパーツが次々と装着されていく。
光が消えると、キリンブラックがまたもポーズを決めた。
「幻獣戦隊ファンタジアン、キングブラック!」
更なる強化を終えたキリンブラックに、ホウオウレッドが手を伸ばす。
「準備はいいみたいだね! さぁ、行こうか! リーダー!」
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