第39話 ヒーロー集結
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死んじゃいますよぉ! 囲まれまくってますよぉ!」
「水出しますからぁ……近付いたら水出しますからねぇ? 近付いたら駄目ですからねぇ?」
「クックック……いやいや、いい働きをしてくれたよ君達は。あれだけひ弱そうな声で喚かれたら、ヒーローを名乗る者なら来ざるを得ないだろう。これで残りのヒーローキラーが無駄にならずに済む」
平賀とユーリエとネロの三人は、案の定ヒーローキラーに囲まれていた。
色々な型が集まっている。
「きゃんきゃんきゃんっ」
そのヒーローキラー達に混じって、小さくころころとした可愛らしい毛玉が鳴いていた。
丸く毛をカットしたポメラニアンだ。
「「ひぃぃいいいい!」」
だが、そのポメラニアンを見てユーリエとネロが怯える。
「きゃん、きゃんきゃんきゃんっ」
毛玉がおぼつかない足取りでよちよちと歩み寄る。
「平賀さん平賀さん平賀さん!」
「あぁ~あぁ~近寄ってきますよぉ~」
震えながら二人が平賀に貼り付く。
というか絡みつく。
「たかが子犬じゃないか。何を怯える事がある」
「たかがじゃないですよ!」
「来ますよぉ来ますよぉ」
ポメラニアンが、短い脚にグッと力を込める。
「わふっ」
そして、跳ねた。
「「きゃああああああああ!!!!」」
「ギュガァァアアアアアアアア!!!!!!」
ポメラニアンの小さな口が突如ガバッと大きく開く。
胴までもが顎となっており、その口の中にはビッシリと鋭い牙が生えていた。
その牙は細かく振動し、超振動ナイフのようになっている。
ポメラニアンはヒーローキラー四型だった。
可愛らしい容姿で相手を油断させ、ヒーローに接近したところで急所を食い千切るのだ。
「自分で作っておいてなんだが」
平賀が右手でポメラニアンの鼻を掴む。
「近くで見ると気色悪いな」
次に左手で下顎を掴むと、そのまま真っ二つに引き裂いた。
「「ギャーーーーーー!!!!」」
中々にショッキングな光景に、ユーリエとネロが悲鳴を上げる。
「君達も見ていただろう? 待っていればヒーロー達が来るんだ。無駄使いしないでヒーローキラーはそちらにぶつけてくれないか?」
平賀がヒーローキラー達の奥に立つ、二つの人影に声をかけた。
「私じゃないわよ? この子が戦わせようとするんだもの」
「しぶとい」
シスとヒーローキラー一型だった。
「いい加減にしないか一型。ヒーローキラーを何体用意しようがそれを作った私に勝てるわけがないだろう」
「駄目、許さない。私は怒ってる」
無表情の中に怒りの感情が含まれているらしい。
見た目からはわからないが。
「計画が台無し」
「あぁ、皆を呼び寄せた事か?」
クックックと平賀が笑う。
「最初に捨て駒同然の扱いでヒーローキラーを島中にばらまいて、情報収集をして弱点を探り終えたらヒーロー達を各個撃破する。そういうつもりだったんだろう?」
「そう」
「それで思い通りにいかなくなったから怒っていたのか」
今、ヒーロー達は皆この場所に集まってきている。
一ヶ所に集まられてしまっては各個撃破なんて出来ない。
なので一型は、仕方なくヒーローキラー達もここに集めようとしている。
そうでもしないとヒーロー達に対抗できないからだ。
その顔を見て、平賀がやれやれと首を振る。
「私のミスだな。私は一型に力を与えたが、その力の使い方を教えていなかった」
「どういう意味?」
「一型。お前は戦いについて、お前が思っている以上に何もわかっていない。やり方考え方、あまりにも稚拙だ。まぁ知識が無いのはそれを入れておかなかった私に責任があるが……にしても、だ。そもそもお前は、戦略を立てるセンスが無さ過ぎる。はっきり言って向いていない」
「………………」
一型がジッと平賀を見つめる。
怒っているのか、落ち込んでいるのか、それとも何も思っていないのか。
何も変わらぬ表情からは全く読めない。
だが言われた言葉の意味は理解出来ていたらしい。
平賀に他のヒーローキラーをけしかけるのを止めていた。
「ほら、そういうところだ」
平賀が馬鹿にしたように笑う。
「ちょっと話をしただけですぐに意識を別な方に向けてしまい、警戒心を緩める」
空を指さす。
「ヒーロー達はもう、すぐそこまで来ているんだぞ?」
グォォァァアアアアオオオオオオオオオオオオ――――!!!!!!!!
鼓膜を通り越して脳を殴られたかのような雄たけび。
地が揺れ、空気がビリビリと震え、森の木々がガサガサと鳴る。
空から真っ赤に燃えたヒーローキラー達が次々と落下してくる。
金属のその身を、高熱で融解させて。
「竜王……いつの間に」
「ほらほら、また気が逸れているぞ?」
「え?」
「ジェイガーガン!」
飛来した光の弾丸が周囲にいた一体の二型の胴を撃ち抜き、上半身を砕け散らせた。
「ははは、絶好調だね」
「クラヴィスさんも」
醜悪なデザインの鎧を着た騎士が右手で四型の頭を掴んでいるのだが、四型は抵抗する事も出来ず、ぐずぐずと全身を崩れさせていく。
「これもう私が働く必要無くない?」
ジャージを着た女性が背負い投げをするように鎖を引くと、空から六型が降ってきて地面に叩きつけられた。
「こんなに早く……」
「驚く事じゃないだろう。相手はただの一般人じゃない、ヒーローだぞ? 移動速度をどんな計算で考えていたんだ。それに、お前が散っていたヒーローキラーをここに集めたから来るのが早くなったんだ。わからないのか?」
「どういう事?」
「バトルロイヤルは終わっている。新たな敵のヒーローキラーも花火目指して脇目も振らず移動している。となれば、何も警戒する必要が無い。ヒーロー達もヒーローキラー同様全力で移動する事が出来る」
「……英雄の盾がいる」
「ヒーローになれず悪も名乗れない半端者達だぞ? そんな奴らが何になる。そら、見てみろ。あれが答えだ」
平賀が指をさす。
「私よりも強いんだからそっちが持ってよ! 何で疲れてる私が人二人抱えて走らなきゃいけないのよ!」
両肩にそれぞれ英子と一〇二を抱えた、静流だった。
ガシャンッ
「邪魔!」
後ろから迫ろうとしてしていた三型は回し蹴り一発で破壊された。
「もういいでしょ、降ろすわよ」
一〇二をポイと地面に投げ、英子を優しく降ろす。
気絶している一〇二の顔には、殴られたのであろう拳の跡がくっきりと残っていた。
「全っ然酷くなんかないわよ。私殺されそうになったのよ? なのにあそこに放置しないでここまで連れてきてあげたんだから、むしろ優しい位よ」
一〇二をジッと見ている一型に、平賀が呆れた顔をする。
「何度言えばわかるんだ。集中しろ。もしかしてもう諦めて降参する気になったのか? 戦う気が無くなったのならこれ以上何も言わないが」
「無くなっていない」
一型が指示を出そうとすると、その足元にヒーローキラーの残骸が転がってくる。
「デコピンで破壊するって、くいなさん何ですかそれ」
「格好いいかと思いまして」
「残念ですが格好よさよりもその強さから感じる恐怖の方が大きいです」
「見ました? ぼたちんさん。あの人回し蹴り一発でロボット壊しちゃいましたよ?」
「……そうですね」
「ぼたちんさん全力で戦ってあれだけ苦戦してたのに、あの人ただのキック一撃ですよ? ねぇ、ぼたちんさんどう思います? ねぇ」
「…………チッ!」
葉達だった。
一型が一緒にいる羽の無い天使を見ると、天使が気まずそうに目を逸らす。
「さぁ、どうする一型。ヒーロー達がどんどんやってくるぞ」
どうすると言われても、正直どうしようもない。
ヒーローキラー相手に一騎当千どころか当万も余裕そうな化け物達が集まってきているのだ。
「それで? 先ほどからだんまりの君はどうしたのかな?」
ヒーロー達が集まり始めてから喋らなくなっていた、シスの事だった。
シスはある人物の事をジッと睨みつけていた。
「ねぇ……」
平賀に返事をしたわけでは無かった。
睨み付けていた相手を指さす。
「あなた」
気付かなかったらしい。
再度大きな声を出す。
「ねぇ、あなた。静流さん。あなたよ」
「え?」
名前で呼ばれて気付き、シスの方を向く。
「あなた、さっきから誰とお話をしているの?」
「は?」
静流が怪訝そうな顔をする。
「誰って、この子だけど」
指をさす。
「この子って、どの子?」
「だから、この子よ」
苛立った声になる。
「あのね、静流さん」
シスが真剣な顔で告げる。
「私達には、あなたの言っているこの子っていうのが見えないのだけれど」
「はぁ?」
静流が何言ってんだこの女という顔になる。
「いるじゃない、ここに」
肩に手を置く仕草をする。
「ほら、ここ」
だが、そこには誰もいなかった。
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