第38話 集結せよ、ヒーロー達よ!

 森が濃い霧に包まれていた。

 沢山の木が生えている筈なのに、自分の間近にある数本しか見えない。


「霧がもう意味を成していないわね」


 そう言った女性の元に、ヒーローキラー二型が霧に惑わされず真っ直ぐ走ってくる。


「さっきから何なのよこのロボット達は」


 もう一人、隣に立っている少女が手の平を向けると、つららのように尖った氷が二型に向かって飛ぶ。

 だが、二型はその手にある剣で氷をあっさりと砕いた。


「では」


 続いて女性が手を上げると、周囲に生えている木の根が二型に巻き付こうと動き始める。

 それを二型は剣で次々斬り捨てるのだが、ここは森の中である。

 斬っても斬ってもそこら中にある根が伸びてくる。

 根を斬っている二型に少女が再度氷を飛ばした。

 二型はそれを先程のように剣で砕く。

 だが、その隙を狙い根が今までに無い素早い速度で伸びてきて、遂に二型を捕らえた。

 この瞬間の為に今までわざと根をゆっくり動かしていたのだ。

 ぐるぐると巻き付いた根は機械の体を強く締め上げる。

 ギシギシと軋む音は次第にバキバキと装甲を割る音に変わり、遂にはその身を完全に砕き潰した。


「大丈夫ですか? みぞれさん。無理はしていませんか?」

「……大丈夫。ありがとう、アナスタさん」


 エルフの女性、アナスタと、雪女、霙の二人が互いの無事を確認して頷き合う。

 だが、霙は千尋にやられたダメージがまだ残っていて、万全ではなかった。

 今の氷も負担だったのだろう。

 顔色が悪かった。


「どこかで少し休みましょうか」

「……いい。その間にまたあのロボットに出会う方が怖い。それより早く移動して、誰かと合流したい」

「じゃあ、そうしましょうか」


 アナスタは笑顔で同意するが、内心どうしようかと考えていた。

 先程から襲ってきている謎のロボット達。

 最初は適当にあしらっていたが、ある時から急に手強くなった。

 こちらが倒しやすかった種類のロボットがあまり出てこなくなり、代わりに倒し辛い物ばかりが出てくるようになった。

 たまに倒しやすいのが出てきたとしても、動きや戦い方が最初に出会った時よりも洗練され、戦い辛くなっていた。

 ロボット達には情報を共有して学習する機能が付いているらしい。

 一度見せた戦い方が次出会った時には通用しなくなっている、なんて事があった。

 そこで、ロボットと出会う度に今まで見せていなかった魔法を使ったり同じ魔法でも違う使い方をしたりする事で何とか退けているが、それもいつまで続くだろうか。

 このままでは、いずれ負ける。

 いや、殺される。

 

「私の事、置いて逃げてもいいわよ」

「置いて逃げる位なら最初から追いかけていませんよ。いじけている暇があったら二人で生き延びる方法を何か考えて下さい」

「……あんた、見かけによらず言うわね」


 二人で生き延びる方法を何か考えて下さい、はアナスタの本音だった。

 これから一体どうするべきか。

 このまま闇雲に歩いているだけでは、いずれやられてしまう。

 ロボットとの遭遇率が上がっているのだ。

 二人は人がいる場所を探知する能力を持っていないので、このままだと人を見つけるよりも次のロボットに出会う方が早いだろう。

 アナスタは葉が追ってくる事を期待したりもしていたが、この様子だとそれも無さそうだ。


(何か他の人がいる場所を知る方法……)







『あ、あ、ああ、あのぉ~……』







「? 何かしら? 女の子の声……?」

「……誰?」


 島中に、声が響いた。

 気弱そうな声だった。


『今その、私……あ、いえ。今私だけじゃなくて、三人いるんですけど……』


「「?」」


『あ、その前に自己紹介必要ですよね。あの、私水の精霊で、』


 要領を得ない。


『そんな事よりもぉ!』


 声が増えた。


『早く誰か助けに来て下さぁ~い!』


「「???」」


 何が言いたいのかさっぱりだった。




『あはははは! そういうわけだ!』




 すると、また新しく別な人物の声が聞こえた。


『今のじゃわかりにくかったろうから、私から改めてわかりやすく言おう』


 突然、空に花火が上がった。

 



『私達はヒーローキラーに襲われている! だから早く助けに来てくれ!』




 大きな音が鳴る。

 花火はかなり目立っていた。

 きっと、島中にいる新人ヒーロー達全員が気付いただろう。


『場所は花火の上がっているところだ! だが……おや? おおっと、大変だ! これはいかん!』


「「…………」」


『これだけ派手にやらかせば、きっと島中にいるヒーローキラー達も私達の居場所に気付いただろう!』

『『え!?』』

『大変だ、ヒーローキラー達が集まってきたぞ?』

『『いやーーーーーー!!!!!!』』


「「………………」」


『ちょ、ちょちょ、ちょっと待って下さい! 話が違います!』

『守ってくださるんですよね!? ねぇ、守ってくださるんですよね!?』




『集結せよ、ヒーロー達よ!』




「「………………」」




『ヒーロー同士、皆で力を合わせ、この苦難を乗り切るのだ!』




「「………………」」


『というわけで早く来てくれ。じゃないと……二人程、死ぬぞ?』

『『いやーーーーーー!!!!!!』』


 その悲鳴を最後に、声が聞こえなくなった。

 色々と茶番くさかった。


「どう思います? 罠だと思います?」

「……ただの馬鹿だと思うわ」


 空を見上げると、六型等、飛行能力を持ったヒーローキラー達が次々花火の上がっている場所に集結していくのが見えた。


「では、どうしますか?」

「聞かなくてもわかるでしょ」


 アナスタの質問に、霙が不敵な笑みで返した。


「私達はヒーローなのよ? どれだけ胡散臭くて馬鹿みたいでも、」

「助けを求める声を無視するわけにはいきませんよね」










 花火を見た者達は島中にいた。










「はー……面白い事になりましたねぇ。どうします? ぼたちんさん」

「勿論行きますよ、花火のところに。放っておくわけにはいかないでしょう」

「まぁぼたちんさんはそう言うでしょうねぇ。くいな様達はどうしますか?」

「葉さんに合わせます」

「え~……私ですか? ズルくないですかそういう答えは」

「…………ぐす、ぐす……酷い、私の羽……食べられ……」

「それで? そこの羽無し羽人形さんはどうしますか?」







「よし、今のうちに反対方向に逃げるか!」

「赤羽さん!」

「嫌だなぁ、冗談だって冗談。でもあっちの方が近道かもよ?」

「え、そうなんですか?」

「あははははは!」

「そうそう、そうなんだ……うるせぇ! 無駄に笑うな酔っ払い!」

「あははははははははは!」

「はぁ!? なにして、おいこら、引っ張るな! 私行かないから! 行きたいなら勝手にお前らだけで行けよ! だから引っ張――おい! 止めろ! 離せ! ねぇ!? ちょっとぉ!?」







「行きましょうクラヴィスさん!」

「あぁ、勿論だ」

「じゃあ私はここで待ってるから。行ってら~」

「さぁ行くぞ」「さぁ行きますよチェーンさん!」

「うぇ~……」

「私は乗ってたロボット壊れちゃったから戦えないけどー……一人でいた方が危なそうだから付いてくっ」







「皆、早く私の背に乗れ」

「いいんですか? りゅーおーさま」

「構わん。空を見ろ。話をしている猶予は無い。早くしろ」

「あの……」

「えーと……」

「聞こえなかったか? 全員に言っているのだぞ。早くしろ」







「ゼクトよ」

「………………」

「これからどうする? 私達も行くか?」

「………………」

「おい、ゼクトよ」

「………………」

「ゼクト?」

「………………すぅ」

「何!? この非常時に寝ているのか!?」










 望む望まずは人それぞれなのだがともかく。

 ヒーロー達が今、集結する。









 

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