第37話 ヒーローキラー一型、三型

「それで? 状況はどうなの?」

「まぁまぁ」

「まぁまぁ?」

「まぁまぁ」

「そう」


 シスが中学生位の少女を見ながらクスクスと笑う。

 二人がいるのは道路のど真ん中だった。

 どうせ今は車なんか通らないからと、そこに椅子とテーブルを用意して二人で優雅に紅茶を飲んでいる。


「結構やられてる」

「あら、そうなの?」

「うん」


 少女はハーフパンツを穿いて少年のような服装だった。

 似合っていないわけでは無いのだが、長めの髪型もその顔だちも女の子らしく整っているので、もっと似合う服装があるのではないかと思えてしまう。


「結構やられてるのにまぁまぁなの?」

「うん、まぁまぁ」


 少女が紅茶をティースプーンでかき混ぜる。


「ヒーロー達の配置、持っている力、戦い方。それがわかれば……」


 スプーンを持ち上げると、チン、とカップを鳴らす。


「勝てる」


 彼女はヒーローキラー一型。

 ヒーローキラー達の司令塔としての力を持っていた。

 他のヒーローキラー達が見た物、知った物、それら全ての情報が彼女に集約される。

 そして逆に、ヒーローキラー達に情報を送り返したり、命令を出したりする事も出来る。

 彼女が勝てると言ったのは、情報を送受信する力を持っているからだ。

 今彼女はヒーローキラー達を戦わせる事で、ヒーロー達の持っている力、組んでいるメンバーを一通り把握した。

 それらを元に、ここからはヒーロー達の弱点をついた采配をとるのだ。

 

「……でも、一つ気になる事がある」

「気になる事?」

「うん。なんだかこの島は戦いにくい。戦力を調べる為だからあまり深く考えずに戦わせてたけど。だとしても何かがおかしい。ヒーロー達を一人も倒せてない。英雄の盾の皆もいるのに、彼女達も誰も倒せていない」

「…………そうなの」


 何故かシスはそれを聞いて、笑みを浮かべた。







            *







「あぁ、そうだ。ヒーローキラーは私が作った物だ」


 平賀が腕を組み、自慢するように告げる。


「ひ、平賀さんは英雄の盾なんですかぁ?」


 平賀から借りた白衣を着た淫魔の少女、ユーリエが怯えながら聞いた。


「まさか、違うよ。あれは盗まれたんだ」

「盗まれた? 本当ですか?」

「あぁ、本当だ」


 簡単に盗めるような状態で保管しておき、わざと盗ませた、が正解なのだが。


「それにしても……」


 平賀が呆れた顔で足元を見下ろす。


「いい加減落ち着いたらどうだ?」

「……ぁあどうしましょうどうしましょうどうしましょうこれからどうしたら……」


 平賀の足に縋りついてブツブツと呟いていたのは、ガスマスクを被って青い半透明のドレスを着た水の精霊の少女、ネロだった。


「君は一度トラブルが起きるとてんで駄目なんだな」


 


 ガシャンッ!


 



「ひぃ!」

「ひ、ひひ平賀さん! また来ました! また来ましたよ!」

「……私が倒してしまってはデータが取れないし、他のヒーローと戦ってほしいので出来れば逃げてしまいたいところだが……」


 あわあわと慌てているユーリエと、ガタガタ震えているネロを見て仕方ないなと首を竦める。


「やるとするか」


 歩いてきたのは背の高さが三メートル程あるロボットだった。

 足は逆間接になっており、両手の指の先端に丸い水晶玉のような物が付いている。

 ヒーローキラー三型だった。

 大きな胴に魔力を溜め込んでおり、指先から魔法を放つ事が出来る。

 魔法への耐性が低いヒーローと戦う為の型だ。

 その為に全身を網目状にした物理攻撃無効の魔法で包んでいる。


「三型は貴重な部品も多い。なるべく傷つけたくは――」


 三型の指が光るとそこから電気の帯が走り、平賀へと襲い掛かる。


「こんなものだったか」


 だが、電気の帯は平賀に触れる寸前、避けるように二股に分かれ後方に伸びていった。


「作っているうちは気付かないものだな」


 三型の別な指が光ると、今度は平賀に向かって大きな火球が放たれる。

 だが、それもやはり彼女に触れる直前で分散してしまう。


「失敗作とまでは言わないが……」


 白衣のポケットに手を入れると、そこから一枚のビスケットを取り出す。

 それをパキッと半分に割り、半分をユーリエに手渡すともう半分を手の中でぐしゃぐしゃに砕いて粉にした。


「平賀さん、このビスケットって……」


 そして三型に向かってその粉末を吹きかける。


「ふっ」


 風に乗って三型にかかる粉末。




 ちゅどーーーーーーん!




「「!?」」


 三型が爆発四散した。


「粉末にする事で使えるようになる、爆弾だ。これなら魔法の隙間から入り込んで本体を破壊する事が出来る」

「ば――!?」

「爆弾!?」

「あぁ、君に渡した半分も同じ爆弾だからな。大事に扱ってくれよ」

「ひぃぃいいいい!」


 ユーリエが返そうとするが平賀は受け取らない。


「これ以上ヒーローキラーを無駄に壊したくはない。早く他のヒーロー達と合流しよう」

「そ、それよりこ、これ! 爆弾を! 爆弾を早く!」

「平賀さぁん……もう帰りましょうよぉー……」

「君達は少し落ち着きたまえ……ん?」


 平賀が何かに気付く。


「誰かいるな」

「誰かよりもこの爆弾を!」

「ひぃ! 誰かって誰ですか!? 英雄の盾ですか!?」

「……君達二人揃ってその度胸の無さは、まるで姉妹だな」

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