第34話 竹刀
「アハハハハハハ! アナタ最高デスヨ! サワ!」
ハースが大喜びで早和の頭に鉈のような武器を振り下ろす。
早和がそれを竹刀で受け流す。
竹で出来た竹刀で刃をそのまま受け止めれば切断されてしまうからだ。
ハースの戦い方は独特だった。
まるで踊るように、体を大きく動かしながら戦う。
全身のバネを生かしたその戦い方は動きが不規則で予測し辛い。
彼女の攻撃は一撃が重く、どうやら大きな振りは無駄な動きのようで効率よく体重を込める為のものらしい。
そして彼女の戦い方は剣での攻撃の中に蹴り等の格闘が混じり、更に砂を目に向かって蹴り上げたりと卑怯な事も平気でやる。
攻撃の流れの中にそれら全てが自然に組み込まれているのだ。
早和が今まで出会った事の無い戦い方だった。
「ねぇ、サワ!」
「…………」
「楽しいデスネ!?」
それを聞かれ、早和が答えた。
「はい!」
早和も笑顔だった。
ハースは今まで見た事の無い戦い方で、卑怯で。
だが、早和はそれを楽しんでいた。
こういう戦いは貴重なのだ。
圧倒的に力の差があると、戦いは楽しめない。
自分が上過ぎても下過ぎても、互角の戦いは出来ない。
だから、ハースと同じ位に早和もこの時間を楽しんでいた。
「オ?」
早和がハースの鉈を弾き、距離を取る。
「いけない事だとはわかっていますが……」
竹刀を構え、ゆっくりと引いていく。
「楽しいです!」
そして、その竹刀をハースに向かって真っすぐ突き出した。
「アハッ!」
竹刀が届く距離ではないのに、ハースが回避する。
すると、ズドォン、という重い打撃音と共にハースの後方にあった木が大きく揺れ、ゆっくりと倒れていった。
「凄いデスネ! どうやってるんデスカ、ソレ!」
「内緒です」
「アハハ、そうデスカ!」
すぐさま駆け寄り竹刀で斬りかかる早和の攻撃を、ハースがかわす。
「さっきのは!」
「!?」
攻撃を回避され体勢が一瞬崩れた早和の体にハースが蹴りを入れる。
「あっ、ぐぅ!」
「出す前に必ず溜めが必要みたいデスネ!」
苦しむ早和に向け、ハースが鉈を下から斬り上げるように振るう。
「っ!」
それをギリギリのところで顔を振って回避した早和に、もう一撃ハースの蹴りが入る。
「そんな隙、与えませんヨ!」
二発目の蹴りが早和をふらつかせる。
その脳天に向かって、ハースの鉈が振り下ろされる。
「ふぅ!」
竹刀で何とか受けるが、受け流す余裕が無かった。
頭への直撃こそ避けられたが、竹刀が切断された。
切断面から竹の破片が飛び散る。
「終わりデスネ!」
半分以下の長さになった竹刀では不利と悟った早和が、あの不思議な攻撃をする為の溜めを行う。
「遅いデス!」
「いえ」
溜めは先程と比べ短時間だった。
「十分です!」
「!?」
パァン! と破裂音がすると、切断された竹刀が弾けた。
その弾けた破片が散弾のようにハースの全身に突き刺さる。
「アァアアアアアアアアアア!!!!」
破片の勢いにハースが吹き飛ばされる。
「ガハッ、ア、ァ……」
いくつかの破片は、ハースの腕や体を貫通していた。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
「オ、見事デス……」
全身から血を流しながら、ハースが笑う。
「私の勝ちですね」
ふぅ、と早和が息をつく。
「良かった。命に別状は無いみたいですね」
「ア、ハハ…………厳しいデスネ……命に別状、ありますヨォ……」
破片は柔らかい皮膚はともかく骨を貫通する程の威力は無かったらしい。
臓器にも致命傷となるダメージは無かったようだ。
早和はそれを見るだけで瞬時に判断したのだ。
だが、大怪我に変わりはない。
治療が遅ければ死に至る。
ハースに異物感と痛みを与える、体内に残った破片を取り出すのも一苦労だろう。
それを理解した上でその言葉を言える早和を見て、ハースは苦しそうにしながらもその出会いを感謝するように口角を上げた。
「サワ……」
「はい」
「負けたワタシが言うのも変な話デスガ……アドバイスです」
「アドバイスですか?」
「ハイ。……アナタは、もっと強くなれマス」
「…………」
「アナタの力を生かすナラ……その木で出来た剣にこだわる事、無いデス」
自分に突き刺さった破片の一つを指さす。
「こういう戦い方が出来るアナタなんデスカラ、わかっていますヨネ?」
「………………」
少しだけ沈黙した後、早和が笑みを見せる。
「いえ、そんな事はありませんよ」
残った竹刀の柄をハースに見せる。
「私の求める強さは、これなんです。ですから、私はこれでいいんです」
「…………そうデスカ」
ハースがゆっくりと目を瞑る。
「ところデ」
「はい?」
「お友達はいいのデスカ?」
「お友達……」
空を見上げる。
「大丈夫な筈です」
心配そうにしながらも、声色には厳しさが含まれている。
「彼女は自分をヒーローだと言いました。なら必要以上の心配は彼女に対する侮辱になります」
ギュッと竹刀の柄を握る。
「彼女だって、ヒーローなんです」
「じゃあ、このまま見てマスカ?」
「まさか」
それを空に向けた。
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