第33話 ヒーローキラー五型
森の中を黄色い砂の波が走る。
砂の波は触れた草木を一瞬で削り取り、通った後には何も残らない。
例え太くて大きな木であっても、その砂の波の前では障害物にすらなり得なかった。
根元を削ぎ落とし、倒れたところを一瞬で飲み込む。
その砂の波は、ヒーローキラーだった。
ヒーローキラー五型。
砂のように小さな粒、その一つ一つがヒーローキラー五型なのだ。
触れた物質を一瞬で分解する能力を持っている。
一つ一つが小さくても、これだけの数が集まれば脅威になる。
そして、彼等は闇雲に動くのではない。
一つ一つがしっかりと獲物を認識し、襲い掛かってくる。
下手に攻撃しようと近寄れば、すぐさま分解の波の餌食だ。
「う~へ~……こ~え~……」
「……はい」
それを少し離れた場所から身を隠しつつ見ている二人の人物がいた。
赤羽と美亜だった。
森の中を歩いていた二人だが、木の倒壊音と破壊音が接近してきたので慌てて隠れたのだ。
巻き込まれずに済んだのはたまたまだった。
そして、気付かれずに済んだのもたまたま。
もしそれをまっすぐ進むだけの意思の無い災害みたいなものだと思い身を隠さずにいれば、気付かれ追われ、今頃髪の毛一本残さず分解されていただろう。
「一応確認するけどさ。……まさかあれと戦おうなんて言わないよね? 言っても付き合わないけど」
「言いませんよ。そんな無謀な事はしません。あれは私には無理です」
そう言って細身の剣を見せる。
確かに剣で倒せる類の物ではない。
「んじゃここであのおっかないのを見送って……あー」
「あ!」
二人の表情が変わる。
「人が!」
「死んだなありゃ」
砂の波が進む先に、人が立っていた。
「どうしましょう、大変です! 気付いてません!」
「南無~」
二十代前半の女性だった。
肩からクーラーバッグを下げており、そこから出したのだろうビールの缶を持ってふらふら呑気に歩いている。
「助けに行かないと!」
「いや無理でしょ。着いた時にはもう無くなってるって」
「わーーーーっ! わーーーーーーっ!」
「何してんだおい止めろこの馬鹿! こっちに呼ぶな!」
美亜が大声を出して呼び寄せようとするので、赤羽が口を塞ぐ。
「ムーーーーッ! ムーーーーーーッ!」
「こら暴れるな! あいつはもう死んだ! 諦めろ!」
砂の波は進行方向を変えない。
声に気付いていないのか、気付いていても目の前の獲物を仕留めるのが先だと考えているのか。
「ん?」
だが、女性は声に気付いた。
「あー?」
砂の波にも。
「ムゥゥウウウウ!」
「間に合わなかったね……。クソッ、英雄の盾! 何て酷い奴らだ!」
だが気付いてももう遅い。
砂の波が女性を飲み込もうとその高さを上げた。
まるで餌を飲み込もうと大きく口を開けたかのようだった。
「何だこれ」
女性が波に触れようとするように、右手を伸ばす。
「ムッ……ぷはぁっ、あーーーーーー!」
美亜が赤羽を振りほどき叫んだが、もう遅い。
「私はこの悲劇を忘れないっ、いつか必ずこの報いを英雄の盾にっ」
赤羽は拳を握りながら何か薄っぺらい事をほざいていた。
「あははは、飛んでけ~」
「「え?」」
一瞬、二人は何が起きたのかわからなかった。
あらゆる物を分解する砂の波が、ぐるぐると渦を巻きながら逆に分解されていったのだ。
波として集まっていた物がただバラバラにされたのではない。
一つ一つが渦の中で粉砕されていた。
「何あれ」
「…………風?」
美亜の言う通り、風だった。
女性の右手から、小さな竜巻のような風が出ていた。
それが砂の波を丸ごと巻き込み、一つ残らず粉々に砕いたのだ。
「すっげー、強っ」
「それより! 赤羽さん!」
「ん?」
「さっきの事ですけど!」
「あー」
流石に怒ったらしい。
「ぜんぶ吹っ飛んだー、あはははは!」
女性は何がおかしいのかビールの缶を振り回しながら馬鹿笑いしている。
「とりあえず会いに行こう」
「そうですけど、それよりまず、」
「あぁいう使えそ……強い知り合いは一人でも多い方がいいしね」
「また! 赤羽さん!」
「嘘嘘、冗談冗談。ほら行くぞー。おねーさーん! 大丈夫でしたかー!」
「あ!」
赤羽が女性に向かって全速力で走り出した。
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