第35話 魔法少女とヒーローキラー
空中で命がけの追いかけっこが続いていた。
パンプキンシードとヒーローキラー二型だ。
二型は魔法が効かず、パンプキンシードの飛行速度はそこまで早くない。
この戦い、全てにおいてパンプキンシードが不利だった。
「ふっ、ん!」
パンプキンシードが魔法のステッキを振る。
すると目の前に一抱え程の大きさの星がいくつも舞った。
星は石のように固く重いので、普通ならこれで相手を撃墜できる。
だが、すぐさま二型がその星を切り裂いた。
魔法で作られた物では二型には通用しない。
パンプキンシードも二型に魔法が効かない事は知っている。
一瞬の障害物にでもなればいいと思って星を放ったのだ。
「ひっ!」
本当に一瞬の障害物にしかならなかった。
二型の右手から伸びた剣がパンプキンシードを切り裂こうとする。
それを回避する為に、自分を浮遊させている魔力を切って落下する。
パンプキンシードは近接格闘の経験なんて無い。
こうするのが精一杯だった。
二型はすぐにそれを追ってくる。
落下する彼女よりも速く。
「えい!」
再度魔法を放つ。
今度はぼわん、と白い煙が出た。
二型が気にせずその煙に突っ込む。
その煙に何の効果があったとしても二型には通用しないのだ。
だが、それがパンプキンシードの狙いだった。
二型が煙に突っ込んだタイミングを狙って、真横に飛んだ。
そこで再度煙を発生させる。
自分の姿を見失わせる為だ。
魔法が通用しなくても、魔法で作った煙で視界を覆う事は出来る。
「えっ?」
だが、その考えは甘かった。
「ひゃっ」
二型は視覚以外のセンサーも持っているらしい。
あっさり居場所がバレ、向かってきた。
再度星を出し、盾代わりにする。
更に、その星に魔法をかける。
巨大化の魔法だ。
星が何倍ものサイズになり、互いの視界を遮る。
と、同時に星を蹴り、距離を取った。
その直後、星が砕かれパンプキンシードのいた場所を斬撃が走る。
何度も同じ手は食わないと、星を斬るのではなく反対側の手で砕き、その星の向こうにいるであろうパンプキンシードをすぐさま斬ろうとしたのだ。
星のサイズを大きくしても、二型に対しては何の効果もなかった。
一瞬で破壊されてしまった。
(あ、危なかった……!)
バクバクバクバクと激しい心音が聞こえる。
幼い少女の頭の中は、焦りと死への恐怖でいっぱいだった。
(どうしようどうしようどうしよう!)
二型に攻撃されるその度、彼女は死にかけていた。
死なずに済んでいるのは本当に運が良かっただけ、奇跡が連続で起きただけだ。
実力なんかでは無い。
彼女に実力なんか無い。
魔法少女として魔法は使えるし、戦闘についての知識もある。
だが、実戦経験はほとんど無い。
(だって、魔法が効かない!)
彼女は自分の魔法に自信があった。
毎日練習をし、魔法の勉強も欠かさなかった。
そのお陰で様々な魔法が使えるようになった。
だからと言って自分が強いだなんて自惚れてなんかいないし、戦闘経験の少なさも自覚している。
けれど、通用すると思っていた。
自慢の魔法と勉強で得た戦闘知識があれば、それなりに戦える筈だと。
なのに、結果はこれだ。
魔法が一切通用しない相手がいる。
そして、自分の頭の中にある知識は今何の役にも立たない。
何も、通用しなかった。
無力感が更に思考を鈍らせる。
(私……)
集中力を一瞬途切れさせてしまった。
今はそんな余裕なんて無いのに。
その一瞬の気のゆるみが、死を招く。
「ぁ」
横薙ぎに振るわれる凶刃。
「馬鹿ですかあなたは!!!!」
「!?」
大きな声にハッと気が付き、パンプキンシードの意識が戻る。
ドゴン、と重い音がして、二型が吹っ飛んだ。
「こんな場所でぼんやりするなんて! 馬鹿としか言いようがありません!」
「それ……」
聞き覚えのあるセリフだった。
似たような事を自分が言った記憶がある。
「早和さん……」
今自分を怒鳴りつけた、早和に向かって。
二型を吹き飛ばしたのは、早和の持っていた竹刀の柄だったらしい。
どうして柄だけになっているのかパンプキンシードにはわからないが、近くに倒れている褐色肌の少女を見れば、彼女が武器を破壊される程の激戦を繰り広げながらもその戦いに勝利したのだという事がわかる。
「………………」
それ以上の手助けをする素振りは無く、何かアドバイスを言うでもない。
ただ一つ、早和は頷いた。
信じる者の目で。
(…………そうだ)
ギュッとステッキを握る。
「はい!」
そして、はっきりと大きな声で返事をした。
「そうですよね」
吹き飛ばされはしたが、ダメージにはなっていないらしい。
距離もあったし、柄だけだったので威力も不十分だったのだろう。
すぐにまた二型が戻ってくる。
「そうでした」
パンプキンシードがステッキを二型に向け、叫ぶ。
「変身、解除!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます